キッズライン事件をどう考えるか〜デジタル・プラットフォームと消費者保護〜

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2人目の逮捕者が出た「キッズライン」 それでも行政は「助成金」を支払い続けるのか

https://dot.asahi.com/dot/2020062000003.html
AERA dot.2020.6.20

はじめに

2020年6月、大手ベビーシッターシェアリングエコノミー「キッズライン」のシッターが、子どもに対する強制わいせつ罪の被疑事実で逮捕されたとの事件が報道されました(なお、逮捕されたことそのものは、刑罰ではありません。有罪が確定するまでは無罪が推定されます。このことから、議論がありますが、実名報道には反対の立場です。)。

今後も、Covid-19(新型コロナウイルス感染症)の関係で、学校や保育園に預けられないことも出てくるだろうし、こういうベビーシッターや家事サービスは、どんどん利用が増えてると思うんだが。

こういう事件が起きると、ちゅうちょするな。

そうだよね・・・。

大多数のシッターさんはそんなことはしないんだろうから、そういうシッターさんまで仕事ができなくなったりすることになると、とても残念だね。
二度とおきないようにしてほしいね。

ところで、シェアリングエコノミーて、なんなの?これもやっぱり、こないだ勉強したデジタル・プラットフォームなの?

そうですね。これも、デジタル・プラットフォームのひとつですね。

前回は、巨大デジタル・プラットフォームが「ロックイン効果」をいいことに、事業者=売り手に不当な不利益を与えないようにしましょう、という目的の法律を勉強しました。

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(特定DP透明化法)についての記事は、こちらをどうぞ。
内部リンク:特定デジタル・プラットフォーム透明化法とは

きょうは、「デジタル・プラットフォームと買い手=消費者の保護」について、考えてみましょう。

シェアリング・エコノミーとは

さて、そもそも、デジタルプラットフォーム(DP)とは何でしたっけ。

せっかくですから、特定デジタル・プラットフォーム透明化法を、もういちど復習しましょうか。

①多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築した場であって、
②当該場において商品、役務又は権利を提供しようとする者の当該商品等に係る情報を表示することを常態とするもの(下記のAまたはBのいずれかの関係を利用するものに限る)
A 当該役務を利用して商品等を提供しようとする者(提供者)の増加に伴い、当該商品等の提供を受けようとする者(被提供者)の便益が著しく増進され、これにより被提供者が増加し、その増加に伴い提供者の便益が著しく増進され、これにより提供者が更に増加する関係
B 当該役務を利用する者(提供者を除く)の増加に伴い、他の当該役務を利用する者の便益が著しく増進され、これにより当該役務を利用する者が更に増加するとともに、その増加に伴い提供者の便益も著しく増進され、これにより提供者も増加する関係
③多数の者にインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて提供する役務

そうそう、要するに、インターネットで、商品やサービスなどの情報を表示し、たくさんの人が見られるようにしているサービスのことだったね。

それだけじゃないぞ。ネットワーク効果によって「提供者が増加する関係」というのがないといけないんだったよな。

そうですね。単に「インターネットで商品を売る」ことではなく、「場」に参加する「提供者が増加する関係」がDPの特徴となります。

さて、では、次に、シェアリングエコノミーですね。

シェアリング・エコノミーとは、経済産業省「平成27年版 情報通信白書」によれば、「個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある」とされています。
外部リンク:経済産業省「平成27年版 情報通信白書」

大手だと、カーシェアの「タイムズ」とか、フードデリバリーの「UBER EATS」なんかがそうだな。車の貸し出しとか、配達スキルの貸し出しになるわけか。

そうか、キッズラインは、ベビーシッタースキルのシェアリングエコノミーなんだね。

そうです。ですから、このシェアリング・エコノミーも、また、DPの一種と言えますね。

デジタル・プラットフォームと消費者保護の論点①:危険/違法な商品・サービスをどう防ぐか、どう対処するか

さて、いま、デジタル・プラットフォームについて、買い手=消費者保護の観点から規制が必要ではないか、という議論がされています。

それが、2019年12月に消費者庁に設置された「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」です。

外部リンク:消費者庁「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」

どんなことが議論されているのかな?

