「電気」と「インターネット」の電話勧誘にご用心

野太い声、明らかに別人 高齢者へ不当勧誘、捏造の実態

https://digital.asahi.com/articles/ASN6B7FY8N6BUTIL01Y.html
朝日新聞デジタル・紙面2020.6.11

はじめに

2020年6月11日、東京電力エナジーパートナーから電話勧誘業務の委託を受けた「りらいあコミュニケーションズ」が、電力供給契約の勧誘についての通話記録を改ざんしていたことが判明したとの報道がありました。

「りらいあ」も、同日付でプレスリリースを出して、不適切な勧誘と編集があったことを認めています。

外部リンク:りらいあコミュニケーションズ「本日の一部報道について」

まさか、上場企業が、こんなことをやっていたなんてね。報道によれば、1件だけでなく、複数あったようだけど、全部で何件くらいあったのかな。
きちんと調べてほしいね。

電力やインターネットの電話勧誘の問題が近年増えています。

きょうは、電話のセールス(コールド・コーリング)について、勉強してみましょう。

電話勧誘販売

さて、先日お話しした、マスクの送りつけ商法について、「特定商取引法」という法律が出てきたことを覚えていますか?

ああ。たしか、通信販売や訪問販売について、規制されているんだったよな?
訪問販売の場合にはクーリング・オフもできる場合があるんだったな。

実は、家を訪問して勧誘することだけでなく、電話で勧誘することも、この「特定商取引法」で規制がされているんです。これを「電話勧誘販売」といいます。

契約は、ふつうは、自分で「これがいいかな?それとも、あれがいいかな?」と考えて選ぶものですよね。

ところが、訪問も電話も、「こんにちは。これを買いませんか?」とアプローチしてきます。それも、突然、家や電話での会話というごく私的な領域に踏み込んでくるわけです。

特定商取引法は、このような「不意打ち」の契約勧誘から消費者を守ろうという法律なのです。

実は、特定商取引法の規制目的はもうひとつあって、「複雑で誘惑的な」取引を規制するというものです。その典型的なものが、連鎖販売取引(マルチ商法)です。

記事はこちら。
内部リンク:大学生は「夢」と情報マルチに気をつけて

「電話勧誘販売」となる場合は、つぎの2つです。

  1. 事業者が電話をかけて勧誘を行い、その電話の中で消費者からの申込み(または契約の締結)を受けた場合
  2. 事業者が次のいずれかの方法により消費者に電話をかけさせて勧誘した場合
    ① 当該契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電 話をかけることを要請すること
    ② ほかの者に比して著しく有利な条件で契約を締結できることを告げ、電話をかけることを要請すること

これも、訪問販売によく似ています。
欺瞞的な方法で事業所に呼び出す「アポイントメントセールス」は、「訪問販売」になるのですが、このように「電話をかけさせる」手法も、電話勧誘販売になるのです。

なお、2016年の電力自由化により、電力小売の電話勧誘販売の相談件数は急増しています。背景には、この報道にもあるような、強引で欺瞞的な勧誘が横行していることがあります。

外部リンク:国民生活センター「電力・ガスの勧誘を受けた際には契約先・契約内容をよく確認しましょう-消費者庁が特定商取引法違反で行政処分も行っています-」

電話勧誘のあとにきた書類を無視すると・・・

あのね、この電話録音改ざん報道で、少し気になったのは、ここなんだよね。

引用元:朝日新聞デジタル2020.6.11

これさあ、業者は、なんで、この部分をカットしたのかな?
書類が届いてから契約成立なんじゃないの?

はい。ここは、事業者としては、絶対削除したかったところだったのですよ。

なぜ、事業者は、この部分を削除したかったのでしょうか。

実は、電話勧誘販売は、「電話での会話だけで契約が成立する」ことを前提としている取引なのです。

事業者は、電話の会話だけで契約が成立した場合には、特定商取引法19条に定められた書面を送る義務があります。

消費者は、この(編集前の)会話で、「なあんだ。あとでくる書類にさえサインしなければ契約したことにならないのだな。安心。」と思っているかもしれません。でも、実際には、契約は成立しているのです。

電話のみで契約が成立しており、その後、19条書面が送られてきた場合、消費者がこれを無視するとどうなるか。「書類送ってないから、ほっておいても大丈夫だろう」と考えて8日間経ってしまうと、なんと、クーリング・オフができなくなってしまうんです(特定商取引法24条)。

ははーん。なるほど。
それを狙っていたのか!悪いやつだな・・・

そうでうすね。想定されるのは、故意のケースか、あるいは、担当者が、電話勧誘販売と19条書面の意味について、本当に全く知らなかっただけかもしれませんね。

いずれにしても、「契約が成立した」ということを消費者も理解していたことにしないと都合が悪かったので、カットして、改ざんしたのでしょう。

もちろん、このケースでは、業者の「契約は成立していません」という説明は、明らかな不実告知あるいはクーリング・オフ妨害にあたるので、取消しやクーリング・オフができますよ。

ひゃあ、怖いね。でも、電話だけであっさり契約が成立しちゃう、というのはびっくり。

じゃあ、業者が電話で勧誘してきた後に、そこでは話が決まらないで、自宅に来てそこで契約をしたら、どっちになるの?

その場合は、訪問販売になります。
ポイントは、「どこで契約が成立したか」、ということになりますね。

こうまとめておきましょうか。
① 電話だけ・・・電話勧誘販売
② 電話のあと郵便・FAX・メール・・・電話勧誘販売
③ 電話のあと訪問・・・訪問販売
④ 電話のあと店舗・・・店舗販売(原則として特定商取引法の適用なし)

電話勧誘販売については、クーリング・オフのほか、不実告知などによる取消し、過料販売解除など、いくつか消費者が救済される仕組みがあります。

インターネットの電話勧誘は

あのさ、電力もそうなんだけど、うちの会社にも、最近、いっぱい勧誘の電話がかかってくるんだ。
光回線、インターネットの勧誘なんだけど。
これも、特定商取引法で規制されているんだろ?どうにかしてくれないかな。

インターネット回線などの通信契約については、特定商取引法の適用は、ありません。

インターネットや電話などの通信サービスについては、総務省の管轄で、電気通信事業法という法律によって消費者保護がはかられています。

一応、光回線の契約についても、クーリング・オフに似た「初期解約制度」というものがあります。

ただし、工事代金や事務手数料、前の契約の復元にかかる費用などは、自己負担になりますので、特商法上のクーリング・オフよりも消費者にとって不利となります。

これも、電話勧誘販売と同じで、放置すると、解約できなくなりますよ。

ややこしいんだね。

いわゆる「たてわり行政」ですね。

電気通信も、電力とほぼ同じ時期に、2015年にNTTによる小売がはじまりました。いわゆる「光卸し」です。そして、やはり、電力の小売と同じように、電話勧誘により高齢者が被害を受けるケースが相次いでいるのです。

外部リンク:国民生活センター「光回線サービスの卸売に関する勧誘トラブルにご注意!第2弾-安くなると言われても、すぐに契約しないようにしましょう-」

2018年度の調査で「60歳以上の契約当事者が全体に占める割合は51.0%」なのか・・・完全に高齢者がターゲットになっているな。

うちの親、ひとり暮らしだけど、大丈夫かな・・・

さて、もう一つデータを。
総務省が定期的におこなっているモニタリングでも、2018年度は、FTTH(光回線など、固定のインターネット通信サービスのこと)の相談が35.6パーセント(前年比+1.8ポイント)と増えています。
外部リンク:平成30年度消費者保護ルール実施状況のモニタリング (評価・総括)

では、苦情相談の内容をみてみましょう。

一番右が、FTTHサービスですよ。

ひゃあ、電話勧誘が半分以上なんだね。しかも、前の事業者からの乗り換えを勧められたというケースがほとんど。

インターネットの契約って、結構複雑だよな。
高齢者が、電話だけで、それを聞いて理解できるとはとても思えないが。

同じ資料から、覆面調査の内容も。これも、けっこう、衝撃的です。

引用元:総務省平成30年度消費者保護ルール実施状況のモニタリング (評価・総括)15頁

これでも前年よりもマシになっているのか・・・
これさあ、電話で契約するの、無理じゃないかな?

はい、私も、そう思います。少なくとも特定商取引法の適用を認めるか同程度のクーリング・オフができるようにするなど、より保護を強化しなければ、この被害はなくならないと思います。

販売者とプラットフォームの分離:新たな消費者問題

ここ最近、2回にわたり、新しく成立した法律、特定デジタル・プラットフォーム透明化法、金融サービス提供法(改正金融商品販売法)の話をしてきました。

そして、今日お話しした、電力の小売、インターネットの卸し。これに共通するのは、実は、「商品やサービスを提供する人」と「売る人」の分離、ということなんですよね。これは現代の消費者問題の大きな特徴です。そして、この傾向は、今後、急速に強まっていくでしょう。

ところが、旧来の消費者保護法制は、「提供する人」=「売る人」という前提でてきている法律が多いです。これでは、誰にも責任を追及できない、というケースも増えていくでしょう。

旧来の消費者保護法制が、このよどみない動きについていけるか。それが、現在、問われているのです。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院客員教授(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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