譲渡制限株式を譲り受けて、当該株式の発行会社に対して譲渡承認請求をし、売買価格の決定の申立てをすることなどによってその権利の実行をすることを業とする行為が、弁護士法73条に違反するとされた事例(大阪高判令和6年7月12日)
判例タイムズ1530号88頁 2025.5
はじめに:
さて、きょうは、金融商品取引法の話です。
といっても、いままでお話してきたような仕組債のような金融商品の組成とか、売り方の問題ではありません。
仕組債の問題については、こちらをみてくださいね。
みためは債券、中身はオプション売り、というポーカーのオールインを強制する商品だったな。しかも、ずいぶん分の悪い勝負・・・。
仕組債も、さすがにもう売る会社はないだろうな。
で、きょうは何のはなし?
譲渡制限株式とは
前提知識として、まずは「譲渡制限株式」について説明しておきます。
譲渡制限株式とは、株式の一種で、「会社の承認がないと、他人にわたすことができない株式」のことです。定款(ていかん)という会社のルールで、株式の譲渡を制限しますよ、ということを決めることができます。
普通の株式の違いは、こんなところです。
- 譲渡制限株式(会員制のクラブ会員権):チケットショップ(=証券取引所)には売っていません。会員権を持っていて、誰かに売りたいと思っても、自由に売れません。クラブ(=会社)に「売ってもいいですか」とおうかがいをたて、「その人ならOK」という承認が必要です。
- 譲渡制限のない株式(電車の切符):チケットショップ(=証券取引所)などを通じて、見知らぬ人同士が自由に売買できます。鉄道会社(=会社)の承認は不要です。
えー そんな株式があるの?
株式って、どれでも自由に売り買いできるものだと思ってた。
なんで制限するの?いじわる?
なぜ譲渡制限するのか
何いってんだ。
おれも会社をやっているが、だれでも株式を自由に売り買いされたら困るぞ。よくわからんやつに株をもたれると、会社運営ができないじゃないか。
そうですね、主に中小企業で譲渡制限株式が採用されている理由は、こんなところです。
- 理由1:会社の乗っ取りを防ぐため:もし株式が自由に売買できると、会社を乗っ取ろうとする人が株を買い占めて、株主としていろんなことをやってくるかもしれない、という危惧があります。
- 理由2:創業の方針を守るため:いわゆる同族会社などでは、創業者一族の経営方針を理解してくれる人だけで会社を経営したい、というニーズがあります。
ふーん、そうなんだ。
じゃあ、もし、お金が必要になって、制限譲渡株式を売りたい人なんかは、どうするの?
会社に「ダメ」っていわれたら、あきらめないといけないの?
譲渡制限株式の「出口」
そりゃあ、そうだろ。
そうじゃないと、譲渡制限の意味がないからな。
いえいえ、違いますよ。
譲渡制限株式にも、きちんと「出口」があります。
もし、会社が「ダメ」と言った場合、株主は、会社に対して 「それなら、会社や会社が指定した第三者が、代わりに株を買い取ってください!」 と請求することができます(これを株式買取請求権といいます)。
そうすると、会社か、指定した第三者がその株式を買い取らなければならないのです。もし、売買価格について折り合いがつかなければ、最終的には裁判所で適正な価格を決めることになります。
ちなみに、株主が、譲渡制限株式をもったまま亡くなり、相続(や包括遺贈)が発生した場合には、原則として、会社は、その取得を認めなければなりません。例外として、定款であらかじめ定めておけば、相続人に対して会社に売渡すようを請求することができます(会社法174条)。
そうだったのか・・・。
譲渡制限しておけば安心と思っていたんだが。
判決:譲渡制限株式の買取業は弁護士法73条違反
これで前提知識はOKですので、冒頭の判決に戻ります。
事案は、こうです。

- Y2(譲渡制限株式を株主から譲り受け、発行会社に対して譲渡承認請求や裁判所への売買価格決定の申立てを行うことを業としている会社)は、株主Y1が保有していたX1の譲渡制限株式を買い取りました。
- Y2は、X1に対し、譲渡承認請求をしました。
- X1は、これを承認しないと通知しました。
- X1は、その代わりに買取人としてX2を指定しました。
- X1/X2は、Y1とY2の株式売買は無効である、として、①Y1がX1株主の地位にあることの確認と、②X2には売買契約に基づく代金債務が存在しないことの確認を求め、Y1/Y2を相手に、裁判を起こしました。
なるほど、X1は、Y2に株式が譲渡されるといやだから、X2が買い取りますよ、というふうにしたんだな。さっき説明があったやり方だな。
で、それと同時に、X1やX2は、Y1とY2の株式売買は無効ですよ、Y2を株主として認めませんよ、ということを言いたいんだよね。どんな理由なんだろ?
この裁判でX1/X2が主張したのは、弁護士法73条違反です。
弁護士法第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
そして、判決は、このX1/X2の主張を認め、Y2の事業の目的は、株式譲渡について承認されないことを前提に、発行会社への売却価格と譲渡人からの買取価格との差額を得ることであるとして、株式の売買価格についての「紛議を助長」するものとして、弁護士73条違反を認め、Y1とY2間の株式売買契約を無効と判断したのです。
なお、弁護士法73条違反かどうかの考慮要素としては、①権利の譲受けの方法・態様、②権利実行の方法・態様、③譲受人の業務内容やその実態等がファクターとなります(最三小判平成14年1月22日民集56巻1号123頁)。本件は、この諸要素を考慮して、この業者については違反がある、と判断したものです。
金融商品取引法の無登録営業?
なるほどね。
あれ?
でも、そういえば、かんじんの金融商品取引法はどこにいったの?全然出てこないけど・・・
あっ・・・忘れるところでした。
私は、本件は、金融商品取引法(金商法)の無登録営業の問題を含んでいるように思うのです。しかし、この裁判では、とくにX1/X2サイドから主張された形跡はありません。
- 金融商品取引法2条8項(定義) この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為(その内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるもの及び銀行、優先出資法第2条第1項に規定する協同組織金融機関(以下「協同組織金融機関」という。)その他政令で定める金融機関が行う第12号、第14号、第15号又は第28条第8項各号に掲げるものを除く。)のいずれかを業として行うことをいう。
1 有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下同じ。)、市場デリバティブ取引(金融商品(第24項第3号の3に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係る市場デリバティブ取引(以下「商品関連市場デリバティブ取引」という。)を除く。)又は外国市場デリバティブ取引(有価証券の売買にあつては、第10号に掲げるものを除く。) - 金融商品取引法29条(登録) 金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。
- 金融商品取引法197条の2(罰則) 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
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10の4 第29条の規定に違反して内閣総理大臣の登録を受けないで金融商品取引業を行つた者
ふむ。要するに、金商法2条8項1号は、有価証券の売買を業として行うことは、金融商品取引業にあたる、と。そんで無登録営業は刑事罰があるんだな。
そうすると、Y2は、無登録営業になるんじゃないのか?
ちょっとまってよ。
・・・それだと、わたしも、日頃、投資で、株の売り買いをやってるけど、わたしも違法業者になっちゃうの?
そういうわけではありません。金商法の「業」概念については、いくつかの考え方があります。反復継続性に加えて「対公衆性」(インターネットなどで広告をして不特定多数に「わたしは株を買いますよ」というアピールをしている)が必要だという考え方があったり、また、投資目的の自己株売買はそもそも2条8項1号の「売買」には当たらないという考え方があるようです。
ですので、KONさんの投資に関しては、心配なさそうですよ(下記リンクのPDFが参考になります)。
参考裁判例:広島地判平成18年6月1日
ちなみに、本件と類似の裁判例として、譲渡制限株式の売却「あっせん」のコンサルタント契約を私法上無効とした広島地判平成18年6月1日判例時報1938号165頁があります。
この判決は、弁護士法72条(「権利譲受け」でなく「周旋」)違反のほか、証券取引法(金商法の昔の名前です。)の無登録営業(同法2条8条2号の「媒介」または「代理」)にもあたるとして、「刑罰をもって禁圧しようとしていることに照らすと、これに違反する」「契約は公序良俗に反し私法上無効である」としています。
「あっせん」がだめなら、「譲受け」もだめともいえそうだな。
あとは、「媒介」「代理」がだめなら、「売買」もだめだといえるか・・・
もちろん、弁護士法違反一本でもよかったと思うのですが、本件でも、金商法違反があるかどうかが議論されてもよかったのではないか?というのが、私の感想です(結論に影響はないかもしれませんが)。
無登録営業についての監督強化
さて、話が脱線しますが、無登録営業に付いての最近の動きをちょっと。
無登録営業は、金融商品取引法における最も重大なルール違反であって、無登録業者による行為の私法上の効果は否定されるべきです。
それとともに、その他の違法、不公正取引があることの最大の徴表ともいえ、取り締まりの契機として、無登録業者を捕捉し、その時点で調査することは被害防止のためにも極めて重要です。
いま、金融庁金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」では、SNS投資詐欺などを念頭において、無登録で投資勧誘を行う者に対して、証券取引等監視委員会(SESC)が直接立ち入り等の調査ができる権限(犯則調査権限)を付与するなど、取り締まりを強化する方向で議論しています。
SNS経由の投資詐欺は、減るどころか、ますます隆盛を極めています。
被害を防止するため、これは、ぜひ、実現してほしいですね。




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