消費者庁は、現段階では、このような論点整理をしているみたいです。第5回検討会の資料4-1の1頁を引用します。

消費者庁 デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における 環境整備等に関するプロジェクトチーム
「違法な製品、事故のおそれのある商品の流通への対応」1頁

もちろん、規約のあり方や、表示・広告のあり方もそれぞれ重要です。

けれども、消費者として一番気になるのは、まずは、違法な商品・サービスや事故・事件の危険をどれだけ防止できるか、おこったときにどう対処してもらえるか、というところでよね。

でも、そもそも、DPは、その売り手を給料を出して雇っているわけじゃないよな。そうなると、「当事者じゃないから、当事者どうしのトラブルについては、知りませんよ。あとは当事者で。」ということになるんじゃないか?

売り手が悪いことした場合は、売り手が悪いんだよね。確かに。結婚がうまくいかなくても、仲人の人に責任を追及をしたりはしないね。

そうですね。まず、シェアリング・エコノミーにおける売り手が「労働者」かどうか、については、争いがあります。その点は、かなり脱線するので、ここでは議論しません。下記リンクなどを参考にしてください。

外部リンク:川上資人弁護士「シェアリングエコノミーに関する法的課題(労働政策研究・研修機構)

さて、少なくとも、DP=「場」の提供者であり、全くの第三者ではありません。消費者保護のために、全くルールがない今よりも積極的な役割を果たすべきとの意見はあり得るでしょうう。

デジタル・プラットフォームと消費者保護の論点②:売り手と連絡がとれない

もう1点、これは、さきほどの点にもかかわるのですが、トラブルが起きた時に「当事者同士で解決してください」と言われても、そもそも、連絡が取れないケースも多いのです。

消費者庁 デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における 環境整備等に関するプロジェクトチーム
「消費者トラブルの分析」13頁

これは、さきほどの「検討会」の第2回で提出された資料ですが、CtoC(個人間取引)のフリマDPについての相談データです。

ううむ・・・
なるほど、それでは、トラブルの解決のしようがないなあ。

そうですね。
DPが売り手の情報を確認して、表示もしくは開示するためのしくみが必要でしょう。

デジタル・プラットフォームの責任についての裁判例

ねえ、今は、全くルールがない状態なの?

もちろん、現在の法律でも、一定の場合には、DPは、買い手が不測の被害を被ったときに、責任を負うと考えられます。例えば、商標侵害について、このような裁判例があります。

知財高判平成24年2月14日判例タイムズ1404号217頁(チュッパチャップス事件):「ウェブページ運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」

次に、CtoC(個人間取引)のDPのオークションサイトについての裁判例をみてみましょう。
オークションを利用した詐欺(代金が支払われても商品が提供されない)の事案で、オークションサイトの責任が問われたものです。

名古屋地判平成20年3月28日判例タイムズ1293号172頁(ヤフーオークション事件):「被告が負う欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務の具体的内容は、そのサービス提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢、関連法規、システムの技術水準、システムの構築及び維持管理に要する費用、システム導入による効果、システム利用者の利便性等を総合考慮して判断されるべきである。」
「本件サービスを用いた詐欺等犯罪的行為が発生していた状況の下では、利用者が詐欺等の被害に遭わないように、犯罪的行為の内容・手口や件数等を踏まえ、利用者に対して、時宜に即して、相応の注意喚起の措置をとるべき義務があった」

なお、注意喚起以外の義務(信頼できる第三者機関による評価システム、出品者情報の開示、エスクローサービス)は否定されました。


しかし、これでも、それまでの裁判例(例えば、神戸地裁姫路支判平成17年8月9日判時1929号81 頁などは、利用者に対して「リスクを負担したくなければ、本件オークションに参加しなければすむ」などと、けんもほろろでした。ずいぶん、進歩したのです。

それに、これって、10年前以上の裁判例だもんね。DPの社会的な影響力が大きくなった今では、また違った結論になっているかもしれないね。

自主規制で足りるか?キッズラインの対応を例に

これに対して、DP業界側は、基本的に「自主規制でOKでしょ」という姿勢です。

例えば、一般社団法人シェアリングエコノミー協会は、上記の「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」の第3回で、売り手の表示義務について、次のような資料を提出しています。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会
「シェアリングエコノミーにおける消費者の安心安全に向けて」27頁

でも、さっきのデータをみると、実際に連絡が取れなかったり、DPが介入してくれないケースも多いんだよな・・・。

そうですね。
今回のキッズライン事件でも、DP側はどのような対応をしたか、みてみましょう。

どれどれ、ちょっと、プレスリリースを見てみようかな・・・あれ、キッズラインのウェブサイトですが、そもそもプレスリリースがどこにあるのかわかりにくいや。バナーやメニューにもない。なんでだろう・・・

