「仕組債」の終わりのはじまり

地銀系証券が「仕組み債」の販売停止で陥った苦境―最新決算を独自集計、赤字に転落した会社が続出

https://toyokeizai.net/articles/-/691831
東洋経済ONLINE 2023.8.3

はじめに:仕組債の販売に大きな動き

さて、きょうは、ひさしぶりに投資被害の話です。

「仕組債」について、昨年から今年にかけて大きな動きがありました。

冒頭の記事は、地銀系証券会社が仕組債の販売をやめて苦境に陥っている、というニュースですね。

仕組債。仕組債ね。

えっと、確か、・・・なんだったっけな。

みためは子供、頭脳は大人・・・

それはコナンくんね。

みためは債券、中身はオプション売り、という商品でしょ。

そうです。仕組債は、「デリバティブが組み込まれた債券」で、とくに顧客にオプション売りのポジションを押し付ける、という商品でしたね。

そうそう、仕組債のクーポンは、実質はオプションのプレミアムで、顧客は、その指標が上がってもプレミアム以上にはもらえないし、指標が下がったらその分のリスクは全部引き受けきゃいけない。

なにより、いったん買ったらもうおしまいで、そこから「オリ」ることができない。

ポーカーでいうと、プリフロップで目をつぶってオールインするような商品だ。

ポーカーのことはよくわかりませんけども、仕組債の基本的な「しくみ」と「リスク」については、前に一度書きましたので、そちらを読んでみてください。

内部リンク:「わかっていない」人だけが買う商品、それが「仕組債」

で、どうして、地銀系証券会社は、仕組債の販売をやめちゃったの?

仕組債の歴史:仕組債第一波

はいはい、では、そのまえに、すこし歴史的なお話です。

仕組債は、いわゆる金融ビッグバンの直後、1999年くらいに、まず「EB」(他社株転換可能債)が流行しました。これが、仕組債の「第一波」です。

第一波・・・なんだか、コロナみたいだね。

さて、EBは、その名のとおり、債券が株券にかわるかも、という商品ですね。具体的には、償還時期に株価がある一定の価格以上にあるときには、元本そのまま+クーポン(プレミアム)がもらえる債券ですが、それ以下の場合には、同じ額面の株券+クーポン(プレミアム)になって償還されることになるというものです。

へえ、なんで、この時期に流行したんだ?

当時、株式市場は好況で、素人投資家は、「このまま株価は上がっていくだろう、下がることはあるまい。仮に下がっても大したことはないだろうから株券で戻ってきても全然オッケー。」と思っていたのですね。その中で、証券会社などのプロは、「うーん、さほどでもない。むしろけっこう下がるかも。」と思っていました。

こういったときには、EBは、とてもよく売れるのですね。そして証券会社は儲かります。

なぜなら、EBは、株式オプションの売りをさせているのと同じなので・・・

ふむふむ。わかったぞ。こういうことだな。

顧客は、株価は下がるまいと思っているから「よし、儲かったぞ」と思っているが、証券会社の方では、「しめしめ、プット・オプション(売る権利)を安く買うことができたぞ。」と思ってるわけだな。

面白いな。いわば、売り手と買い手が、逆転してるというか・・・

そうです。専門家の間では、相当の株価下落の見込みがあるので、プット・オプション(売る権利)は、本来、さほど安くない(それなりの対価=プレミアムを払わないと手に入れられない)わけですね。しかし、証券会社は、株価上昇しそうだという顧客の見込みと、専門家の見込みとの間にギャップがあるということを利用して、対価として見合わないプレミアムと引き換えに、顧客にプットを売らせ、そこで利ざやを稼いでいるわけですね。

