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はじめに
NITE(製品評価技術基盤機構)は、非常にインパクトのある動画を公開しています。
まずは、これをみてください。
外部リンク:NITE モバイルバッテリー「4.インターネットで購入したモバイルバッテリーから発火」
わあ・・・これは怖いね。
携帯電話が膨らんだかと思うと・・・いきなり爆発みたいな感じで燃えるんだね。
留守中とか、寝てる間に充電することもあるけど、こんどからはやめておこう・・・
冒頭のプレスリリースにありますように、インターネットで購入した製品事故が増えています。
NITEによれば、2015年から2020年の間の製品事故情報5112件(購入経路が判明しているもの)あり、そのうち、インターネットで購入した製品による事故はそのうち657件と、1割以上となっています。
とくに、モバイルバッテリーの事故は急増しており、経済産業省によれば、2013年に9件だったのが、2017年には53件となっています。
外部リンク:経済産業省 モバイルバッテリーによる事故にご注意
なお、過去の記事でも書きましたが、2020年11月、Amazonマーケットプレイスで購入したモバイルバッテリーから出火した件で、米アマゾン・ドット・コムやアマゾンジャパンに損害賠償を求める訴訟が提起されたことも記憶に新しいですね。
これについては、こちらをどうぞ。
内部リンク:アマゾンは出品者の商品の欠陥によって生じた火災について責任を負うか〜デジタル・プラットフォームの不法行為責任〜
きょうは、製品の安全について考えてみます。
モノを製造・販売する者の責任:民法では追及が難しい
製品の安全といえば、製造物責任法(PL法)という法律があるよな。
あの法律は、なんでできたんだろう。
そうですね。
法律の趣旨や目的を考えるには、法律の「第1条」をみるといいですよ。
ええと・・・
「この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」かあ。
なんとなく意味はわかるけど、なんでPL法という法律が必要なのかは、よくわかんないな。
もし、製造物責任法がなければ、消費者は、「民法」という法律でたたかわなくてはなりません。
では、モバイルバッテリーで自宅が全焼した場合、民法では、だれにどのような請求ができるでしょうか。
その場合、販売者に対しては、①民法564条及び415条(契約不適合責任)、②民法709条(不法行為責任)という2つの請求が考えられます。
①については、以前は「瑕疵担保責任」と呼んでいましたが、民法改正で、「契約不適合責任」となりました。
ところが、①は、モノが欠陥品だからそのものの代金を返せ、ということはできるでしょうが、モノにより火災が発生しその他のものに延焼した場合(「拡大損害」といいます。)に、その拡大損害の賠償義務を負わせることは困難です。
また、②は、販売者の「過失」や「故意」を立証しなければなりませんが、それは容易ではありません。
あ 三菱自動車の燃費偽装事件の記事でも、そんなような話があったね。
販売と製造が完全に分業されているから、販売店は「欠陥品だなんて、知りません」という話だね。
内部リンク:三菱自動車燃費データ偽装事件:「使用利益」って?
そうですね。製造者と販売者が一致していたむかしならともかく、いまは、欠陥品について販売店の責任を追及するのはとても大変です。
では、次に、製造者の責任について検討してみましょう。
消費者は、製造者から直接購入しているわけではないですから、さきほどの①は使えませんね。そうすると、のこされた手段は、②不法行為責任ということになります。
やはり、ここでも、「過失」や「故意」を立証するのは難しそうだな・・・。
だって、むこうはプロだし、技術的なことは消費者はさっぱりわからないからな。これは困った。
そうですね。また、そもそも、製造者から消費者に直でモノが渡されることは非常に少ないですよね。流通過程で誰が製造者なのかがよくわからない、だれに責任を追及したらいいかすらわからない、ということもしばしば起こるわけです。
また、外国からの輸入製品だと、責任追及もなお困難となります。
このように、民法だけでは、限界があるのです。
製造物責任法の施行
そこで、1995年に施行されたのが、製造物責任法(PL法)なのです。
この法律では、まず、製造業者のほか、製造業者と表示した者及び輸入者が責任主体となります。
そっか、「だれに責任追及したらいいかわからない」という事態が、これで防げるわけだね。
そうです。そして、2つ目のメリットは、モノが「欠陥=通常有すべき安全性を欠いていること」さえ立証できれば、責任が認められる、ということです。
故意や過失などの立証が不要ということか。
「落ち度はなかった」「わざとじゃなかった」という言い訳は通用しない、ということだな。
そのとおりです。
製造物責任法には、民法に比べて、この2つの利点があります。
なお、欠陥には、具体的には、①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3種類があると言われていますよ。
なるほど。
PL法は、民法よりも、消費者保護を手厚くするためにできた法律なんだね。
被害を防止するために:安全4法
さて、消費者の安全を守るための法律は、製造物責任法だけではありません。
いわゆる「安全4法」というものがあります。これは、「消費生活用製品安全法」・「電気用品安全法」・「ガス事業法」・「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」の4つの法律のことです。
製造物責任法は、被害がおこってから消費者が被害回復するのをたすける法律ですが、これら安全4法は、被害を未然に防止することを目的にしています。
まず、流通前の措置としては、「PSマーク」という制度があります。
PSってなんだ?
