Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と次亜塩素酸水の噴霧・その1

wash hand

入店前に「次亜塩素酸水を噴霧」 導入の居酒屋、「厚労省推奨の~は誤り」と訂正

https://www.j-cast.com/2020/05/20386331.html?p=all
J-CASTニュース2020.5.20.

はじめに

Covid-19による自粛や休業要請のため、飲食店は、大変な苦境に陥っています。

ところで、最近、入店時に次亜塩素酸水を全身に噴霧する、という居酒屋が話題を呼びました。

そうそう、全身消毒すれば、他のお客さんも安心してお店に入れるよね。いいアイデアだと思うよ。

あれ?でも、前に、空間除菌は有効性が確認されてない、って言ってなかったか。それとも、全身に噴霧するやり方なら効くのか?

はい。
二酸化塩素による「空間除菌」をうたう商品については、すでに、このブログでも記事を書きましたね。

内部リンク:Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と「空間除菌」をうたう商品

きょうは、もう少し、「除菌」や「消毒」について考えてみましょう。

「除菌」と「消毒」

まず、そもそも、除菌と消毒って、何が違うのでしょうか。

うーん。わからんな。どっちも同じだろ?

なんとなくだけど、「除菌」は大体の菌をとりのぞくけど少し残っちゃうイメージがある。「消毒」はもう菌をぜんぶ残らずやっつけちゃう感じかな。

なるほど。では、「殺菌」、「滅菌」、「抗菌」はどうでしょう。

うーん。確かに、いっぱいあるな。全部一緒じゃないのか?
それより「菌」ってそもそもこんな漢字だったか。ゲシュタルト崩壊してきた。

では、まず、法律上、これらの言葉が、どのように使われているかで考えてみましょう。

「消毒」・「殺菌」とは

まず、消毒について。

これ、あんまりビシッとくる定義が実は見当たらないんですけど、例えば、厚生労働省の「日本薬局方」を引いてみましょう。これは、医薬品を製造するための規格基準書です。そこでは、医薬品を製造する際のクリーンな環境を実現するための「消毒法」が定められています。

日本薬局方では、「消毒」とは、一般的には、「病原菌など有害な微生物を除去、死滅、無害化すること」「対象物又は局所的な部位に生存する微生物を全て死滅させたり、除去したりするものではない」(第17改正「参考情報」2414-2415頁)とあります。

外部リンク:厚生労働省「日本薬局方」

なんだか、イメージが違うね。菌やウイルスが全部なくならなくても、「消毒」って言っていいの?

はい。「消毒」は、相対的概念と考えてください。対象微生物がゼロにならなくても、その対象微生物の種類や、消毒対象の利用目的に沿って「これなら大丈夫」というレベルまで無害化する、というのが「消毒」です。

「殺菌」もだいたい同じ意味で使われているようです。消毒・殺菌とセットで使われることも多いですね。

消毒・殺菌をうたうには医薬品・医療機器としての承認が必要

さて、いずれにしても、なにかの水や噴霧器でウイルスや人体に付着した菌の消毒・殺菌をうたうことは、「効果があるよ!」ということになるので、医薬品もしくは医療機器としての承認を受けなければなりません。

薬機法第2条1項 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
日本薬局方に収められている物
人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
同第4項 この法律で「医療機器」とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるものをいう。

承認を受けてないのに「殺菌・消毒」という効果・効能をうたうと、未承認医薬品・医療機器の「広告」をしたとして、処罰の対象となります。

「滅菌」とは

次に、滅菌です。

これは、さっきの消毒と違って、けっこう、かっちりと定義が決まっています。

先ほども引用した日本薬局方には、最終滅菌法として、「製剤を容器に充塡した後、滅菌する方法であり、滅菌後の微生物の死滅を定量的に測定又は推測できる滅菌法。通例、適切な滅菌指標体を用いるなどして、10^-6以下の 無菌性保証水準を担保する条件において行う。」とあります(第17改正「参考情報」2411頁)。

外部リンク:厚生労働省「日本薬局方」

これは、さっきと違って、対象微生物をゼロにするということだな。これはわかりやすい。

無菌性保証水準とは「生育可能な1個の微生物が製品上に存在する確率」のことで、10^-6とは、その確率が100万分の1という意味ですが、ここまでいけばゼロといっていいでしょう、ということですね。

滅菌とは、もっぱら「製品」や「機器」に使われる概念です。

そりゃそうだ。人体に微生物がいなくなったら、大変なことになりますよね。

「除菌」とは

さて、問題の「除菌」「抗菌」です。

まず、除菌ですが、これも語義が結構広いですが、だいたい「菌を減らす」ということのようです。

法律上は、「除菌」については、食品衛生法関連の「食品表示基準」の中に「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去することをいう」という定義が出てくるくらいで、あまり見当たりません。

あとは、業界が、製品ごとに、自主基準で「除菌」の定義を定めているようです。2つほど例をあげます。

外部リンク:洗剤・石けん公正取引協議会「洗剤の除菌表示」に関する公正競争規約」

外部リンク:一般社団法人日本衛生材料工業連合会「ウェットワイパー類の自主基準」

殺菌とか消毒といってしまうと薬機法の問題があるから、「除菌」と表現しているんだな。

公正競争規約とは

質問です。
この「公正競争規約」って何?単なる業界内のルールとは違うの?

はい。これは、前回の空間除菌でも出てきた景品表示法が関係してきます。

景品表示法は、表示についてのルールを定めているんだったよな。

はい。もう一度復習したい方はこちらを。

内部リンク:Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と「空間除菌」をうたう商品

公正競争規約は、事業者や事業者団体が景品や表示に関して自主的に定めたルールのうち、公正取引委員会と消費者庁長官の認定を受けたもののことをいいます。

景品表示法第31条 事業者又は事業者団体は、内閣府令で定めるところにより、景品類又は表示に関する事項について、内閣総理大臣及び公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保するための協定又は規約を締結し、又は設定することができる。

公正競争規約には、①事業者にとっては従うべきルールが明確化される、②消費者にとっては商品選択の根拠が明確になる、などの効果が期待されます。

現在、「表示」分野では、67件の規約がありますよ。
こちらから一覧が見られます。

外部リンク:一般社団法人公正取引協議会連合会「表示に関する公正競争規約条文」

「抗菌」とは

はい、おまけとして、「抗菌」です。

これは、経済産業省が1998年に「抗菌加工製品ガイドライン」を示し(その後「抗菌JIS」として規格化されました。)て、業界のルールづくりを促しています。

経済産業省の定義では、抗菌とは「当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」とされています。

外部リンク:経済産業省「抗菌加工製品」について

これをみると、やっぱり「抗菌」でも表示が問題になっているケースがあるんだね。

その2につづく

消毒・殺菌・滅菌・除菌・抗菌の違いは大体分かった。

それで、何の話だったっけ?
次亜塩素酸水の噴霧は、結局、このうちどれに当たるんだ?

そうでしたね。少し長くなってしまいましたので、次回「その2」でお話ししましょう。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院客員教授(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください