つけこみ型勧誘、デジタル・プラットフォ-ム(DPF)の民事責任とレスキュー商法(京都地判令和6年1月19日)

はじめに:「レスキュー商法」とは何か

さて、きょうは、レスキュー商法についてです。

えっと、たしか、いまはやってる悪質商法だよね。

トイレや水回りのトラブルで業者を呼んだら、高額請求をされて、でも払うしかなかった、というやつだね。

そうです。全国の消費生活センターでも相談が相次いでいます。また、各地で弁護団が組まれて、相談や裁判などをしています。

国民生活センター相談件数(2018~2022年度受付、2023年2月28日までのPIO-NET 登録分) 
引用元:政府広報オンライン「水漏れ、解錠、トイレ修理…緊急時の駆け付けサービスのトラブルにご注意!」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201906/1.html 

このように、いまは、トイレ・水回りだけではありません。トラブルあるところ、かならずレスキュー商法が現れます。

外部リンク:レスキュー商法被害対策京都弁護団

なお、当ブログの関連記事は、こちらです。こちらも、よければどうぞ。

内部リンク:水回り、鍵開けレスキュー商法に注意!:「5000円のはずが20万円請求された」「自分が呼んだらクーリング・オフできない?」

内部リンク:水回り、鍵開けレスキュー商法と「リスティング広告」

ふむふむ、京都では裁判をやってるんだったな?

で、どうなったんだ?

はい、実は、このたび、その判決がでまして、勝訴ということになりました。

外部リンク:レスキュー商法被害対策京都弁護団ウェブサイト 「水のトラブル緊急駆付隊」関係者を被告とする訴訟の判決のご報告:被告ら7名中6名の不法行為責任が認められました(勝訴)。

今回は、その判決の紹介となります。

どういうケース?

本件は、典型的な「レスキュー商法」事案です。

集団訴訟の原告は12名(追加提訴併せると14名。追加提訴分も同日に判決が出てます。)で、自宅で、トイレのつまりや水道のトラブルに直面した消費者です。

原告は、インターネット等で「トイレつまり」などと検索しました。

そうすると、修理工事業者のデジタル・プラットフォーム(DPF)である「アクアセーフティー」が上のほうにあったのでクリックしました。ウェブサイトには、「水のトラブル即解決 1000円~」などと書いてあります。

これが実際のウェブサイトですね。

おお。

なんだか、これと似たような画面を、インターネットでみたことあるぞ・・・

そうそう、どれも似たようなサイトばかりですね。

この「笑顔の女性」の写真もよく見ます(なお、派遣されるのは、ほぼ100%が男性です)。

まさしく、「アイキャッチ」だね。

それで、原告は、ここに書いてある電話番号に連絡すると、このプラットフォームに登録している修理担当業者が派遣され、消費者宅を訪ねてきました。

修理担当業者は、工事を行って、100,000円~1,650,000円という、ウェブサイトよりもはるかに高額な請負工事代金を請求し、原告らは、しかたなくこれを支払いました。

被告らはだれ?

ふんふん。

裁判は、だれを訴えたの?業者?それとも、そのプラットフォームをやっているひと?

はい、その両方です。

被告らは、プレイヤー、DPF運営者、DPF経営者の3グループに分けられます。

まず、それぞれの現場で修理工事及び集金を担当していたプレイヤー(実働部隊)です。

次に、ウェブサイトの「運営責任者」と表記されていたひとです。

そして、最後に、契約書に記載されている住所(バーチャルオフィス)の契約者だったひとです。この人は、原告とは別の被害者の事案においては自ら返金対応も行ったりしているので、DPFの経営者ですね。

原告ら12名は、被告ら7名に対し、連帯して、主に不法行為責任(悪いことをした、ということですね)に基づく損害賠償として、総額660万円余り(業者に支払った額、慰謝料及び弁護士費用の合計)の支払いを求めて、京都地裁に提訴しました。

どんな判決が出たの?

2024年1月19日、京都地裁で判決が出ました。

判決は、原告らの請求を一部認容し、被告ら6名(なお、1名については無断でウェブサイトに運営責任者と記載されたとして関与が否定されました。)に対し、連帯して、慰謝料を除く原告らの支払額及び弁護士費用額の総額529万円余を支払うよう命じました。

おお、勝訴したんだね。

はい、そうです。つぎに、判決の内容は、かみくだいていうと、こうなります。

けっきょく、何が「悪い」?

まず、「不法行為」(悪いこと)にあたるかどうかについて。

判決は、ウェブサイトをみると、一般の消費者なら「合計で数千円から数万円程度の低廉な費用で水回りの修理作業が行われるとの印象をもたらす」とし、苦情相談が多くよせられていた状況から、「顧客の具体的な事情にかかわらず、高額な代金を請求することが日常的に行われていた」「当初から高額な費用を請求することを企図しながら、あたかも低廉な費用で工事ができると本件ウェブサイトに表示して、原告らを勧誘した」として、ウェブサイトに込められた意図を分析しました。

要するに、安い価格でつって高い費用をとろうとした、ということだな。

苦情や相談が多い、というのはどうやって証拠を集めたんだ?

はい。

それは、消費生活センターによせられた苦情・相談データベースのPIO-NETを証拠で出したのですよ。

外部リンク:独立行政法人国民生活センター PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)

判決は、プレイヤー(現場実行部隊)については、「作業内容及び費用について十分な説明をしないまま又は作業前には低廉な費用を提示しておいて、作業を開始し、作業途中に特別な機械を使用する必要があるため費用が高くなる、火災保険が適用されるなどと申し向け、作業終了後に高額な代金額を提示して工事請負契約の締結を求めた。」としましたが、次の点が注目されます。

「家庭の水回りの工事にはどのような作業が必要であるか、どの程度の費用がかかるのかは一般人では判断するのが困難であるし、家庭の水回りのトラブルは早急に修理しなければ家人に著しい不便が生じるものであり、原告らが上記被告らの説明に納得できなくても、別の修理業者に依頼することは著しく困難な状況であった。」

「被告らは、一部でも作業を実施することで、契約を締結しなくてもその分の費用を支払う必要があると原告らに思わせ(原告らの中には、実際に、被告Xから、契約を締結するか否かにかかわらずすでに行われた作業にかかる費用を請求する旨告げられた者もいる)、契約締結を断れば、修理は中途半端に終ってしまうのに費用は一定額支払うことになるという不利益の下、原告らをして実質的に契約締結を断る事ができない状態に置き、完全に修理をしてもらうには高額な代金を支払うほかないと思わせた。」

ふんふん。いってることは難しいことじゃないね。

よくわかるけど、なんで、この点が注目されるの?

判決が、消費者のおかれた「状況」と「心理」に着目した、という点がとても重要なのです。

いままでの消費者被害では、「業者がうそをついて、消費者がだまされた」ということを積極的に立証することを要求されることが多かったのです。

しかし、この判決は、「業者がうそをついて、消費者がだまされた」とは言っていないのですね。

・納得できなくても、断って他の人にたのむ、という判断はできなかった
・修理が中途半端に終ってしまうのに費用は一定額支払うことになるので、途中でやめられなかった

このように「状況的に断れなかった」ということを重視する。これは、「つけこみ型勧誘」というこんにちの消費者被害の本質をとらえるうえで、とても重要な視点です。

 まとめると、判決は、

1 原告らに対する勧誘行為が当初から高額な費用を請求することを企図した計画的なものであること

2 被告らが原告らにおいて修理工事の依頼を断ることが著しく困難な状況を利用し、場合によっては依頼を断ることが更に困難な状況に追い込んだこと

という2点に照らして、「被告らは社会的相当性を超える手段及び態様で原告らに本件各契約を締結させた」として、不法行為(悪いこと)にあたる、としたのです。

では、プレイヤーだけが悪い?

 そして、つぎに、判決は(被告ひとりを除く)全被告の責任を認めました。

でもさあ、さっき強調されていたのは、いわば「プレイヤー」ひとりひとりの「悪いこと」だよね。

なんで、ウェブサイト運営者や経営者が責任を負うことになるの?

そうだなあ。

別に、プラットフォームの運営者は、そのプレイヤーたちを雇っているわけではないよな。

単に、Googleに広告を出して、プレイヤーに商売させる機会を提供しているだけで、「提携」関係にあるわけだろ?まあ、なんぼかはプレイヤーからもらっているにしても。

それで、なんでもかんでも責任を負わせられるわけにはいかんのじゃないか?

判決の理屈は、こうです。

これらの「悪いこと」そのものは、確かに、プレイヤーによってそれぞれ別の機会に行われたものです。

でも、けっきょくのところ、これらは「一連一体で組織的に行われた悪徳商法の一環」であったとし、プレイヤーは「実働部隊」として、DPF運営者はウェブサイトの運営に「関与」したとして、そしてDPF経営者はまさに「経営者」として、「それぞれ重要な役割を果たし、相互に協力し補完する関係にあり、同被告らの行為は関連共同して行われた」とされ、共同不法行為(いっしょに悪いことをしたから責任もいっしょに負う)が成立するとしたのです。

例えば、裁判で、被告らは、各プレイヤーは、受けた工事代金額の60〜70%をアクアセーフティーに対して支払っている、と主張しました。

これは、商売をしてるひとからみると、どうですか?

まあ・・・それはちょっとありえない割合だな。

もちろん業種によるとは思うが。

 建設業のなかでも設備業者の総利益率(売上総利益(粗利)÷売上高) の平均は、29.51%とされています(一般社団法人建設業情報管理センター「建設業の経営分析(令和2年度)」)。粗利は売上-売上原価ですから、これを30%として、たとえば売上30万円なら原価(工事をする際に必要になる元手。材料費、外注費や諸経費)としてだいたい21万円かかる、という計算となります。残りの9万円で、自分の取り分や、その他の費用をやりくりするわけですね。

 しかし、本件の場合、プレイヤーは、この30万円のなかから、まずは仕事をとってくれたアクアセーフティーに対して広告費を60〜70%(すなわち18〜21万円)支払わなければならないのです。

 工事原価21万円を考えれば、これと広告費だけで、単純に、9万円〜12万円の赤字になります。もちろん、これは原価の話なので、本来は、ここからさらに販管費(人件費等)の捻出をしなければならないのです。

では、プレイヤーが、この赤字を解消するためには、どうすればよいでしょうか?

うーん・・・

どうしたらいいのかな・・・がんばって原価を節約する、とか?

答えはひとつしかない。お客さんから高くもらうしかない。

そのとおりです。

工事費を通常よりもはるかに高額にして、顧客に対して、これを転嫁するほかないのです。

この例でいえば、通常は30万円ですむ工事(=工事原価21万円の工事)であっても、顧客に「これは70万円かかる工事です」としてこれを請求すれば、ここから広告費(42万円〜49万円)を捻出したとしても、トントン〜7万円が手元にのこる計算となり、なんとか人件費や交通費などがまかなえるということになる。

そっか・・・広告費の分を負担させられてるのは、末端の消費者なんだね。

そうです。この種のレスキュー商法のスキームに関与する者は、みんな、こういった利益構造(損失の押しつけ構造)を、当然の前提として了解しているのです。

運命共同体というか、利益共同体だな。

こういうしくみをわかっていれば、「たんに広告を出して業者と顧客をマッチングしているだけです」とは、到底、いえないな。

むすびに:これで「レスキュー商法」は解決?

さて、この判決については、ぜひたくさんの人に知っていただきたいと思います。

でも、裁判でしょ?長いこと時間をかけるのも大変だよ・・・

弁護士に相談してもお金がかかりそうだし・・・

そのとおりです。

ただし、全国には、この問題の解決に取り組んでいる弁護団や、消費生活センターがあります。

例えば、以前紹介したとおり、クーリング・オフが使えるケースなどもけっこうあります。あきらめないでください。

内部リンク:水回り、鍵開けレスキュー商法に注意!:「5000円のはずが20万円請求された」「自分が呼んだらクーリング・オフできない?」

また、この問題は根本的に解決するためには、この種の業者が、検索でいまだにトップページにあがってくる、という状況を、なんとかして、変えなければなりません。これは、レスキュー商法を行うDPFよりもはるかに巨大なDPFに対する闘いとなりそうです。

つけこみ型勧誘、デジタル・プラットフォ-ム(DPF)の民事責任とレスキュー商法(京都地判令和6年1月19日)への 1 件のコメント

コメントは受け付けていません。