目次
はじめに(「その1」のおさらい)
さて、Covid-19(新型コロナウィルス)の流行がもたらした「原油先物価格のマイナス」。これは、一体なんなのか。
「原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その1」では、原油じゃなくて、「油揚げ」先物取引を考えてみました。
もういっかい、油揚げ先物取引を復習しますよ。
①今から3か月後の2020年8月13日(清算日)に、②油揚げを、③10,000枚を1単位として、合致した値段で、④売り / 買いする。ただし、⑤取引を出す時に、取引所には預託金として1単位あたり100,000円を預ける必要があり、⑥清算日までに反対売買をして取引を終了させることができる。ということでしたね。
ふむ。
なんとなく、先物のしくみは、わかってきた気がするぞ。
でも、それでも、価格が「マイナス」になる、ということはないと思うが。商品としての価値がゼロ以下ということはないだろう。
そうですね。不思議ですよね。
なお、「その1」は、こちらからどうぞ。
内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その1
コンタンゴ
えっと、確か、「現受け」が問題、と言ってましたよね。
どういうことでしたっけ?
清算日までに反対売買をしとかないと、確か、現実に、1単位10000枚の油揚げを、買い受けないといけないということだったよな。
そのとおりです。現受けするには、倉庫や冷蔵庫が必要ですよね。
はい。さすがの私でも10000枚は一度に食べられません。
ですよね。それには、コストがかかります。これをコスト・オブ・キャリー Cost of Carry と言います。
例えば、8月13日を清算日とする油揚げ先物と、10月13日を清算日とする油揚げ先物とでは、コスト・オブ・キャリーを考えると、どちらが価値が高いですか?
そりゃ、10月13日のほうだろ。だって、10月までは冷蔵庫もいらないし、電気代もかからないからな。
そうですね。一般に、清算日が後のもの(これを、期先(きさき)といいます。)の方が、保管コストも含めると、高い値がつきます。これを、コンタンゴ(順ざや)といいます。
私がタンゴを踊るのかな?
違います(でも、語源は謎に包まれています)。
バックワーデーション
そうすると、だいたいは、先物は、コンタンゴの状態なんだな?
いいえ、実は、逆の場合もあります。
保管コストを考えても、その商品が今すぐ欲しい、という需要が大きい場合(今後枯渇しそうな場合など)は、その関係が逆転し、清算日が前のもの(これを、期近(きぢか)といいます。)が高くなることもあります。
これをバックワーデーション(逆ざや)といいます。
原油先物価格がマイナスになったわけ
では、ようやくここまできました。原油先物価格がマイナスになったことが、なぜだか分かるでしょう。
なるほどな。まず、すぐに欲しい、という需要は、新型コロナウィルス感染症のせいで、急激に落ち込んだよな。
ふんふん。それでいて、「現受け」しなければならない期限は迫ってると。
原油は、そもそも、油揚げと違って、保管コストがものすごく高いのです。備蓄基地や海上タンカーなどで保管してますよね。
このような状況が重なり、2020年4月には、いわば「ハイパー・コンタンゴ」状態になったのですね。
スーパー・ササダンゴ・マシンみたいですね。
なんですかそれは?
いえ、なんでもありません。
とにかく、期限が差し迫ってどうにもならなくなって、原油先物を買っていた市場参加者は、さすがに現受けするより、マイナスであろうとも、売り飛ばした方がまだマシ、という判断をしたのです。「マイナス」価格が、買主・売主の意向が釣り合う価格だったのですね。
なんとなくだけど・・・わかった気がします。
先物はハイリスクで複雑な取引、一般投資家には向かない
ところで、先物、ちょっとおもしろそうだな、やってみるかな。少しのお金で効率よく投資ができるのも、気に入った。
やめときましょう。
まず、勝てません。
「少しのお金で効率よく」損をすることになりますよ。あっという間です。
先物取引は、このブログではかなり簡略化して説明していますが、極めて危険な取引で、その仕組みも複雑です。
素人が手を出すべきものではありません。
私、ひどい話はたくさんできるのですが、守秘義務もあるので、ここでは、データだけ、出しておきましょう。
これは、平成30(2018)年度の、商品先物取引を行った個人の損益のデータです。一番右の合計の欄をみてください。
へえ。合計で見ると、4割が得をして、6割が損をしてるのね。意外と勝てそう?
違いますよ。表の見方が、間違ってます。
これ、最終利益が残るのは5937人で、最終損失となるのは14730人です。実に、72%の人が損をしているのです。
ふむ。経済産業省も、わかりにくい書き方してるな・・・
運よく得した、という人もよくみると、最終では平均32万円しか勝ってないけど、損してる人は平均306万円も負けてるんだな。
これは、要するに、手数料で負けているんだな?
そうです。特に「対面取引」で、この「手数料」を稼ぐために、お客さんにたくさん取引をさせたり、無意味な取引をさせたり、といったことがよく行われているのです。
外部リンク:国民生活センター「商品先物取引・外国為替証拠金取引」
先物取引については、また他のお話をすることもありそうですね。
その先のお話・・・原油先物ETF・ETN
なお、実は、原油先物については、もっと面白い話があります。
日本の市場に上場している商品で、原油先物と連動した運用成果を目指す「原油先物ETF」あるいは「原油先物ETN」というものがあるのです。
この商品については、原油先物のコンタンゴとバックワーデーションのため、さらに興味深いことが起きているのですよ。
原油、原油先物、さらにその先があるのか・・・一体何を取引しているのやら、わからなくなるな。
これも、また別の機会にお話することにしましょう。