Covid-19(新型コロナウィルス感染症)で結婚式ができない

結婚式などキャンセル料めぐる法律相談が増加 新型コロナ

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200506/k10012419441000.html NHKニュース 2020.5.7.

現在、Covid-19(新型コロナウィルス感染症)をめぐる消費者問題が急増しています。

この「きょうの消費者ニュース」でも、いくつか記事を書きましたよ。
記事:マスクの送りつけ商法
記事:マスクが届かない(ECサイト詐欺)

今回は、結婚式(挙式・披露宴)の中止や解約について考えてみましょう。

結婚式の中止や延期をめぐる問題とは

さて、結婚式(挙式・披露宴)の中止や延期の問題というのは、要するに、中止や延期の場合に、申込金を返金しない、一定の費用(解約料、延期料)がかかる、といったことです。

このNHKニュースを読んでみたよ。

国民生活センターによれば、全国の消費生活センターには、新型コロナウイルスに関する結婚式の中止や延期などの相談が、2020年4月27日までに1373件もあったんだって。

ところで、これまでも出てきたけど、国民生活センターって何?

国民生活センターは、全国にある消費生活センターの相談を支援したり、商品テストなどをやっている「消費者問題の中核的機関」だよ。
そうそう、あとは、土日祝日の相談もやっています。

詳しくはこれをみてね。
外部リンク:国民生活センター

ふむ。このコロナの問題の前だけど、ぼくの友達もいろいろあって結婚式を中止して、4か月前だったのにけっこうな解約料をとられたって言ってたな。

そうなのです。この種の相談は、もともと多いのです。

国民生活センターには、毎年、数多くの相談が寄せられており、そのほとんどが解約がらみの相談です。

外部リンク:国民生活センター(トラブルになってからでは遅い!結婚式トラブルへの備えとは-「キャンセル料」「打合せ不足」に関するトラブルが後を絶ちません-

また、国民生活センターのADRの公表事例をみれば、より詳しくトラブルの実情がわかるでしょう。

外部リンク:国民生活センター「国民生活センター紛争解決委員会によるADRの結果の概要 他の役務」

さて、Covid-19の関係で結婚式が中止になった場合、解約料を支払わなければならないのでしょうか。

さっきの国民生活センターのサイトには「打ち合わせ」不足が原因と書いてあるけど、そもそも、今年の1月くらいまでは、Covid-19のことなんか誰も知らなかったし、そもそも「打ち合わせ」なんかできないもんね。
だから、私は、解約料なんか払わなくていいと思うな。

いやいや、会社をやっているものとして言わせてもらうが、それはおかしい。
解約した場合にはお金がかかることを説明しているんだから、Covid-19のことがあろうが、解約料は払ってもらわないと困るな。実際にも、いろんな準備したりしてお金もかかってるんだし。
それに、実際、しばらく結婚式の受注は激減するだろうから、挙式予定日の枠が空いたとしても、その枠はまず埋まらないだろうしな。

ほらほら、本音が出た。やっぱりしばらく結婚式ができないから、解約料で儲けようとしてるんでしょ?

そんな言い方はないだろう!いろいろ大変なんだぞ。

まあまあ、落ち着いてください。
両方の立場も、よくわかりますね。

まず、結婚式がそもそも「できない」のか、それとも消費者が「やらない」のか、を、一応、分けて考えるべきです。そして、それは、いつの段階でどのように判断されるべきなのかも重要ですね。

「できない」場合

さて、2020年4月7日に緊急事態宣言が発出され、これが16日に全国に拡大されて以降も、各都道府県で、結婚式場は休業要請の対象にはなっていません。ただし、営業を自粛している式場もありますし、ホテルなどを利用する場合に、ホテルの宴会場が使用できないという場合もあるでしょう。

このような場合は、実施「できない」わけですから、消費者にお金を請求することはできませんし、申込金も返金されるべきです。

でも、事業者は自粛っていっても、本当はやりたいんだけど、カッコつきの「自粛」だからなあ。かわいそうじゃないか?

そうですね。ただし、消費者に非があるわけでもありません。これは、法律的にいうと、「危険負担」の「債務者主義」の考え方です。

民法536条1項:当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

いや、意味わかんないです・・・

そうですね。私も司法試験のときに、債権者ってどっちだっけ?反対給付って何だっけ?債務者主義ってどっちだっけ?とよくわからなくなりました。

ええっと、つまり、こういうことですね。

「当事者双方に責任がない理由で結婚式ができなくなったときは、料金を払わなくていいよ」

ふむ。法律でそうなってるのか・・・なんとかお客さんにキャンセルの書類を書いてもらって、解約料を取れないかな・・・。あとは「こういう場合でも準備にお金がかかってるので見積額の半分はもらいます」という条項があっても、ダメかな?だって実際しんどいぜ、経営。

そうですね。

民法536条1項は「任意規定」なので、それとは違った条項を設けることはできますが、消費者契約法10条というものがありまして、条項としては、無効となる可能性が高いと思います。

消費者契約法10条:消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

「やらない」場合

次に、「やらない場合」です。

「感染防止対策をすれば一応、やってやれないことはない」と考えられる場合は、「解約」の問題になります。「解約」とは、契約で、とくべつに解除の権利を認めるという「約定解除」になります。

ほとんどの事業者が「消費者からの解約」を認めるとともに、その場合に、解約時期に応じた解約金条項を定めているものと思われます。

例えば、この表は、公益社団法人日本ブライダル文化振興協会が公表しているモデル約款です。

外部リンク:公益社団法人日本ブライダル文化振興協会「安心・健全なブライダル業界に向けて」

ただし、この、結婚式場が定める解約料の水準が、そもそも妥当かどうかについては、議論の余地があります。

というのも、消費者契約法9条1号で、一定以上の解約料の条項は無効とされているからです。

消費者契約法9条:次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする
① 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

「平均的損害」とは、「同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な 損害の額」、すなわち、「解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の額の平均値」とされていますね。

この「平均的損害」については、今、法律の改正の議論があります。また別に記事にすることがあるでしょう。

「できない」/「やらない」が明確に分けられる?

・・・うーん、ちょっと少し戻っていいですか?そもそも、「感染防止対策をとって一応やれんことはない挙式」って、結婚式としてどうなんですかね?
だいたい、外出するな、と言われているわけですし。

まあ、確かに感染者が出たら式場の責任になったら困るし。
「新しい生活様式」にしたがえば、食事は丸テーブルを囲むのは禁止で、横並びで黙って食べるということになるな。
あとは、ケーキ入刀で入刀したケーキの取り分けも新郎新婦からの飛沫が飛んでるかもしれないし、なしで。
そうすると、ライスシャワーやブーケトスもダメかもしれないな・・・
Zoomでやるしかないのかも。

ええ・・そんな結婚式は行きたくない、って人も多いと思うんですが・・・

確かに、今回の場合、「やらない」は、「できない」と同一視できる、あるいは、少なくとも、限りなく「できない」に近い場合もありそうですね。

先のブライダル文化振興協会も、2020年4月6日に、事業者向けに、「住民に対する外出自粛や施設等の使用制限が要請された場合、実質的には結婚式の実施は難しくなると想定されます」として、緊急事態宣言下では、実施困難であるとしています。

外部リンク:ブライダル文化振興協会【会員各位】緊急事態宣言が発令された場合の対応について

そうなってくると、先ほどの「危険負担」の話になるとも思われます。

なに?それはちょっと事業者に厳しすぎないか?

でも、さっきも言ったけど、誰も、Covid-19のことなんか予測できなかったわけでしょ?なんで、そのことについて、消費者が負担を一方的に押し付けられるのかな。

なかなか難しい問題ですね。

でも、これは、さっきも言ったとおり、covid-19特有の問題ではなく、結婚式場契約をめぐるトラブルの本質的な側面でもあります。

つまり、さまざまな不確定要素がある中で高額の契約をする、ということにまつわる問題なのです。

「できない」/「やらない」を超えて

今回、Covid-19特有の問題があるとすれば、できない/やらない、の判断が刻々と変わっていき、また、どのような展開をたどるか予想できないということです。

あ、確かに「こっちからキャンセルすると損だから、事業者から、できない、と言ってくるのを待とう」なんて思ってるとずっと不安定な状況が続くことにもなるね。それはストレス。

なお、ブライダル業界には、いくつか新たな動きもあるようですよ。
例えば、この「withコロナ時代の結婚式宣言」では、延期であれば、負担額を実費相当額のみ、または解約料を全額延期後の費用に全額充当する方針を呼びかけています。

外部リンク:「withコロナ時代の結婚式宣言」に全国25社118式場が賛同〜垣根を越え、新郎新婦を応援すべく各社が協力!〜

「新しい生活様式」ということばはあまり好きになれませんが、結婚式場も、新しい対応が求められる時代になってきたことは確かです。

それは、何度も繰り返すようですが、Covid-19特有の問題ではなく、Covid-19が、結婚式場契約をめぐるもともとの問題を改めてあぶり出した、といえるのではないでしょうか。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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