目次
はじめに:ステマ(ステルスマーケティング)とは
はいはい、ステマね。
たしか何回か勉強したよね、このブログでも。
よく覚えてますね。では、復習です。
広告主との関係性を明らかにしないで(他人のふりをして)広告をすること、これがステマでした。
消費者庁は、かつて、2011年に示した指針で、いわゆる「口コミサイト」におけるステマが景品表示法の優良誤認もしくは有利誤認にあたる場合がある、としていますが、ステマそのものが問題である、という姿勢は、長らくとっていませんでした。
外部リンク:消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」
この中にPDFファイルとしてありますね(直リンクはこちら)
ほんとうは広告主または広告主と関係がある人なのに、関係を隠して「おすすめです!」って言っているだけでは、問題にはならない、と。
つまり、ステマだというだけではただちに問題だといえない、というのが消費者庁の立場だったよね。
そうです。
2021年11月には、景表法の優良誤認にあたるとして、わが国初の措置命令が出された、というケースもご紹介しました。
内部リンク:ステマ(ステルスマーケティング)についての初の措置命令
消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会」
ふむ。
それで、その後、なにか動きがあったのか?
じつは、消費者庁で、2022年9月〜12月、8回にわたり「ステルスマーケティングに関する検討会」という会議が開かれて、「優良誤認・有利誤認といえない限り、ステマ自体はセーフ」という立場を見直すべきではないか、ということが議論されたのです。
外部リンク:消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会」
次のスライドが、検討会の問題意識ですね。
ふうん。
検討会では、どのような議論がされたのかなあ。やっぱり消費者の被害実態の調査とかしたのかな?
いえいえ、こと「ステマ」にあっては、「消費者の被害実態」などはありません。だって「ステルス」ですから。
消費者は、被害を受けたことはおろか、マーケティング、広告であることすら、わからないのです。
でも、かわりに、行動経済学的な視点(宣伝者のインセンティブを顧客が理解している場合、宣伝者は顧客に過剰な勧誘をしない)とか、経済学的な分析(Amazonのフェイクレビューによって需要が増加して、消費者にとって有害であったことが示された)やフィールド実験の結果などが紹介されています。
これ、とてもおもしろいので、興味のある方はぜひ。
外部リンク:「ステルスマーケティングの経済学文献について」(第1回検討会:資料5)*資料直リンク
ということで、検討会は、前半第1回〜第4回までを、ステマについて、関連する多くの事業者(広告会社、広告プラットフォーム)からのヒアリングにほぼ費やしています。
このヒアリング結果もなかなか興味深く、どの事業者も「ステマはダメ」、でも口コミマーケティングはとても重要であり、ステマにならないようにちゃんと「対策」をしています、と口を揃えています。
ふん。
業界としても、消費者庁が「ステマそのものが問題」と言っているわけだから、「なんとか、このままステマをグレーなままにさせてください」というわけにはいかないからな。そりゃあ、そうなるよな。
で、第5回からは「規制すべきということに異論はないので、じゃあ規制のやり方について議論しましょう」ということで、規制の手法や範囲について議論されてました。
この意見については、第6回ではやくも方向性が確認されています。
外部リンク:消費者庁「前回の検討会(主な検討事項)における委員の御意見のまとめ」(事務局説明資料)
なるほど、
①一般的・包括的かつ明確な規制として、景表法5条3号の告示指定
②業者の予見可能性を高めるための運用基準の策定
ということね。
「景表法5条3号」って、えーとなんだっけ。1号が優良誤認でしょ、2号が有利誤認でしょ・・・
ふむ。
ジュースの果汁の表示とか、おとり広告とか、1号や2号には必ずしもあてはまらないような類型で、顧客を惑わすようなやつだったよな。
景品表示法5条3号 前2号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
そのとおりです。おふたりとも、よく勉強していますね。
なお、日本弁護士連合会は、2017年の意見書で、ステマについては、この3号告示指定案を提案していたんですよ。なかなか、先見の明がありますね。
外部リンク:日本弁護士連合会「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」
そして、2022年12月28日、第8回検討会にて、これらの議論が「報告書」として、取りまとめられました。
外部リンク:消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」*直リンク
規制の内容:告示と運用基準
では、その告示と運用基準は、どうなったか。ステマの規制の内包と外延はどのようなものかをみるために、まずおさえておきましょう。
案についてのパブコメ(意見募集は終了しています。)のページを見てみます。
まず、公表された告示(案)はこれです。
(景表法5条3号の規定に基づき)一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のように指定し、令和 年 月 日から施行する。
一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
へえ、ずいぶんシンプルだね。
日本語の意味がわかりにくいけど、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とはすなわち「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」のことだよ、と言っているんだよね?
そうです。
次に、運用基準(案)はちょっと長いのですが、これです。
な、長い・・・
では、細かく分けてみていきましょう。
① 「自己表示」要件
まず、前段の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」の意味は、どういうことか。
これは、事業者が表示内容の決定に関与しているかどうかで決まる、ということです。
ふんふん。
これをみると、自分で表示をする場合のほか、第三者に依頼や指示して、SNSへの書き込み、出店ECサイトへのレビュー書き込み、アフィリエイターへの委託、口コミサイトへの投稿をさせる場合も該当する、と書いてあるね。
面白いのは次だな。
仮に、明示的な依頼、指示がなくても、一定の関係(過去に対価を提供した等)とか、投稿すれば今後の取引の実現可能性に言及したりなどの事情があれば、第三者の自主的な意思による表示ではなく、事業者の関与あり、とされる、ということのようだ。
② 「判別困難」要件
次に、後段の「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」の意味ですね。
まず、「広告ですよ」ということが記載されていない場合は、完全にアウトですね。アフィリエイトサイトでも、当該サイト自体に事業者の広告であることが記載されていなければダメです。
次に、書いてあったとしても、明瞭でなくてはダメ、ということです。
これ、おもしろいな。冒頭に「広告」と書いてあっても、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」という記載があれば、その「感想」が事業者の表示であることがわかりにくいからダメだ、という例が挙げられている。
なるほどな。たしかに、そういうチラシやインターネット広告は、いっぱいあるよな。
そのほか、視認しにくい表示の末尾に表示したり、動画で一瞬だけ表示したり、大量のハッシュタグに埋もれさせる、薄い/小さい文字で書く、とか、いわゆる「ダークパターン」のやり方も全部否定されているね。
規制は2023年秋ころから
さて、この告示・運用基準案はパブコメを終了していますが、その後、2023年3月9日、内閣府消費者委員会から「妥当である」との答申を得て、今月中にも告示を制定し、今年秋ころには規制が実際にスタートする見込みとされています。
ぜひ、今後の動き、運用にも注目したいですね。
みなさんも、ステマを見つけたら、ぜひ、教えてください。
告示・運用基準案が策定、規制は2023年10月1日からスタート(2023.5.20追記)
2023年3月28日、消費者庁は、パブコメの意見を反映させて、運用基準を公表しました。
外部リンク:消費者庁ウェブサイト「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について
具体的な事例などが挙げられ、大きく追記、修正がされていますが、大筋はかわっていません。
とにかく、実際の運用に注目だね。