そして、実際に2000年に、ITバブルがはじけ、多数の顧客が、EBで損失を被ることになります。

なんと・・・えらいこっちゃ・・・

仕組債第二波と金融庁・日証協の動き

そして、第二波は2004〜2006年ころです。これはEBなんで生易しいもんではありません。

たとえば「10倍バスケット型EB債」のような「モンスター」的な商品が次々と生まれていきます。

なんか、すごそうだな・・・

ヤマタノオロチみたいだな。

「ヤマタ」どころか、「10マタ」です。とてもおそろしい商品です。

ある時期、某野村證券が好んで売っていた仕組債は、たとえば、こういうやつです。

株式10銘柄を指標として、債券の額面が1億円。そして、いきなりこれを10倍して想定元本を10億円とします。1億円ずつ10銘柄の株式に投資したものと仮定し、各銘柄の株価が基準価格の50%を下回った場合(これを「ノックイン」といいます。)、その後、償還期限に基準価格まで回復しなければ、基準価格との差額がそのまま顧客の損失となります。

そして、おそろしいことに、10銘柄のうち複数銘柄でノックインが起きると、その損失は累積するのです。

え・・・なにそれ。それってさあ、なんか、たくさん銘柄があることで、逆に商品のリスクを高めてない?

ふつう、たくさんの銘柄を指標にするのは、分散投資といってリスク分散になるものでしょ?

いや、ほんとそのとおりですね。いったいふだん何を食べていたら、こんなリスクを煮詰めたような商品を組成しようと思いつくのか・・・私には、さっぱり、わかりません。

さすがに、これではあかん、ということで、金融庁は、2010年9月10日、「デリバティブ取引に対する不招請勧誘規制等のあり方について」を公表し、業界に対して、仕組債や仕組投信について、商品のリスク特性や顧客の性質に応じ勧誘を行うか否かの基準(勧誘開始基準)や、投資者へ販売する商品としての適否(合理的根拠適合性)を検証する体制、説明や広告表示に関する自主規制ルールの策定を求めました。

そして、業界(日本証券業協会)もやむを得ず、2011年「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」を改定し、仕組債についての自主規制ルールを設けました。

そこで注目されるべきは「合理的根拠適合性」の考え方です。

「協会員が当該協会員にとって新たな有価証券等を顧客に販売する場合にあっては、当該有価証券等が少なくとも一定の顧客にとって投資対象としての合理性を有するものであることを事前に検証し、合理的な根拠に基づき当該有価証券等に適合する顧客が想定できないものは、販売してはならない」としました。

いや・・・よくよく考えるとそんなのあたりまえじゃないの?

むしろそんなルールを作らないといけないくらいヤバかったってこと?

そのとおりです。

その後、2011年2月1日には合理的根拠適合性ガイドライン(「協会員の投資勧誘、顧客管理に関する規則第3条第3項の考え方」)が示されました。

「①リスクの種類と大きさ」、「②費用とパフォーマンス」を考慮して判断すべきであるとして、さらに、その内容を詳細に定めている。なお、この「①リスクの種類」の一要素に、「商品価格等の変動による影響とその大きさ」として、ボラティリティ及びその程度について触れられていることにも注目されます。

この時点で、一般投資家にとって、リスクの大きさが不合理に大きいもの、費用と顧客が得られるパフォーマンスのバランスを欠くものは、作ったり売ったりしちゃだめよということになっていたのですね。

じゃあ、その後は仕組債も、各社、だいぶトーンダウンしたのね?

ところがそうではないんです。

ガイドラインの運用はゆるゆるで、仕組債は相変わらず、ばんばん売られ続けます。

とくに、金融庁から「ちゃんと独自で工夫して収益上げろ」とお尻を叩かれた続けた地銀が、「これで勝つる!」と、仕組債に目をつけたのです。

地銀・・・なんでいっつもそういう方向に行くんだ・・・

かぼちゃの馬車とか・・・

2022年:金融庁の「ツルのひと声」

ところが、状況がかわったのが昨年、2022年です。

2022年6月、金融庁は、「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」を公表し、仕組債の商品性及び販売勧誘についての問題点を指摘し、業界に対して根本的な方向転換を求めるようになりました。

外部リンク:金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」

へえ、どんなことを指摘したんだろう?