なんででしょうね。

さて、まず、事件が発生した2019年11月以降(その時点で活動停止としているのですから、明らかに、問題を認識していました)、シッターの逮捕が報じられた2020年4月24日になっても、そもそも、一切のプレスリリースがありません。

そして、AERA dot.がキッズラインの社名を報じた2020年5月3日になって、同社は、ようやく「一部報道に関しての報告および弊社の対策につきまして」というプレスリリースを出します。

外部リンク:キッズライン「一部報道に関しての報告および弊社の対策につきまして」

そして、その後、別のシッターが強制わいせつをしていたとして、2020年6月12日に逮捕されましたが、その別のシッターは、2020年4月下旬から強制わいせつ行為をしていたと報じられています。

ええ・・11月にも、4月の逮捕のときにも、公表しなかったんだ。もし、私がこの親だったら「なんで、こういう被害の申出があった、と言ってくれないの?」と思っちゃうな。

見抜けなかった、とか、まだ犯罪として確定したわけではなかった、とかそういう問題じゃないよね。

そして、この2人目についても、キッズラインは、遅くとも5月下旬の段階で被害申告を認識していたにもかかわらず、やはり、報道される2020年6月11日まで、なんのプレスリリースもしなかったのです。

これ、報道がなかったら何もしなかったんじゃないかな。

あと、この2名のシッターの利用者への個別対応はした、と言っているが、いつやったのかなあ。早期に、事件について説明して、被害はなかったか、という聴き取りをしていたのだろうか・・・。プレスリリースではいつやったかすらわからない。

今、あわてて、聴き取りをやってても遅いと思うぞ・・・

そして、キッズラインが2020年6月4日、再発防止策として打ち出したのは、小児性愛者は専門家でも見抜けないから男性シッターの登録を停止する、というものでした。

それは性差別的だな・・・。まあ、「労働者」じゃないから均等法の適用はないのかもしれないが、こんな解決は、ちょっとスジが違うように思うな。

男性の保育士やシッターは、怒っていいと思うぞ。

さて、キッズラインの対応をみてきました。

はたして、DPと消費者保護の論点は、「自主規制」のみで、解決可能でしょうか。

消費者として何ができるか

法規制にも、もちろん期待するとして、私たち消費者には何ができるのかな?

そうですね。
まず、前提として、例えばキッズラインの件で、利用者の保護者を責めたりすること(そういう論調は、子どもが被害者となる事故・事件では、必ずでてきます。)は、全く不適切です。論外です。

子どもの傷害を予防する-安全知識循環型社会の構築に向けて-(山中龍宏)231頁
(PDF直リンク)

この表は、子どもの製品事故防止のための活動をされている山中龍宏医師の文献から引用したものです。「親がそんなサービスを利用しなければよかった」というのはここでいう「無効な予防策」の最たるものです。

そうすると、やっぱり、「ツールの使い方の教育」になるのかな?
CtoCのDPでいうと、DPが大手だからといって売り手が信頼できるとは限らないということ。DPは売り手に自分の「看板」を利用させているに過ぎないということ。

まずは、そうなりますね。

DPは、消費者にとって、選択肢が増えて、一見、便利にみえます。しかし、消費者は、売り手と販売プラットフォームが分離した結果、実際には、無数の選択肢のなかから、信頼できる売り手を「玉石混交」の中で探さなければならない、という過酷な状況に置かれる時代が到来したのだ、ともいえます。

ミヒャエル・エンデの「自由の牢獄」は、ドアが多過ぎて選べない男の話だけど、まさにそういう状況なんだね。

DPの責任の本質とは

そして、付け加えていうと、DPの買い手からの「この売り手はオススメです」という評価はあてにならない、ということですね。

たしかに・・・こないだ、自宅にUBER EATS頼んだとき、対応がいまひとつだったんだけど、向こうは私の家を知ってるから、低評価をつけるとなんか逆恨みされそうで、すごい高評価つけちゃった・・・

このように、DPは、買い手からの評価システムも「まあ、どうせ、悪いことにはなるまい」とあらかじめ予測された結果を織り込んで利用しているんですよ。

私は、DPの「場の提供者」としての責任、というのは、つまるところ、売り手への信頼(それはしばしば実体とはかけはなれて膨らむことがあります。)を形成させたことについての責任、だと思います。

それを利用して、DPは事業を拡大しているわけです。大手DPほど、その責任に、無自覚であってはならないと思います。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院客員教授(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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