原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その2

NY原油価格、史上初のマイナス 新型ウイルスで供給過剰

https://www.bbc.com/japanese/52351592
BBC NEWS JAPAN 2020.4.21

はじめに(「その1」のおさらい)

さて、Covid-19(新型コロナウィルス)の流行がもたらした「原油先物価格のマイナス」。これは、一体なんなのか。

「原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その1」では、原油じゃなくて、「油揚げ」先物取引を考えてみました。

もういっかい、油揚げ先物取引を復習しますよ。
①今から3か月後の2020年8月13日(清算日)に、②油揚げを、③10,000枚を1単位として、合致した値段で、④売り / 買いする。ただし、⑤取引を出す時に、取引所には預託金として1単位あたり100,000円を預ける必要があり、⑥清算日までに反対売買をして取引を終了させることができる。ということでしたね。

ふむ。
なんとなく、先物のしくみは、わかってきた気がするぞ。
でも、それでも、価格が「マイナス」になる、ということはないと思うが。商品としての価値がゼロ以下ということはないだろう。

そうですね。不思議ですよね。

なお、「その1」は、こちらからどうぞ。

内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その1

コンタンゴ

えっと、確か、「現受け」が問題、と言ってましたよね。
どういうことでしたっけ?

清算日までに反対売買をしとかないと、確か、現実に、1単位10000枚の油揚げを、買い受けないといけないということだったよな。

そのとおりです。現受けするには、倉庫や冷蔵庫が必要ですよね。

はい。さすがの私でも10000枚は一度に食べられません。

ですよね。それには、コストがかかります。これをコスト・オブ・キャリー Cost of Carry と言います。

例えば、8月13日を清算日とする油揚げ先物と、10月13日を清算日とする油揚げ先物とでは、コスト・オブ・キャリーを考えると、どちらが価値が高いですか?

そりゃ、10月13日のほうだろ。だって、10月までは冷蔵庫もいらないし、電気代もかからないからな。

そうですね。一般に、清算日が後のもの(これを、期先(きさき)といいます。)の方が、保管コストも含めると、高い値がつきます。これを、コンタンゴ(順ざや)といいます。

私がタンゴを踊るのかな?

違います(でも、語源は謎に包まれています)。

バックワーデーション

そうすると、だいたいは、先物は、コンタンゴの状態なんだな?

いいえ、実は、逆の場合もあります。

保管コストを考えても、その商品が今すぐ欲しい、という需要が大きい場合(今後枯渇しそうな場合など)は、その関係が逆転し、清算日が前のもの(これを、期近(きぢか)といいます。)が高くなることもあります。

これをバックワーデーション(逆ざや)といいます。

原油先物価格がマイナスになったわけ

では、ようやくここまできました。原油先物価格がマイナスになったことが、なぜだか分かるでしょう。

なるほどな。まず、すぐに欲しい、という需要は、新型コロナウィルス感染症のせいで、急激に落ち込んだよな。

ふんふん。それでいて、「現受け」しなければならない期限は迫ってると。

原油は、そもそも、油揚げと違って、保管コストがものすごく高いのです。備蓄基地や海上タンカーなどで保管してますよね。

このような状況が重なり、2020年4月には、いわば「ハイパー・コンタンゴ」状態になったのですね。

スーパー・ササダンゴ・マシンみたいですね。

なんですかそれは?

いえ、なんでもありません。

とにかく、期限が差し迫ってどうにもならなくなって、原油先物を買っていた市場参加者は、さすがに現受けするより、マイナスであろうとも、売り飛ばした方がまだマシ、という判断をしたのです。「マイナス」価格が、買主・売主の意向が釣り合う価格だったのですね。

なんとなくだけど・・・わかった気がします。

先物はハイリスクで複雑な取引、一般投資家には向かない

ところで、先物、ちょっとおもしろそうだな、やってみるかな。少しのお金で効率よく投資ができるのも、気に入った。

やめときましょう。
まず、勝てません。
「少しのお金で効率よく」損をすることになりますよ。あっという間です。

先物取引は、このブログではかなり簡略化して説明していますが、極めて危険な取引で、その仕組みも複雑です。

素人が手を出すべきものではありません。

私、ひどい話はたくさんできるのですが、守秘義務もあるので、ここでは、データだけ、出しておきましょう。

これは、平成30(2018)年度の、商品先物取引を行った個人の損益のデータです。一番右の合計の欄をみてください。

引用元:経済産業省平成30年度「商品先物取引に関する委託者等の実態調査」報告書175頁

へえ。合計で見ると、4割が得をして、6割が損をしてるのね。意外と勝てそう?

違いますよ。表の見方が、間違ってます。

これ、最終利益が残るのは5937人で、最終損失となるのは14730人です。実に、72%の人が損をしているのです。

ふむ。経済産業省も、わかりにくい書き方してるな・・・
運よく得した、という人もよくみると、最終では平均32万円しか勝ってないけど、損してる人は平均306万円も負けてるんだな。
これは、要するに、手数料で負けているんだな?

そうです。特に「対面取引」で、この「手数料」を稼ぐために、お客さんにたくさん取引をさせたり、無意味な取引をさせたり、といったことがよく行われているのです。

外部リンク:国民生活センター「商品先物取引・外国為替証拠金取引」

先物取引については、また他のお話をすることもありそうですね。

その先のお話・・・原油先物ETF・ETN

なお、実は、原油先物については、もっと面白い話があります。
日本の市場に上場している商品で、原油先物と連動した運用成果を目指す「原油先物ETF」あるいは「原油先物ETN」というものがあるのです。

この商品については、原油先物のコンタンゴとバックワーデーションのため、さらに興味深いことが起きているのですよ。

原油、原油先物、さらにその先があるのか・・・一体何を取引しているのやら、わからなくなるな。

これも、また別の機会にお話することにしましょう。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院客員教授(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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