金融庁が指摘したのはこんな問題ですね。

・商品性の問題:「株価指数や内外個別株価、外国為替に連動する商品は、十分な金融知識がないと、そのリスクやコスト見合いのリターンの理解が困難である中、リスクに見合ったリターンが確保されていない」
・販売体制の問題:「想定顧客層を具体的に明確にせず、比較的広い範囲の顧客に対して、コスト等の開示や比較説明が必ずしも十分ではない形で提案・販売されている」
・回転取引類似の状況:早期償還がなされた場合、その残高をそのまま次の仕組債に投入させることが多い。

え、ぜんぶダメじゃん。

そうです。

結論としては、仕組債については、内容も、売り方も、さらによりマクロベースでみてもダメダメ。「顧客本位の業務運営の観点に適さない商品が販売されている」可能性があるとして、「取扱いを継続すべきか否か」について「経営レベル」でもういっかい検討して、ということを求めたのです。

まあ、「これでもまだ売るんですか?」という、事実上、最後通牒みたいな文書だな。

ところで、さっきからでてきてる「顧客本位の業務運営」っていうのはなんなんだ?

「顧客本位の業務運営」は、「フィデューシャリー・デューティー」とも言われますが、最近の、証券会社の監督にかんしてはキーワード、決め台詞のように使われてますね。

かんたんにいうと、証券会社は、自分たちの利益ばっかり考えないで、顧客からの信頼を裏切らないようにしてね、ということです。

そんなことをいまさらいわれるなんて、・・・なんか恥ずかしいよね。

そして、これを受けて、証券会社大手中堅はあっさり、新規の仕組債の取扱いをやめました。

また、仕組債をリテール商品の切り札にしようとしていた地銀系証券についても、やっぱり、多くが同様に販売停止をしています。

なるほど、そこで、地銀証券会社が仕組債の販売をやめて赤字転落、というニュースにつながるんだね。

いかにおいしい商品だったか、ということだね。

なぜ、証券会社各社は、このような旨味のある商品の販売をあっさりと断念したのでしょうか。

そりゃかんたんだ。

証券会社は、お客さんとの認識の「ギャップ」を利用して仕組債を販売していたんだから、「そのギャップを解消して売りなさい」と言われたら、お客さんは目が覚めて買わないに決まっているよ。

まあ、アイドルが恋人がいることを発表して、とたんに売れなくなる、みたいなもんだな。

ちょっとちがう気もしますが・・・

ともかく、金融庁からごくごく当たり前のことを指摘されただけで、多くの証券会社が販売を断念したということそのものが、まさに、仕組債がどのような商品だったのか、を象徴しているといえます。

むすびに:日証協のガイドライン改定

日証協は、いちおう、まだ仕組債を売る気のある証券会社向けに、今年2023年の4月に仕組債がらみのガイドラインを改定しています(2023年7月1日施行)。

外部リンク:日本証券業協会「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」等の一部改正について(PDF直リンク)

この内容等については、詳しくは、当事務所の「御池ライブラリー」58号(本年10月発刊)で書こうと思います。

外部リンク:御池ライブラリー

もし、このガイドラインが、合理的根拠適合性、勧誘開始基準、広告、説明義務のすべての要素について、真に適切に運用されたら、どうなるでしょうか。

その顧客は、その仕組債を買う気がおこらないということになるはずです。

逆に、合理的に考えて、顧客が買ってもよさそうな仕組債があるという事態を無理やり想定してみましょう。

しかし、そのような商品は、証券会社側のほうであえて組成・販売するだけのうまみがない、ということになります。そのような商品をつくる意味がなくなるのです。

つい先日書いたとおり、竹内昭夫教授は、特定商取引法の連鎖販売取引類型について、国会で「マルチを公正なものにして残すという考え方ではなしに、マルチに対して公正であることを求めればマルチは必ずなくなるはずだという考え方に立っている」と決然と述べました。これとよく似ていませんか?

内部リンク:きょうの消費者ニュース「マルチ商法家族被害:どうすればいいか?」

なるほど、仕組債を公正なものにして残す、という考え方ではなしに、仕組債に対して公正であることを求めれば仕組債は必ずなくなるはずだ、というわけね。

「仕組債の終わりのはじまり」となるように、このガイドラインの運用を見守っていかなければなりませんね。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院客員教授(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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