目次
はじめに:キックボードの事故が相次ぐ
さいきん、いい天気が続いてるね。
うちの子は、キックボードを買って、喜んで乗っているよ。
なかなか楽しそうだね。海外では、子供だけじゃなく大人もよく乗っているみたいだけど。
ああ、たまに、通勤とかでも使っている人がいるよな。
車やバイクと比べたらエコだし、いいんじゃないか。
せまい日本の道だし、こういう交通手段もあってもいいよな。
単なる移動だけでなく、ウーバーイーツとかそういう配達にも使われそうだよな。
そうですね。
子どもは遊びに、大人は仕事にも、キックボード(キックスケーター、キックスクーター)を使う人が増えてますよね。
でも、キックボードは、深刻な事故も多いんですよ。
まず、こちらは、電動でない、足蹴り式のキックボードの事故。怖いですね。
外部リンク:国民生活センター「死亡事故も!キックスケーター走行中の事故に注意」
わあ・・・これは怖い。
うちの子には絶対にヘルメットやサポーターをさせよっと。
そして、次は、電動キックボード。こっちもけっこうひどい事故が起こっています。
外部リンク:NHK NEWSWEB「電動キックボードでひき逃げ疑い 男を逮捕 摘発は極めて異例」
むむむ・・・
これは悪質だ。
しかし、歩道を歩いていただけの歩行者としては、避けようがないよな・・・
きょうは、キックボードの安全性と法律の規制について考えてみます。
電動キックボードは「原付」
まず、電動キックボードのほうからみていきましょう。
これは、簡単です。
まず、電動キックボードは、道路交通法・道路運送車両法上は、「原動機付自転車」に分類されます。
へえ、原付なのか。
そうですね。
ですので、自賠責保険に加入して、ナンバープレートを表示し、ヘルメットも被らないといけません。
当然歩道を走行してはダメですし、ライトもつけなければいけません。
ですので、さきほどのひき逃げの事案は、原付なのに歩道を走行していたわけですから、完全に、道路交通法違反ということになりますね。
有識者会議:ノーヘル公道走行の実証実験
ところが、2020年7月に、警察庁のもとに「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」が設置され、これを緩和しようという動きがあります。
外部リンク:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」
その中で、電動キックボードについては、このような議論がとりまとめられました。
ふむふむ。
シェアリング事業者からは、「ヘルメットの着用を任意にしてほしい」という意見が挙げられているんだね。
ヘルメットの着用義務があることが「普及に障害になっている」・・・
まあ、街角でレンタルサービスを提供する事業者としては、いつでも気軽に借りられる、というのをアピールしたいよな。
でも、やっぱり安全が第一だよね。
公道を走るんならヘルメットがいるんじゃないの?
でも、自転車は公道を走ってるけど、ヘルメットなんかしてない人が圧倒的に多いぜ?
自転車に比べたら、むしろ、電動キックスケーターのほうが、安定してるんじゃないか?
さて、警視庁では、このような有識者会議の議論を踏まえて、2021年4月から「実証実験」を行うために特例措置をとっています。
外部リンク:警視庁「特例電動キックボードの実証実験の実施について」
この特例措置は、
・特例電動キックボード(=最高速度15キロメートル毎時以下等の基準に該当し、かつ、認定を受けた新事業活動計画に従って貸し渡され、定められた区域内の道路を通行している電動キックボード)について、
・原付ではなく「小型特殊自動車」とし、
・ヘルメットの着用を任意とし、
・一部の公道(自転車道や普通自転車専用通行帯)を通行できるようにするものです。
有識者会議では、ヘルメット着用を義務とすべき、という意見もあったのに。
シェアリング業者の「ヘルメットを任意にして」という意見のほうが採用されちゃったんだね・・・
そのとおりです。
いやあ、でもヘルメットがいるとなるとさあ、気軽に乗れないだろ?
ビジネス的には、このへんは、しょうがないとおもうぞ。
それに、「小型特殊自動車」扱いなんだから、乗るには普通免許が必要なわけだし、普通免許を持っていれば、交通ルールもわかっているし、そんな無茶苦茶な運転をする人はいないだろ。
日本の交通環境と電動キックボードの公道走行について
さて、どちらの意見もありそうですね。
ただし、さきに言っておくと、電動キックボードの公道走行、とりわけノーヘルでの走行を認めることは、日本の道路事情からすると極めて危険が大きいのではないか、というのが、筆者の意見です。
日本における交通行政には、実は、根本的な問題があり、自転車の位置づけがあいまいなままにされており、歩道では歩行者にとって脅威となり、車道では自動車との衝突の危険がある、という点が全く改善されていません。
道交法上の自転車運転者の位置づけをめぐる歴史については、下記にかんたんにまとめています。
2014年に書いたものなので、その後の法改正は触れられていませんが。
外部リンク:御池ライブラリー39号「自転車事故と自転車運転者の責任」
なるほどな。
車を運転しているものからすると、自転車はほんとうに危ないなあ、とおもうときがあるな。車とスピードが違いすぎる。スピード差は事故のもとだから、遅ければ安心というわけではない。
本来、同じ道路で、車と自転車は、共存できないとおもうぞ。分離すべきだよな。
そうだね。
でも、ほら、まちなかにも、最近、自転車の専用レーンが増えてるじゃない?
けっこう、そのへんも整備されてきたと思うんだけどなあ。
ひょっとして、KONさんのいっているのは、こういうやつでしょうか?
そうそう、それそれ。
これがあるから、自転車も安心して走行できるよね。
これは、自転車の専用のレーンなんでしょ?
これは・・・ちがいます。「自転車道」でもなければ、「自転車専用道路」でも「自転車専用通行帯」でもありません。
これは、警察が「自転車ナビレーン」とか「ナビライン」と呼んでいるだけのもので、いわば、道路の「塗装」ですね。「矢羽根型路面表示」とも呼ばれています。
これは、自転車は、公道の左端を走ってね(まあ、これは法律上当たり前のことなんですが)、というくらいのものであって、法律上の意味は、とくにないんです。
え?そうなのか?全然知らなかったぞ。
車に乗っていて、あのマークがあるところは、あのレーンにはいってはいけないのかと思ってた。左折のときもわざわざ左をあけて大回りの左折をしてたな。ちがうのか・・・
あれは、本来であれば、自転車道や自転車専用道路、自転車通行帯をつくって、自動車、歩道、自転車を完全に分離すべきところを、なかなか既存の道路に手を付けるのは難しいから、道路に色を塗って、「なるべくここを通行しましょう」ということで、お茶をにごしているのです。
でも、それだと、根本的に解決にならないし、自転車も車も安心できないよね。
そのとおりです。
ナビライン・ナビレーンを設置しても、自転車の歩道走行はたいして減らなかった、という京都市の資料もあります。
ちなみに、この資料は、なかなか面白くて、「有識者」(規制を積極的に評価)と「市民」(余り評価せず)の間に温度差がある、ということを示しており、「有識者」なるものの存在意義について、けっこう興味深いものがあります。
外部リンク:京都市「第4回 京都市自転車走行環境整備ガイドライン部会 協議資料」
本題に戻りますが、電動キックボードの公道走行を実験する前に、まずは、この自転車と自動車の交通としての完全分離、という課題に根本的に取り組むべきではないでしょうか、ということです。
このまま、なし崩しに電動キックボードのノーヘル走行が認められると、自転車道や自転車専用通行帯以外にも進出していくことは目に見えています。そして、重大な事故が起きてしまう、ということになりかねません。
電動キックボードの頭部外傷事故は増加している
さて、すでに電動キックボードの普及している海外でも、事故、とりわけ頭部外傷事故が増加しているとのニュースも目立ちます。
外部リンク:ForbesJapan「多発する『電動キックボード』の怪我、脳に障害与えるケースも」
外部リンク:engadget日本版「電動キックボードによる負傷、4年で4倍 『頭部にケガ』の割合高く」(webarchive)
しかも、頭部外傷が多く、また、単独転倒事故が多い、ということです。
電動キックボードは、見た目が簡単そうにみえて、油断してスピードを出しすぎてしまい、転倒することがあるのかもしれませんね。
報告書によれば、韓国では、電動キックボードについて免許を必要としているほか、ヘルメットの着用を義務付けているようです。
その理由は、単独転倒事故による死亡者が、他の車両との衝突による死亡者とほぼ類似した水準にあったため、ということです。
日本における交通事情を考えるに、単独転倒事故のみならず、自動車との衝突の可能性も考えると、ノーヘルでの走行を認めることについては、大きな疑問があります。
まずは、この実証実験で、悲惨な事故が起こらないことを祈るのみです。
ところで、プレジデントオンラインに、元トラック運転手の橋本氏が、実際に実証実験に試乗され、危険性を指摘する記事を書いておられましたので紹介します。
右折時に小回り右折が強制されること(原付きのような二段階右折はむしろ禁止となります。)、左側端の道路状況の悪さなど、自動車のドライバーの観点からも大変、具体的で示唆に富む内容で、参考になります。
筆者も、まったく同意見です。
外部リンク:President Online「ノーヘル、右折OK…あまりに危険」電動キックボードの車道走行は禁止すべきだ
電動ではないキックボードも十分注意が必要
さて、電動ではない人力のキックボードについてもかんたんにみていきましょうか。
さて、キックボードは、道路交通法上は、「ローラ-・スケート」の類になります。
道路交通法76条4項 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
①道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと。
②道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。
③交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。
(以下略)
これは、罰則もあります(道路交通法119条1項12の4、3月以下の懲役または5万円以下の罰金)。
ですので、これを反対に解釈すれば、交通のひんぱんな道路でなければ遊んでもいい・・・ともいえますが、お子さんなどについては十分注意し、道路に飛び出してしまうということもありえますから、道路では遊ばないほうがいいのではないでしょうか。
法律に反してなければいい、というものでもないしね。
それに、ヘルメットはやっぱり必要だね。
追記(2022.5.11)
この件ですが、その後、実証実験結果を受けて、電動キックボードを免許なし・ヘルメットなしで乗れるようにする、という法案が出され、2022年4月19日に、道路交通法が改正されました。
概要は次のとおりです。
ついに、電動キックボードが、免許なし・ヘルメットなしで乗れるようになるわけです(現在のところ未施行。施行されるのは、成立後2年以内です)。はたして、これでいいのでしょうか。実証実験の結果は、この結論を支持するものだったのでしょうか。
これは、ちょっと別記事を書いてみました。続編です。
内部リンク:きょうの消費者ニュース「電動キックボードを無免許・ノーヘルで乗っても大丈夫?:「特定小型原動機付自転車」の誕生」
コメント (2 件)