金融サービス仲介業の誕生(改正金融商品販売法)

巨大IT企投信・保険、ネットで一括販売へ 改正金販法成立

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60009950V00C20A6EAF000/
日本経済新聞2020.6.5

はじめに

2020年6月5日、改正金融商品販売法案が参議院で可決承認され、法律が改正されました。

「金融商品販売法」も「金融サービスの提供に関する法律」に名前が変わります。

外部リンク:参議院 議案情報「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案」

へえ。こないだもデジタル・プラットフォームの新しい法律のはなしだったけど、今日も法律のはなし?
なんだか、退屈そうだな・・・

まあ、そう言わずに。
これ、けっこう、KONさんの生活にもかかわってくるんですよ。

ひとことでいうと、この新しい法律は、消費者とさまざまな金融商品取引業者を「ワンストップ」でつなぐことを可能にした法律です。

今日は、それを少し勉強していきましょう。

これまでの仲介業との違い①:ひとつの登録ですべての分野が仲介可能

ふーむ。業者とつなぐ役割ねえ。

あ、でも、今までも、保険代理店とか、保険会社の商品を売ってくれるお店はあったよな。あれとどう違うんだ?

これは、金融庁が作成した「説明資料」がわかりやすいので、引用しましょう。

金融庁「第201回国会における金融庁関連法律案 説明資料」3頁
https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/index.html

この左側の図のように、これまで、銀行には「代理業」、証券会社には「仲介業」、保険会社には「募集人」という仲介業者が介在していました。

あ、そういえば、前に、銀行が、よく生命保険の窓口販売をしているという話があったよね。あれも、銀行が、保険代理店という仲介者になっているんだね。

そのとおりです。
なお、銀行の窓販の記事は、こちらから。
内部リンク:外貨建て保険(銀行窓販問題)

さて、新しい「金融サービス仲介業」と、これまでの仲介業との違いの1点目は、この右の図のように、仲介業が「銀行・証券・保険」と業種ごとにバラバラになっておらず、これらを一括して取り扱うことができるサービスだということです。

これまでの仲介業との違い②:特定の金融機関とは分離された責任主体に

違いの2点目も、金融庁の説明資料の別のページをみながら説明しましょう。

金融庁「第201回国会における金融庁関連法律案 説明資料」4頁
https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/index.html

いままでは、銀行にせよ証券にせよ保険にせよ、仲介業は特定の金融機関に所属して、その指導監督を受けてサービスを提供していました。その代わり、サービスについての責任は金融機関が負う、ということになっていました。

これに対し、新しい金融サービス仲介業は、特定の金融機関とは切り離され、自らのサービスの提供についての責任を負うことになります。
そのため、営業保証金を供託することが要求されたり、複雑で危険な取引については取り扱いできないとされました。

ふーん、いわば、独り立ちした、って感じだね。

横断的規制と分野別規制

では、金融サービス仲介業にはどのような規制があるのでしょうか。

これも、金融庁の説明資料がわかりやすいので、使わせてもらいましょう。

金融庁「第201回国会における金融庁関連法律案 説明資料」5頁
https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/index.html

共通の規制として、
① 利用者に対する誠実公正業務(法24条)
② 手数料・報酬等開示義務(法25条)
③ 説明義務、顧客情報の適正取扱措置等義務(法26条)
④ 利用者財産預託禁止(法27条)
が挙げられます。
また、各分野ごとの規制として、銀行法、保険業法、金融商品取引法又は貸金業法の規制が準用されています(法29 条〜32条)。

「販売手数料」ビジネスから脱却できるか

あ、仲介業者は「手数料を開示しなさい」って書いてあるんだね。
たしか、手数料って、外貨建て保険の窓販のところでも出てきたね。

そうそう、銀行は、保険が売れると、保険会社からずいぶん高い販売手数料をもらっているんだったよな。

そうですね。この法律では、金融サービス仲介業者は、金融機関に対して払う手数料や報酬を利用者に開示しなければならない、とされていることが注目されます。ただし、ここでいう手数料は「仲介手数料」であって、保険代理店としての「販売手数料」ではありません。

例えば、今までの保険「代理店」としての銀行窓販であれば、「この商品、いいですよー!」と言っておきながら、実際には、販売手数料めあてに、外貨建て生命保険のように、顧客のニーズにあわないものを売りつけることもできたわけです。
もちろん、保険会社も、それをよしとしてきました。

もし、顧客が、Aという商品とBという商品で迷っているとしましょう。仲介業者が、AよりもBの方がもらえる仲介手数料が高ければ、本当はAの方が顧客に向いてるとしてもBを勧めるかもしれませんよね。

そのような事態を防ぐために、業者の「中立性」を確保するために、手数料の開示規定を設けたのです。

金融庁は、金融機関や旧来の仲介業者に対し、もう「販売手数料」ビジネスから脱却せよ、というメッセージを発しているのではないでしょうか。

なるほどな。もし、金融サービス仲介業でやっていくとすれば、そんなうまい汁は吸えないわけだ。

その代わり、中立的な立場で、顧客が自分のニーズに最もあった商品を探す手伝いができる。その助言の腕と知識が試されるわけだ。

まあ、よくよく考えてみたら、それが、本来の商品の「売り手」の役割だよな。

顧客本位原則とは

さて、このように、金融機関が、自分の利益ではなく、顧客の利益を第一に考えて業務を行うことを、顧客本位原則とか、フィデューシャリー・デューティといいます。

最近、よく聞くな、そのフィデューシャリーなんとかっていう言葉は。舌を噛みそうだけど。

ふうん。証券会社や銀行が、顧客のことを考えてくれるのは当たり前だと思っていたけど、そうじゃないの?

実は、そんなに当たり前のことではないのですよ。先物取引の話でも、業者が手数料稼ぎをしているお話はしましたよね。
内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その2

フィデューシャリー・デューティーについては、また改めて、お話しする機会もあると思いますが、この新しい「金融サービス提供法」にも、その理念があらわれていると思います。

もちろん、肝心なのは、その運用です。この法律にしたがってどのような金融サービス仲介業者がてくるか、見守っていきましょう。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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