路上で買ったマスクは3000円未満でも返金を求められるか(路上販売とクーリング・オフ)

路上で買ったマスク「耳ひも外れやすい粗悪品」と苦情…国民生活センター「返品も困難」と苦言

https://www.yomiuri.co.jp/national/20200511-OYT1T50157/
読売新聞オンライン版 2020.5.11

はじめに

Covid-19(新型コロナウィルス感染症)をめぐる消費者問題が増えています。

外部リンク:国民生活センター 新型コロナウイルス感染症関連

今回は、マスクの路上販売の問題について解説します。

あ、マスクの路上販売、最近、たまに見かけるようになったね。リヤカーを引いて歩行者に声をかけてた。

怪しいからちょっと買う気になれないけど・・・

まあ、おそらく、高値で売ろうと思って仕入れたマスクが値崩れをしはじめて、売れなくて、困って路上販売してるんだろうな。
仕入れ値と売り値を考えるのは、商売の基本だけど、今回は普段やってないのに手を出した人も多そうだ。

では、路上で売られているマスクの箱をあけてみたら、品質に不安があり、やっぱり返品したい、と思った場合、ということは、できるのでしょうか?

このニュースでは、国民生活センターは「返品や返金は難しい」って言ってるよ。
難しいんじゃないの?

いやまあ、結論的にはそうなんですけど、その前に、もう少し、法律的にどうなのか、考えてみましょうかね。

そのほかの路上販売にも一般化できる話をしたいと思います。

路上販売=訪問販売

さて、そもそも、路上販売は、特定商取引法という法律で、「訪問販売」と位置付けられます。

訪問販売って、なんだか家にピンポーンってくるイメージがあるけど、路上販売も訪問販売なの?

そうなんですよ。
営業所外での取引は訪問販売に当たります。
なお、露店や屋台のように一定期間商品を陳列するものは店舗での販売となり、訪問販売にはなりません。

また、一定の態様で営業所に誘引する取引(キャッチセールス・アポイントメントセールス)も訪問販売になるんですよ。

マスクの路上販売はクーリング・オフできる

あ、訪問販売なら、クーリング・オフができるんじゃないの?
確か、8日間ならできるって聞いたことあるよ。

その通りですね。まず、クーリング・オフについて説明しますね。

クーリング・オフとは、頭を冷やす」cooling-offということです。

訪問販売や電話勧誘販売などの不意打ち的な勧誘とか、連鎖販売取引(マルチ商法)などの複雑で誘惑的な取引で、つい契約してしまった場合でも、頭を冷やし、一定期間ならば、無条件で解除できる、という制度ですね。

外部リンク:国民生活センター「クーリング・オフ」

クーリング・オフは知ってるが、マスクなんか一度箱をあけたら使えないだろ?
消耗品でもクーリング・オフできるのか?

まず、マスクは、特定商取引法上は「消耗品」ではありません。

特定商取引法がいう「消耗品」は、この8類型のみです。

特定商取引法施行令6条の4、別表第3
① 動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であつて、人が摂取するもの(医薬品を除く。)
② 不織布及び幅が十三センチメートル以上の織物
コンドーム及び生理用品
防虫剤、殺虫剤、防臭剤及び脱臭剤(医薬品を除く。)
⑤ 化粧品、毛髪用剤及び石けん(医薬品を除く。)、浴用剤、合成洗剤、洗浄剤、つや出し剤、ワックス、靴クリーム並びに歯ブラシ
履物
壁紙
医薬品、配置販売業者が配置した医薬品

むう。なんだかよくわかんない分類だね・・・

なお、「消耗品」の場合は、使ってしまった後はその部分についてはクーリング・オフできない(特定商取引法26条5項1号)とされています。

ただし、例外の例外として、消耗品であっても、クーリング・オフができる場合があります。

少し難しくなりますが、
・「誘導開封」といって業者がわざと使わせた場合
・特定商取引法で定められた交付書面に消耗品がクーリング・オフできないことの記載がない場合
などは、クーリング・オフできるんですよ。

とにかく、マスクは消耗品じゃないし、クーリング・オフして返金を求められるということだな。

3000円未満でもクーリング・オフできる?

すみません、なんか、インターネットを見てると、「3000円未満の現金取引」のときはクーリング・オフできない、って書いてあるけど・・・

マスクがもし2500円の場合はクーリング・オフできないのかな?

これは、いい質問ですね。今後、また値下がりしそうですもんね。

結論を先に言いますと、クーリング・オフできる場合がある、ということになります。

確かに、3000円以下の現金取引ですぐに商品を受け取ったような場合は、クーリング・オフできない(特定商取引法26条5項3号)とされているのですが、これも例外の例外があります。

さっきの消耗品の話とよく似てますが、
・特定商取引法で定められた交付書面に3000円未満の現金取引がクーリング・オフできないことの記載がない場合
には、クーリング・オフができるのです。

特定商取引法施行規則6条5項
法第5条第2項に規定する場合であつて、当該売買契約に係る商品若しくは特定権利の代金又は当該役務提供契約に係る役務の対価の総額が法第26条第5項第3号の政令で定める金額に満たない場合において、その売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除を行うことができないこととするときは、第1項の書面には、その契約の申込みの撤回又は契約の解除を行うことができない旨を記載しなければならない。

条文が難しいな・・・
ともかく、路上でマスク売ってる事業者の多くは、そもそも、特定商取引法で定められた書面を渡したりしていないんじゃないか。

そうですね。書面交付から8日間がクーリング・オフ期限ですから、きちんとした書面の交付がない場合は、8日間を超えてても、クーリング・オフできますよ。

法定書面の不交付は刑事罰もある

ふうん。
さっきから話を聞いてると、クーリング・オフについては、事業者からもらう書面がとても重要になるんだね。

そうです。特定商取引法に定める書面は、クーリング・オフができるか/できないかを左右する重要なものです。

それだけでなく、定められた書面を交付しなかった場合や書面に不備や虚偽記載がある場合は、重い刑事罰もあるんですよ(特定商取引法71条、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金)。

これは、訪問販売をやる側としても、十分気をつけないといけないな。

困ったら相談を

ということで、どうやらマスクの路上販売は、クーリング・オフができる場合がありそうですね。

とはいえ、読売新聞の記事にもあるように、そもそも、返金を求めようにも業者が誰かわからない、ゆくえを突き止められない、ということで、実際の返金には、困難が伴うことでしょう。

例の「188」(いやや)に相談した方がいいかもしれませんね。

または、お近くの消費生活センター・消費生活相談窓口に電話されてもいいと思います。どちらも下のリンクから探せますよ。

外部リンク:国民生活センター「消費者ホットライン188」


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください