広告を利用したクロスセル・アップセルが電話勧誘販売の対象に(特定商取引法施行令改正)

【「お試し」電話注文からの定期引上は電話勧誘販売に】「特商法政令案」閣議決定に業界から怒りの声も

https://netkeizai.com/articles/detail/8013
日本ネット経済新聞.2023.2.2

ご無沙汰しております(反省)

みなさん、こんにちは、ご無沙汰しております。

・・・ときがたつのははやいものです。

お久しぶりです・・・えっと、前の投稿は、きょねんの5月だから・・・9ヶ月か。

ちょっと、休みが長すぎませんか・・・いったい何してたんですか。

どうせ、遊んでたんだろう。ふん。

いやいや、わたしも、ほら、日ごろは弁護士をしておりまして・・・本業をちょっと忙しくしておりまして。ほら、本業の仕事が遅れてるのにブログを書いてると、「ブログを書いてるお時間は、おありになるんですねえ」とかいろいろおっしゃる方もおられますんで・・・

今後は、なんとか、忘れられないように、こまめに更新しようと思います。せめて月1くらいは・・・

それはさておき、さいきん、通信販売の話で、けっこう重要な改正がありまして、みなさんにもお伝えしようと思いまして。

まあ、あんまり期待しないでまっておきます。

・・・しかし、急に話がかわるんだね。

そうそう、今回のポイントは、「話が変わる」という話なんです。

ん?どういうことだ?

クロスセル・アップセルとは

まずですね、ビジネスの手法として、昔から「クロスセル」と「アップセル」というのがあります。

まず、「クロスセル」とは、購入検討対象となっている商品やサービスとは異なる商品やサービスを勧める手法です。

たとえば、ラーメンを食べに行きました。そしたら、当店はチャーハンもおすすめですよ、と言われ、ラーメンとチャーハンのセットを食べました。あるいは、油そばが一押しです、といわれ、油そばを食べることにしました。これが、「クロスセル」です。

次に、「アップセル」とは、購入検討対象となっている商品やサービスと同種のよりグレードが高いものを勧める手法です。

ラーメンを食べに行ったときに、チャーシューメンがおすすめですよ、と言われ、チャーシューメンを食べることにしました。これが、「アップセル」です。

ふむふむ。そういえば、マクドナルドでも(最近は聞かないけど)ご一緒にポテトはいかがですか、とか聞かれるけど、あれもクロスセルなのかな。

もともと検討していた商品ではないものを勧める、ということで、「話が変わる」のがクロスセル・アップセルなんだね、わかったよ。

とはいえ、これって特別の方法なの?高いものをすすめるのは当たり前じゃないの?

ふん。違うな。なんでもかんでも、お客さんに、高いものとかをすすめればいいってもんでもない。

要するに、アップセルやクロスセルは、ふつうの勧誘に比べて、効率がいいんだよな。すでに「なにか」を買う気になっているお客さんだから、すこし背中を押してやると、もっと高いものとか、関連商品とかを買ってもらいやすいんだ。

そうですね。もともと買う気ゼロのひとに対して、いきなりより商品やサービスを買わせるのは至難の業ですが、何かを買う気になっているお客さんに対して、なにか別のものを買ってもらったり、よりグレードの高いものを買ってもらうのは、それよりも、ずっと効率がよいのです。

なるほど。ゼロを10にするより、10を50にするほうが簡単なこともあるよな。コストをかけずに客単価を上げられれば、ビジネスにとってこんなにいいことはない。

で、今回、どんな改正があったんだ?

まさか、クロスセル・アップセル自体がだめというわけではないだろう?

広告をきっかけとしたクロスセル・アップセル規制:これまでは・・・

さて、今回、クロスセル・アップセルについて重要な改正があったのは、特定商取引法の電話勧誘販売、という分野です。

電話勧誘販売ね、なんかやった覚えがあるな・・・

えーと、えーと、たしか・・・これこれ。電気の契約とかインターネットの契約の電話勧誘で、いろんな問題があったんだよね。

内部リンク:「電気」と「インターネット」の電話勧誘にご用心

そうです。

おさらいですが、つぎのいずれかの要件を満たす場合には特定商取引法上の電話勧誘販売になり、電話だけで契約が成立する、ということでしたね。

  1. 事業者が電話をかけて勧誘を行い、その電話の中で消費者からの申込み(または契約の締結)を受けた場合
  2. 事業者が次のいずれかの方法により消費者に電話をかけさせて勧誘した場合
    ① 当該契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること
    ② ほかの者に比して著しく有利な条件で契約を締結できることを告げ、電話をかけることを要請すること

そのとおり、電話勧誘販売にあたるかどうかは、とても重要なのです。

では、ここで問題ですが、次のような場合は、電話勧誘販売になるでしょうか?

A 膝のサポーターについてテレビ通販でみて買おうと思って業者に電話したところ、その電話で、業者からグルコサミンのサプリメントがいいとして勧められ、購入した。グルコサミンについては、テレビでは放映されていなかった。

B 雑誌広告で白髪が目立ちにくくなるというシャンプーを1本3000円で売っていたので買おうと思って電話したところ、その電話で、業者から定期購入がお勧めであるといわれ、1か月分としてシャンプー3本7,000円(最低3ヶ月は解約できない)を購入するとの契約をした。定期購入については、広告には書いていなかった。

ふむふむ、Aはクロスセル、Bはアップセルだね。

えー・・・どっちも、電話勧誘販売にあたるんじゃないの?

だって、ほら、広告では、どっちも「グルコサミン」とか「シャンプーの定期購入」について「勧誘する」ってことを言ってないよね。

だから、さっきの要件のうち、 「当該契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること」にあたるんじゃないの?

えー、電話してきたのは、どっちも消費者のほうだろ?

業者はさあ、たまたまその機会を利用して勧誘しただけであって、これはどっちも電話勧誘販売にはならないだろ。

実は、これまでの電話勧誘販売については、テレビ通販や新聞・雑誌広告で電話をかけさせてクロスセル・アップセルを勧誘する行為は、電話勧誘販売にあたらない、という解釈がされてきました。

えー、なんでかな?

というのは、現行法上、特定商取引法施行令という「政令」(特定商取引法の下位規範)で、「電話をかけさせる方法」というのが、けっこう限られているのです。

特定商取引法2条3項 この章及び第58条の20第1項において「電話勧誘販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が、電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘(以下「電話勧誘行為」という。)により、その相手方(以下「電話勧誘顧客」という。)から当該売買契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該売買契約を郵便等により締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は電話勧誘顧客から当該役務提供契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該役務提供契約を郵便等により締結して行う役務の提供をいう。

特定商取引法施行令2条 法第2条第3項の政令で定める方法は、次のいずれかに該当する方法とする。
① 電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、又はビラ若しくはパンフレットを配布して、当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること。
② 電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法又は電磁的方法により、他の者に比して著しく有利な条件で当該売買契約又は役務提供契約を締結することができる旨を告げ、電話をかけることを要請すること(当該要請の日前に当該販売又は役務の提供の事業に関して取引のあつた者に対して要請する場合を除く。)。

電話、郵便、信書便、電報、FAX、電磁的方法、ビラ、パンフレット・・・

うーん、ビラはあるけど、テレビや雑誌広告は、このなかにはないか・・・

そうなんです。特定商取引法の解説(消費者庁の公権的解釈)では、下記のように書かれています。

外部リンク:特定商取引法の解説(令和4年6月1日時点)

「なお、新聞や雑誌等に掲載されている通信販売広告や商品広告により消費者から自発的に電話をかけた場合には、その電話の中で販売業者等が広告に掲載した商品等の契約に関する勧誘を行ったとしても、電話勧誘販売には該当せず、通信販売に該当する。」

なぜ、このように、広告が除外されていたか、というと、かつては、「広告」と「勧誘」が、かなり別物として明確に分けられており、「勧誘」にあてはまるものだけが列挙されており、「広告」は、ここから排除されていたのではないかと思われます。

ちょっと余談ですが、この部分に限らず、消費者法の分野では、ずっと「広告軽視」の風潮があったのです。

しかしながら、今日では、「広告」と「勧誘」はそんなに分けられないのではないか、むしろ、インターネット時代ではなおさら、「広告」こそが、消費者の意思形成においては、かなりクリティカルな力をもっているのではないか、という考え方になりつつあります。