Play Stationか?
違います、Product Safety の略ですね。
例えば、消費生活用品安全法では、PSCマークといって、一定の技術基準に適合したことを示す表示がないと販売してはならない、という類型の「特定製品」を定めています。CはConsumerのCです。
これがPSCマークですね。
ふうん。たとえば、どんなのがあるの?
そうですね、たとえば、「石油ストーブ」などがありますね。
さらに、特定製品のなかでも、自主的な検査だけでなく、さらに登録検査機関の検査を受けて証明書をもらわなければならない類型のものがあり、これを「特別特定製品」といいます。
特別特定製品は、「乳幼児ベッド」などがあります。
ちなみに、マークは、こんなのですね。
また、製品の流通後の措置としては、主務大臣が、次のような、被害発生または拡大を防止するための措置をとることができるとされています。
- 改善命令(特定製品・特別特定製品):基準不適合とされる場合に改善せよと命令できる
- 表示禁止命令(特定製品・特別特定製品):基準不適合とされる場合にPSCマークの表示禁止を命令できる
- 危害防止命令(全ての製品):事故防止のために製品の回収その他の措置を命令できる
- 報告徴収及び立入検査(全ての製品):業務の状況について報告をさせ、立入検査ができる
- 事故報告及び公表:重大製品事故(製品事故のうち、死亡事故、重傷病事故、後遺傷害事故、一酸化炭素中毒事故や火災等、発生し、又は発生するおそれがある危害が重大であるもの)について報告させ、公表できる
電気用品安全法:PSEマークって?
さて、上では、消費生活用品安全法を例にとって説明しましたが、モバイルバッテリーなどの電気用品に関しては、電気用品安全法の適用があります。
電気を使うわけですから、火災等の事故の類型的危険性が高いです。ですので、消費生活用品安全法よりもさらに厳しい規制が定められています。
まず、流通前の規制としては、届出制となっています。つまり、電気用品の製造又は輸入の事業を行う者は、経済産業大臣に届け出をしなければなりません。
また、さきほどのPSCマークのように、一定の製品については、PSEマークの表示がなければ販売してはならないとされています。
特定製品以外の電気用品(341品目)については、自主検査で基準適合性を満たさなくてはなりません。
つぎに、特定製品については、自主検査のほか、登録検査機関で技術基準適合性を満たさなくてはなりません。
ふうん・・・電気用品安全法では「特定製品」にあたるものが、消費生活用品安全法では「特別特定製品」で、電気用品安全法では「特定製品以外の電気用品」にあたるものが、消費生活用品安全法では「特定製品」か・・・
ややこしいねえ。
なお、流通後の規制については、消費生活用品安全法とほとんど同じですね。
モバイルバッテリーはPSEマークがないと販売できない
なるほどな。
今回のモバイルバッテリーは、PSEマークはいらないのか?
実は、モバイルバッテリーは、事故が相次いだため、2018年2月1日(経過措置があるため、2019年2月1日)以降は、PSEマーク(特定製品以外の電気用品)がなければ販売してはならない、とされました。
外部リンク:経済産業省 モバイルバッテリーに関するFAQ
うちのモバイルバッテリー、PSEマークはあるかな・・・?
また確認してみようっと。
むすびに
製品事故については、お金だけではなく、人の命や健康という、とりかえしのつかない結果をもたらす可能性があります。
ところが、デジタル・プラットフォームの普及により、製造物の安全に注意を払わない業者が、いかにも信頼できる業者であるかのようにふるまって、モノを売ることができるのが、現状です。
デジタル・プラットフォームが、この「安全」の分野問題でも、やっぱり出てくるんだね。
NITEは、モバイルバッテリーの購入にあたって、このような注意喚起をしています。
外部リンク:NITE インターネットで購入する際の注意点
- 説明文などで日本語表記がおかしいもの。
- 他の製品と比較して極端に安価なもの。
- 評価レビューなどにおいて、高評価のみ付けられているもの。(やらせレビューの可能性)
ぜひ、参考にしてみてください。