マスク送りつけ商法(ネガティブ・オプション)(2021.7.30追記)

相次ぐ「マスク送りつけ商法」手口と対策は

https://www.news24.jp/articles/2020/04/28/07634138.html 0テレNEWS24 2020.4.28.

COVID-19(新型コロナウィルス感染症)がらみの悪質商法が急増しています。
このマスク送り付け商法も、その一つです。対処法は、基本的に「放置・無視」でよいのですが、放置・無視できなかった方も慌てることはありません。クーリング・オフ等が使えます。
そして、事業者がターゲットとなった場合の対策も書いておきます。

送りつけ商法(ネガティブ・オプション)とは、売買契約に先立って商品を自宅などに送りつけ、電話や文書により契約を迫るという商法です。

最近は、健康食品・魚介類など、食品の送りつけ商法が相次いでいます。

外部リンク:国民生活センター

ネガティブ・オプションってなんだかネガティブになりそうな言葉ですね。なんでそんな名前なんだろ?

「ネガティブ」とは「否定的」という意味ですね。拒否するまで送り続ける、という手法なので、そういう名前が付いているようです。
これに対して、ポジティブ・オプションは、購入の「積極的」な意思を確認してから送る、という手法です。まあ、ふつうのことですが。

悪質商法は、だいたい、不意打ち的に、家に人や電話が来ます。

ところが、このネガティブ・オプションは、まずは、商品が不意打ち的にくるわけです。そして、しばらくして「商品は届きましたか」として電話や文書が来ます。

そっか、送ってくるだけじゃなくて、その後に何か勧誘がくるんだね。

勧誘としては、

・「ご家族が商品を注文されている」
・「商品を買ってもらう義務がある」
・「もし買ってもらうなら、そちらの負担で商品を返送してもらわなければならない」
・「商品を引き取りに行くが、交通費がかかる」

などというセールストークがあります。

いきなり商品を送り付けることそのものが違法というわけではないんです。

うーん、そういうやり方があるのか。でも、こんなやり方ではお客さんの信頼は得られないと思うけど。

買わなきゃいけないの?

もちろん、送られてきただけでは、法律的には、売買契約は成立していません。

そうなんだ、よかった。じゃあ、返すだけでいいのかな。あ、返すのは着払いでいいのかな?面倒だな・・・

いえいえ。買う義務も、返送する義務もありませんよ。

しかし、消費者の心理としては、業者が怖くて、あるいは話をするのが面倒になって「もう買ってしまうか」と商品を買い取る、ということがあり得るわけです。

では、無視して、買わない・返送しないとして、ずっと保管しなければならないのでしょうか。

特定商取引法59条1項は、業者は、商品の送付日から14日(あるいは消費者が業者に引取を求めた日から7日)経過した日以降は、引取を求めることはできない、としています。ですから、消費者は、届いてから14日経過すれば、さっさと処分しても構いません。(*後記のとおり、2021年7月6日以降は、即時処分もOKになりました。ご注意ください。)

また、商品の後に「買ってください」という電話がきて、つい商品を買ってしまった後でも、特定商取引法の電話勧誘販売に当たりますから、契約書面の交付から8日間は、クーリング・オフができます(特定商取引法24条1項)。

クーリング・オフって便利だね。

受け取った書面に不備があれば、8日間超えててもできる場合がありますよ。

外部リンク:消費者庁

今回のマスク送りつけ商法は、事業者も狙われる可能性がありますので、念のため。

そうそう、うちの会社にも、紳士録やデータが送られてきたことあるぞ。マスクも送られてくるかもな。

特定商取引法59条2項は、「前項の規定は、その商品の送付を受けた者のために商行為となる売買契約の申込みについては、適用しない」とあります。

まず、いわゆる非営利法人(宗教法人、社会福祉法人、医療法人など)の場合は、マスクの売買は、通常は「商行為」に当たりませんので、消費者と同様に考えることができます。

これに対して、株式会社や営利目的の個人事業主の場合などは、マスクの売買は「商行為」となり、特商法59条1項の適用がないこととなります。業者は、平常取引する者ではなく商法509条の諾否通知義務も負わず、基本は「放置・無視」でよいことには変わりません。ただし、保管については、民法第659 条(無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う)の類推により「自己の財産と同一の注意義務を課される」と解する余地もありますので、注意が必要です。

ただし、処分したであろう頃を狙って、あとから業者から損害賠償が請求されたとしても、そのような濫用的な請求は許されないでしょう。

追記(2021.7.30)

さて、ネガティブ・オプションについては、2021年7月6日に改正特定商取引法が施行されました。

その結果、届いたものについては、14日待たずして、すぐに処分することができるようになりました。

こちらのチラシがわかりやすいですね。

外部リンク:消費者庁「特定商取引法が改正されました」(PDFへの直リンク)

また、被害にあったら、ひとりで悩まずに、188(いやや)消費者ホットラインに電話し、消費生活センターに相談してください。

外部リンク:188 消費者ホットライン(国民生活センター)


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください