大学生は「夢」と情報マルチに気をつけて

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大学生等に高額な投資学習用USBメモリーを販売する連鎖販売事業者に3か月の業務停止命令

https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/torihiki/shobun/shobun200521.html
東京都(東京くらしWEB)

はじめに

大学生の皆さんは、せっかく大学に合格したのに、Covid-19(新型コロナウィルス感染症)のため、なかなか大学の構内にも入れない状況が続いていますね。

さて、そんな中、今日は、とくに大学生が被害にあいやすい、情報商材とマルチ商法(連鎖販売取引)について、解説します。

これは、ひとり暮らしの学生の親の立場でも気になるな。
大学の授業もない、サークルもないとすると、こどもが暇でこういうのに手を出すんじゃないかと、心配だ。

連鎖販売で業務停止命令

東京都は、2020年5月21日、大学生などに高額な投資学習用USBメモリを販売していた連鎖販売事業者に対して、特定商取引法に基づく3か月間の一部業務停止命令、また、代表取締役に対しては、同種業務の開始禁止を命じました。

外部リンク:東京都「大学生等に高額な投資学習用USBメモリーを販売する連鎖販売事業者に3か月の業務停止命令」

東京都消費生活行政公式Twitter

東京都の消費生活行政のTwitterは、とても積極的に情報を発信していますね。

「連鎖販売」=マルチ商法

はい、質問です!
まず「連鎖販売」って何ですか?チェーン店の取引のこと?

はい。そうくると思いました。チェーン店のことではありません。

連鎖販売取引とは、特定商取引法で規制されている販売方法の一つで、次の要件をみたすもの、とされています。

  • 物品の販売(または役務の提供など)の事業であって
  • 再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を
  • 特定利益が得られると誘引し
  • 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をするもの

相変わらず、法律を読むと、余計にわからなくなるな。
要するに、「マルチ商法」のことだろ?

そうです。

近年は、MLM(マルチレベルマーケティング)などということばも使われていますね。

いろいろな形態がありますが、「ものやサービスを誰か第三者に売るお手伝いをすると、お金がもらえますよ」といって何かを買わせる取引は、すべて、この連鎖販売にあたります。

連鎖販売取引については、毎年1万件以上の相談が、国民生活センターに寄せられています。

外部リンク:国民生活センター「マルチ取引」

ふうん、「思ったより利益が得られない」とか、「解約しても返金してもらえない」とかいう相談が多いね。

最初にお金をたくさん払うから、こういう相談が多いのかな。

「情報商材」は現代のマルチ商法と相性が抜群

お金を集めた後は、実際に利益が得られなくても、やり方が悪い、自己責任だ、ということで逃れようとする業者もいます。

しかし、今回は、商品は、投資学習用のUSBメモリーなんだな。

ぼくが知っているマルチ商法のイメージは、化粧品とか、美顔器とか、浄水器とかそういう「モノ」なんだが、こういう情報なんかも、商材になるのか?

はい、いいところに気がつきました。

実は、今回問題となっているような「情報」や「ノウハウ」は、悪質なマルチ商法と、ものすごく相性がいいんです。

まず、第一に、事業者として「モノ」の仕入れや保管にお金がかからない、ということです。お金がかからない、ということは、それだけ純粋に儲けが大きくなります。消費者も「在庫を抱える必要がない」なら、安心です。

第二に、消費者に「新しさ」をアピールできます。さっきSHOさんが言ったとおりですね。これは全く新しいビジネスモデルなんだ!という売り込みができるわけです。

確かに、化粧品とか健康食品というと、「ああ、またマルチか・・・」と身構える人が多そうだね。私もそう。

第三に、私は、これは、最も根本的な点だと思うのですが、現代は、「モノ」より「情報」に価値がある(とされている)社会である、そして、今後、その傾向が強まっていく、というコンセンサス、雰囲気が大きいのではないか、と思います。

ああ、それは何だか分かる気がするな。
GAFAにしても、今、世界でお金儲けしているのは、モノをつくっている会社じゃないもんな。
「おれが汗水たらして働いてるのに、今日も、おれの知らないところで、秘密の情報をにぎっていて、楽にお金をもうけているに違いない・・・」という、そういうことを思うことは、あるな。

大学生が「情報マルチ」の絶好のターゲットに

なるほどねえ。でも、大学生って、普通、お金持ってないのに、大学生を狙うのはちょっと効率悪くないかなあ。

とんでもない。大学生こそ、この情報マルチ商法の絶好の「カモ」なのですよ。

外部リンク:国民生活センター「学生に広がるマルチ商法的勧誘に注意!

外部リンク:国民生活センター「友だちから誘われても断れますか?若者に広がる「モノなしマルチ商法」に注意!」

これは、先ほどの、「情報マルチ」の特徴を思い浮かべてみれば、すぐわかりますよね。

そうだね。大学生は新しい情報に敏感だし、SNSでいろんな情報を集めたり、拡散したりすることには慣れてる。

そうですね。SNSと若者の意識については、社会心理学の見地を踏まえた、とても興味深いレポートがあります。

2018年に出された「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」報告書というのがあるのですが、そこでは、こんなアンケート結果が示されています(報告書120ページ)。

table1

外部リンク:消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」

どこのだれだかわからないのに、2割の人は「信用できるかどうか分かる」って答えてるのか・・・すごいな。

会ったことも連絡先もわからないのに、SNSの勧誘だけでお金を払って被害にあうケース、増えてます。

なるほど。これに、さっきの「新しいビジネスモデル」「今この情報を知っておかないと」と言われると、ひっかかる人は多そうだね。

大学の人間関係を利用したABC勧誘

もう1点、大学生がマルチ商法の「カモ」になる理由があります。

こっちはもっと人間臭い話です。

東京都の事例に戻ると、「投資に詳しい人から話を聞けるなどと言って、大学の友人や部活の仲間を喫茶店に呼び出す。その後、複数の勧誘者が、投資に役立つ情報が入ったUSBメモリーを購入すれば投資で利益を得られると説明し、その購入を執拗に勧める。」とあるな。

そうですね。

これは「ABC」などと呼ばれる、古典的なマルチ商法の勧誘スタイルです。

Aはアドバイザー(「すごい人」)、Bはブリッジ(すごい人と被勧誘者のつなぎ役)、Cはカスタマー(お客さん)です。

そっか。

勧誘される人からすれば、もともと強い人間関係のある人がその場にいると断りづらいし、「この人もやっているなら安心か・・・」と思っちゃうね。

うまくできてるね。

業者は、大学生の人間関係も利用しているのですね。

「お金がない」っていってなんとか逃げられないかな?

その断り方は、一番まずいかもしれません。

「お金がない」ということはお金があるならやる、という風にもっていかれます。そうすると、消費者金融に連れていかれ、借金をさせられることになります。そうなると、余計、被害が拡大しますね。

こんな雰囲気で、その場で断るのは、なかなか難しそうだな。大学生ならなおさらだ。

学生マルチ被害の解決について

さいごに、解決・救済についても触れておきます。

先ほど挙げたとおり、連鎖販売取引にあたる場合は、特定商取引法の適用があります。

そうすると、例えば、クーリング・オフが使える可能性があります。20日間の期間制限がありますが、法律の定める書面が交付されていない、不備がある、ということであれば、その後でもクーリング・オフできます。

また、2018年の消費者契約法の改正では、次のような行為で困惑して契約を結んでしまった場合は、契約を取り消せるようになりました。

消費者契約法4条3項4号:当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。

そうすると、さっきの「部活の仲間」で断れない場合なんていうのも、取り消せる場合もありそうだね。

しかし、けしからんな。
こんな大学生の弱みというか、心理につけ込んだ勧誘をする業者は、許せない。

そうですね。困ったときは、ぜひ、188にお電話を。

外部リンク:国民生活センター「消費者ホットライン188」

悪質なものは「ねずみ講」

さて、悪質なものは、特定商取引法の規制(もちろん刑事罰もあります。)を受けるだけでなく、ねずみ講(無限連鎖講)とされる場合もあります。

もう10年以上前のことですが、京都の弁護士と一緒にとりくんだ「アースウォーカー事件」では、京都や大阪の大学生をターゲットとしたマルチ(商材は、カタログを販売できるという地位)でしたが、首謀者らは無限連鎖講を開設、運営したとして有罪判決を受けました。

商材がない、あるいはかたち上、商材があるとしてもに実体がなく、単なるお金集めのための隠れみのにすぎない場合は、その組織は「ねずみ講」となり、これに関わること自体が、犯罪になります。

無限連鎖講防止法
第二条 この法律において「無限連鎖講」とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。
第三条 何人も、無限連鎖講を開設し、若しくは運営し、無限連鎖講に加入し、若しくは加入することを勧誘し、又はこれらの行為を助長する行為をしてはならない。
第五条 無限連鎖講を開設し、又は運営した者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第六条 業として無限連鎖講に加入することを勧誘した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第七条 無限連鎖講に加入することを勧誘した者は、二十万円以下の罰金に処する。

なるほど。ねずみ講の場合、勧誘するだけで、犯罪になるんだね。

「夢」につけ込む業者

さて、アースウォーカー事件では、大学生で起業する、収入を得る、という「夢」につけ込んだ勧誘がなされました。

「すごい人がいる」「あつい話がある」「就活のためにも学生のうちからビジネスをしておいたほうがいい」「こんな時計を持っている」「こんな車に乗れる」・・・こんなセールストークに、学生は弱いものです。

大学生の皆さん、「夢」ということばには、くれぐれもご注意を。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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