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はじめに:道路交通法の改正と「電動キックボード」
電動キックボードのはなしは、去年の夏くらいにいちどした気がするね。
なんだか、ヘルメットなしでも危険じゃないかどうかについて確かめるために、社会実験的なことをやってる、という話だったと思うけど。
東京とか、大阪でやっていたみたいだな。
あれ、どうなったんだろうな。
そうですね。
去年6月の記事ですが、こちらで紹介しました。
内部リンク:きょうの消費者ニュース「電動キックボード(キックスケーター)で公道を走ってもいい?電動でないやつは?」
きょうは、このはなしの続きをしたいと思います。
実証実験の結果は?
詳細は、過去記事をみていただくとして、かんたんにいうと、もともと、電動キックボードは「原付」扱いだったわけです。それが、「免許なしで乗れるようにしたほうがいいのでは?」という規制緩和が議論されることになりました。
そして、2021年4月の有識者委員会の中間報告では、「でもまあ危ないしやっぱりヘルメットはいるんじゃないの?」という意見と、「いや、免許だけでなくヘルメットもいらない」という(事業者の)意見があり、それなら実験しましょう、ということで実験がされたわけです。
そうだったな。
で、どうだったんだ?
はい、実証実験の結果は、これです。
外部リンク:経済産業省ウェブサイト「電動キックボード実証実験の結果概要及び安全対策」(PDF直リンク)
ここに、事故・違反件数の一覧がまとめられていますね。みてみましょう。
へえ、すごい。
のべ8万5000人が乗ってて、事故はたったの11件でしょ。交通違反も少ないしねえ。意外と、安全なんだねえ。
なんだかあやしいくらい少ないな・・・前の記事だと、特に海外だと、死亡事故とか、危ない事故が増えてるみたいなことを言ってたと思うんだが。
そうそう、これこれ。このあたりの記事。
外部リンク:ForbesJapan「多発する『電動キックボード』の怪我、脳に障害与えるケースも」
外部リンク:engadget日本版「電動キックボードによる負傷、4年で4倍 『頭部にケガ』の割合高く」(webarchive)
まあ、海外はともかく、日本なら、ヘルメットなし、免許なしでも問題なさそう、ということになりそうだな?
実証実験の「からくり」
一見、そう思いますよね。
しかしながら、これにはいくつか、からくりがあります。
まず、この実証実験は、普通運転免許保有者に限定された実験です。ですので、そもそも、この結果をもって、「免許必要」から「無免許」に緩和する根拠には、まあ、なりませんよね。
なるほど、まあそりゃそうだよねえ。
また、運営業者は、各社とも、実証実験なので、「ここで事故をおこすわけにはいかない」ということで、お客さんに対する対応も、かなり気合いが入っています。乗車前に、運転免許の登録のほか、道路交通法のテスト(全問正解が必須)が必要ですし、運転については、事前に相当な注意喚起がなされています。
また、速度も15km/h以下に抑えられています(これは、今回の道交法改正の制限速度20km/hよりも低いです。当たり前ですが、15km/hと20km/hでは、随分ちがいますよね。)。
いってみれば、「優等生」を対象にした実験、というわけだな。
そりゃ事故も違反も少なくなる、という気もするな。
もう1点、違反件数ですが、これもからくりがあります。
警察は、電動キックボードの交通違反があったとして、積極的に検挙しようとするでしょうか?
自分のとこでやってる実験だから?
まあ、それも(たぶんかなり)ありますけども、そもそも警察官自身が、電動キックボードをめぐる道交法上の規制(とくに実証実験という特殊なケースについて)について十分理解していない、ということが考えられるからです。
そんなことないだろ。さすがに
だって、原付扱いなんだろ?
違います。実は、実証実験においては、電動キックボードは「原付」ではなく「小型特殊自動車」として取り扱われました。
外部リンク:警視庁「特例電動キックボードの実証実験の実施について」
これ自体、そもそも、現場の警察官に十分に周知がされていたかどうかは、甚だ疑問です。交通違反があったとしても、「んー、ようわからん。」として、見逃されてしまったケースなどもあるのではないでしょうか。
ということで、この結果をもって「大丈夫」といえるかどうか、私には大いに疑問です。
埼玉県警での実験:無免許者の違反行為が多いのに・・・
さらに、これは、すでに、加藤久美子さんが下記記事で指摘されているのですが、有識者検討会の報告書にも挙がっている埼玉県の運転免許センターでの実験が興味深いです。
これは、運転免許あり10人/運転免許なし10人を比較した電動キックボードの走行実験が行われたのですが、ここでは、「免許なし」の人のほうに交通違反が多数見られた、というはっきりした結果が出ています。
外部リンク:くるまのニュース「なぜ警察庁は「免許不要」にしてまで電動キックボードを普及させたい? 危険な実験データ公開! 緩和理由を警察庁に聞いてみた!」
しかし、どういうわけか、この「報告書」では、結論として「結果をみると、運転免許を受けている者と受けていない者との間で、一部の項目を除き、運転者の運転行動に全体的には大きな差はないと言うことができる。」「個々の違反行為では大きな差が生じているものもあるが、これらはもっぱら交通ルールに関する知識の差が要因となっているものと考えられる。」として、片付けられてしまっています(報告書44頁)。
えー、いやいや、これ、あきらかに免許なしの人のほうが、違反行為、多いでしょ。
「知識の差が要因」って、まさにそれが問題なんじゃない?よくわかんないな・・・
ということで、電動キックボードは無免許にしてよい、という根拠が、やっぱりどこにも見当たらないんですよね。その反対の根拠はたくさんみつかるんですが・・・
「有識者」はそういう疑問を持つ人は、いなかったんでしょうかね。
8割が電動キックボードに「ヘルメットが必要」という意見
さらに、ヘルメットについても、上記の表のように、免許を持っている人も、持っていない人も、実に8割近い人が「ヘルメットが必要」という意見を持っています。
このことも、報告書では重視されているようには、みえません。
免許なし・ヘルメットなしでOKという根拠は希薄であり、法改正は疑問
ということで、電動キックボードについて免許なし・ヘルメットなしでもOK、という根拠は、この報告書には、どこにも、みあたらないのです。
強いていうなら、「自転車も無免許、ノーヘルなんだからいいんじゃね?かたいこというなよ」という感覚だけです。
そして、この「自転車もいいんだから、いいんじゃね」という話も、当たり前ですが、まったくもって電動キックボードの免許なし・ヘルメットなしを許容しない、ということです。
日本における自転車をめぐる交通行政には、実は、根本的な問題がありまして、それを放置したまま、さらに新たな電動キックボードという類型をもちこむ、ということは非常に大きな危惧をもっています。
すなわち、道交法上、自転車の位置づけがあいまいなままにされており、歩道では歩行者にとって脅威となり、車道では自動車との衝突の危険がある、という点が、全く、まー-ー-ったく、改善されていない、ということです。
内部リンク:きょうの消費者ニュース「電動キックボード(キックスケーター)で公道を走ってもいい?電動でないやつは?」
本来であれば、自転車道や自転車専用道路、自転車通行帯をつくって、自動車、歩道、自転車を完全に分離すべきところ、それを全然やってないよね、ということだったよね。
そんななかで、電動キックボードも導入されて、いったい、どうなるのか・・・
そうそう。自転車の交通整備すら全然やらないでいて、新しいものに手を出してどうするんだ、というのが、私の正直な感想です。
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