たとえば、以前もクレベリンについて述べたところで、触れたように、最高裁も、クロレラチラシ事件で、「広告/勧誘」二分論をとらない態度を明確にしています。詳しくは下記記事をみてください。

内部リンク:Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と「空間除菌」その後:「空間除菌」商品はなぜなくならないのか?〜「クレベリン」措置命令

広告をきっかけとしたクロスセル・アップセル規制:政令改正

さて、ようやく、今回の改正のはなしです。

2023年2月1日に閣議決定された新しい政令は、このような内容です(下線部が改正)

特定商取引法施行令2条 
①電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、若しくはビラ若しくはパンフレットを配布し、又は広告を新聞、雑誌その他の刊行物に掲載し、若しくはラジオ放送、テレビジョン放送若しくはウェブページ等(インターネットを利用した情報の閲覧の用に供される電磁的記録で主務省令で定めるもの又はその集合物をいう。第19条において同じ。)を利用して、当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること。

つまり、新聞・雑誌広告や、テレビ、ウェブサイトなどの手法による誘引もぜんぶ含まれるようになったわけです。これによれば、さきほどのA・Bのケースは、いずれも電話勧誘販売にあたることになり、クーリング・オフなどができるようになります。

うむむ。ちょっと待てよ・・・納得いかないな。

消費者から積極的に「これがほしい」といって電話をかけてるケースと、こっちからかけるケースを、乱暴に、いっしょにされちゃ困るな。

広告はさあ、スペースも限られてるし、そんなになんでもかんでも書けないんだから、全く関係のない商品を勧めるならともかく、関連商品くらいならちょっとくらい大目に見てほしいな。

そうでしょうか。

問題は、消費者にとって「不意打ち」的な勧誘になっているかどうかだと思います。

この政令改正にあたって寄せられた、業者からの批判的なパブリックコメントと、それに対する消費者庁の回答をみてみましょう。

外部リンク:「特定商取引に関する法律施行令及び預託等取引に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)」等に関する意見募集の結果の公示について

(業者のコメント)広告に掲載された商品について消費者からの注文を電話受注する場合(いわゆる インバウンド)に、広告に掲載がない商品を勧誘し販売することが電話勧誘販売規 制の対象となるものであるが、過度に広範な規制であること、広告に掲載することが現実的に困難であること、事業者・消費者双方にとって不利益性が高いこと、改正に反対いたします。
(業者のコメント)「電話勧誘販売に該当する要件としての消費者に電話をかけさせる方法として広告を新聞等に掲載する方法、テレビ放送、ウェブページ等を利用する方法を追加」 について、まずこれまでの議論が殆ど行われていない中、唐突とも思えるタイミングでの追加に違和感がありますので、徹底した議論を行うことを求める。

⇒ (消費者庁の回答)今回の改正は、販売業者又は役務提供事業者が契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請したといえる場合には、電話勧誘販売に該当するとしたものであり、そのような販売方法は従前より電話で実質的に勧誘行為を行うものとして不意打ち性が高いと考えられたものであり、現に消費者被害も生じていたものであることから、原案どおりとさせていただきます。

インターネット通販やテレビ・ラジオ通販では、以前から、とりわけ定期購入による被害事案が多く寄せられ、昨年6月に施行された特定商取引法の改正(注文確定前の最終確認画面の表示のついて)などもあったのですが、電話を利用した脱法的な手法が増えていたので、これに対する手当を行ったのです。

けっきょくは、不意打ち的な勧誘が問題だと。

たしかに、電話でいきなり言われてもよくわからないから、もし、クロスセル・アップセルをしたいなら、消費者にじっくりと判断する時間的な余裕を与えるべきだね。

誠実な業者ならね。

そのとおりです。

なお、訪問販売でも、消費者が業者を家に呼んだ場合であっても、呼んだ用件とは違うものを勧められた場合には、適用除外とならない(クーリング・オフができる)、とされています。これも、けっきょくのところ、不意打ちかどうか、ということが重要だということですね。

これについては、レスキュー商法についてお話したときにも触れました。

内部リンク:水回り、鍵開けレスキュー商法に注意!:「5000円のはずが20万円請求された」「自分が呼んだらクーリング・オフできない?」

むすびに

この政令は、2023年6月1日に施行されます。

本年も、消費者法に関するニュースについて、できるだけわかりやすく解説したいと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。

著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください