特定デジタル・プラットフォーム透明化法とは

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巨大IT企業の規制強化法成立

https://this.kiji.is/638219779731506273?c=39546741839462401
共同通信2020.5.27.

はじめに

2020年5月27日、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」案が参議院で可決承認され、法律が成立しました。

外部リンク:参議院 議案情報「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」

へえ。「デジタルプラットフォーム」って、なんだっけ?最近よく聞くけど。

それくらいは、知ってるぞ。
「GAFA」とかだろ?要するに、でっかいIT企業のことだよな。

そうですね。もちろん、GAFAもデジタル・プラットフォーム企業の一種ですが、それだけではありません。

皆さんの周りには大小さまざまなデジタル・プラットフォームがあります。今日は、それを少し勉強していきましょう。

デジタル・プラットフォームとは「場」を提供するサービスである

さて、そもそも、デジタルプラットフォームとは何か。

まず、この「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(長いので「特定DP透明化法」と呼びましょう。)では、「デジタルプラットフォーム」(DP)とは、この①②③のとおり、定義されています。
(特定DP透明化法2条1項)

①多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築した場であって、
②当該場において商品、役務又は権利を提供しようとする者の当該商品等に係る情報を表示することを常態とするもの(下記のAまたはBのいずれかの関係を利用するものに限る)
A 当該役務を利用して商品等を提供しようとする者(提供者)の増加に伴い、当該商品等の提供を受けようとする者(被提供者)の便益が著しく増進され、これにより被提供者が増加し、その増加に伴い提供者の便益が著しく増進され、これにより提供者が更に増加する関係
B 当該役務を利用する者(提供者を除く)の増加に伴い、他の当該役務を利用する者の便益が著しく増進され、これにより当該役務を利用する者が更に増加するとともに、その増加に伴い提供者の便益も著しく増進され、これにより提供者も増加する関係
③多数の者にインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて提供する役務

うーん・・・つまり、どういうこと?

要するに、インターネットで、商品やサービスなどの情報を表示し、たくさんの人が見られるようにしているサービスのことですよ。

オンラインモール、フリマアプリ、アプリストアなどが典型的ですね。

DP=ものやサービスを売り買いする「場」を提供するサービスだと考えてください。

ネットワーク効果

ふうん。
じゃあ、例えば、単に、自社の健康食品を売っているECサイトなんかもDPにあたるの?
これも、「場」といえば「場」だよね。

それは、あたらないんじゃないか?
「提供者が増加する関係」というのがないといけないんだからな。

そうですね。プラットフォームは、単に「インターネットで商品を売る」ことではありません。

SHOさんのいうとおり、その「場」に参加する「提供者が増加する関係」がDPの特徴となります。

これを、経済学の用語で、「ネットワーク効果」といいます。

Aの方は、「売り手の増加」を起点にしたネットワーク効果です。売り手が増えると、価格が安くなったり、選択肢が増えたりして、買い手が喜びますね。そうすると、買い手が増えます。そうすると、売り手が喜び、売り手が増える、という効果を表しています。

Bの方は、似ているようですが、少し違います。
これは、「買い手の増加」を起点にしたネットワーク効果です。例えば、買い手が増えると、他の買い手が喜び、買い手が増えます。そうすると、売り手が喜び、売り手が増えるわけです。

AとBは、いったい、何が違うんだ?結局、同じことを言っているのではないのか?

少し違うと思うな。
例えば、オンラインモールとかは、BじゃなくてAだよね。別にお客さんが増えたからといって、他のお客さんは喜ばないと思う。でも売り手が増えると、商品も増えるし、価格競争も出てくるから、嬉しいよね。

なるほどな。
そうすると、オンラインゲームなんかは、Bの要素が大きいかな。たくさんの参加者がいる方が、ゲームとして面白いもんな。

色々と、分類ができそうですね。この「ネットワーク効果」は、買い手・売り手双方向にはたらき、ほうっておいても自己増幅する力があるので、DPに参加する提供者・利用者はどんどん増えていきます。

先行者の「一人勝ち」という状況も生まれやすくなります。

そうすると、例えば、巨大なDPを利用している事業者は、いざDPの外で商売しようと思ってもとても勝てないから、やめられなくなっちゃうね。

そのとおり。これを、「ロックイン効果」といいます。

弁護士もずっと一つのプラットフォームから仕事をもらっていると、他では仕事ができなくなるな・・・(ボソッ)

ん?なんか言ったか?

いえいえ。

実は、この「ロックイン効果」こそが、実は、DP透明化法のミソなのです。

特定DP透明化法の内容

さて、特定DP透明化法の内容を見ていきましょう。

まず、法は、とくに影響が大きい大規模DPを「特定デジタルプラットフォーム」(特定DP)とします(DP透明化法4条1項)。

なにが特定DPかは、政令で、区分ごとに、売上や利用者数で決まります。日本国内の業者では、楽天とYahoo!が特定DPに当てはまるだろう、とされているみたいです。

その上で、法は、特定DPに対して、次のようなことを求めています。

  1. 取引条件等の情報の開示(特定DP透明化法5条)
    利用者(商品等利用提供者・一般利用者)に対する契約条件の開示や変更時の事前通知などを義務付けています。
  2. 自主的な手続・体制の整備(特定DP透明化法7条)
    経済産業大臣が定める指針を踏まえて手続・体制の整備を実施することを求めています。
  3. 運営状況の報告と評価(特定DP透明化法9条)
    上記1や2の状況や苦情処理状況とそれについての自己評価を付した報告書を出すことを求めます。経済産業大臣は、年度ごとに、報告書に基づき運営状況の評価を行い、その評価結果を公表します。
  4. 公正取引委員会との連携(特定DP透明化法13条)
    さらに、独占禁止法違反のおそれがあると認められる事案を把握した場合には、公正取引委員会に対し、独禁法に基づく措置を要請します。

うーん。要するに、DPを利用する事業者に対して「ロックイン効果」をいいことに不公正なことをするのはダメよ、公明正大にやってね、ということをいっている法律なんだね?

コンセプトとしては、全く、そのとおりです。

さて、この「開示」事項の一つとして、結構面白いのが「ランキング」ですね。

特定DP透明化法5条2項1号ハ 「当該特定DPにより提供される場において、一般利用者 (特定DPを利用するものに限る。以下この条において同じ。)が検索により求める商品等に係る情報その他の商品等に係る情報に順位を付して表示する場合における、当該順位を決定するために用いられる主要な事項(商品等提供利用者からの当該特定デジタルプラットフォーム提供者に対する広告宣伝の費用その他の金銭の支払が、当該順位に影響を及ぼす可能性がある場合には、その旨を含む。)」

この「ランキング」は、商品等提供利用者(売り手)に開示せよ、というだけでなく、一般利用者(買い手)にも開示せよ、とされています(特定DP透明化法5条2項2号イ)。

みなさんが利用するDPにも、例えば、「おすすめの店」とか「人気商品ランキング」とか、よくありますよね。

そのランキングを表示する際には、どのようなロジックで順位が決定しているのかを開示しなさい、特に、お金もらって順位を動かしてる場合は、それもきちんと開示しなさい、ということですね。

へえ・・・確かに、グルメサイトの順位とか星とか、一体、どうなってるんだろうなあ。気になるね。

一般利用者(消費者)を保護する仕組みは

さて、特定DP透明化法の大まかな内容は、だいたいわかっていただけましたか?

ふむ。面白いな。

ただ、一般利用者にとって関係のある条文も少しはあるが、基本的には、DPとそれを利用する事業者との間の話がほとんどだな。

一般の消費者を保護する法律はないのか?

そうだね。それが気になる。この間も、Covid-19がらみで、オンラインモールで買ったマスクが届かない、とか、そういう話があったよね。

そういったケースについて、一般の消費者がDPに対して言えることはないのかな?

はい、「マスクが届かない」については、こちらの記事をどうぞ。
内部リンク:「マスクが届かない」(ECサイト詐欺)

そうなんです。実は、DPと消費者問題、というのも、今、議論されているホットなテーマなのですよ。

「DPと消費者保護」についても、記事を書きました。
こちらです。
内部リンク:キッズライン事件をどう考えるか〜デジタル・プラットフォームと消費者保護〜


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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