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消費者庁が、携帯型空間除菌用品について行政指導・注意喚起
きょうは、Covid-19と空間除菌用品について、少し考えてみましょう。
消費者庁は、2020年5月15日、携帯型の空間除菌用品の表示に関し、景品表示法に違反するおそれがあることから、事業者に対し、再発防止等の指導を行いました。
外部リンク:消費者庁「携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について」
消費者庁は、Twitterでも注意喚起してるんだね。
そうそう、他にも、FacebookやLINE(ID:@line_caa)でも告知しているみたいですね。目にされた方も多いと思います。
携帯型(首から下げるタイプ)の問題
携帯型は、首から下げるものが多いようです。
でも、首から下げるタイプの空間除菌剤、結構してる人が目に付くよな。効くのか、と思ってたけど。
消費者庁は、対象事業者が、「ウェブサイト等で、様々な利用環境において、当該商品を身につけるだけで周囲のウイルス等を除去する効果があるかのように示す表示をしていた」ということで、景品表示法に違反するおそれがある、として指導をしました。
例えば、消費者庁は、問題となる記載の例として、こういうものをあげていますね。
- 身につけるだけで、空間のウイルスを除去
- 身につけるだけで1m³の空間除菌
- 携帯することで、オフィスや会議室などで除菌・消臭できます
- 通勤時の予防として、除菌・消臭いたします
- 電車やバスの中、各種施設の中などで、空間に浮遊するウイルス・菌・臭いを除去します
景品表示法の「優良誤認」表示とは
ところで、景品表示法って何ですか?景品っていうと、お菓子とかについているおまけのことですか?
除菌剤とどう関係あるのかな?
景品表示法とは、「不当景品類及び不当表示防止法」という法律のことです。
その名のとおり、「景品」-KONさんのいうおまけですねーについてと、商品やサービスについての「表示」についてと、2つのことについて規制をしている法律です。
今回問題となっているのは、「景品」じゃなくて「表示」のほうですね。
「優良誤認」表示とは、景品表示法5条1号の表示です。
景品表示法第5条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
1 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
根拠がないのに、実際のものや、他の業者のものよりもよく見せかけるということだな。
でも、商売やってたら自分の商品について「これ、めっちゃいいですよ!」と少しは強調したくなるけど。ダメなのか?
通常の宣伝・広告程度なら「パフィング Puffing」として許容されます。その程度が「著しく」なると、違反になります。
今回は、根拠とされる実験結果が「狭い密閉空間での実験結果」であるにもかかわらず、通勤時など場所を問わず、ウィルスを除去するかのような表示が違反のおそれありとされました。
ほかにも、消費者庁のサイトで、Covid-19についての商品の「表示」が問題になっているものを見つけたよ。
外部リンク:消費者庁「新型コロナウイルス予防効果を標ぼうする食品について(注意喚起)」
外部リンク:消費者庁「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第2報)」
外部リンク:消費者庁「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」
10cm離れたところでも二酸化塩素放散確認できず
さて、もう少し、掘り下げてみましょう。
さて、携帯型の「空間除菌」商品の効果については、オンラインで無料で読める論文として、こういうものがあります。
著者の西村秀一医師は、国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長です。
外部リンク:J-STAGE 日本環境感染学会誌32 巻 (2017) 4号「身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証」西村秀一
ウィルス不活化には全く効果がない、1mどころかわずか10cm離れたところでも二酸化塩素の放散が確認できなかった、という内容です。
へえー、知らなかった。
この除菌剤の効果を過信して、「人混みでも大丈夫」「通勤時もマスクいらず」とか思ってたら、油断してしまうね。
安全性
また、効果だけでなく、安全性はどうでしょうか。
これは、かつて販売されていたものですが、2013年2月、首掛け式の携帯型除菌剤で、肌に直接触れるような使い方をして化学やけどをするという事故情報が寄せられ、回収となっています。
外部リンク:消費者庁「次亜塩素酸ナトリウムを含むとの表示がある「ウイルスプロテクター」 をお持ちの方は直ちに使用を中止してください。(*PDFファイル *2013年の情報です。)
外部リンク:国民生活センター「首から下げるタイプの除菌用品の安全性 -皮膚への刺激性を中心に-」(*PDFファイル)
これは・・・
新しい製品は、慎重に情報を集めた方がよさそうだね。
すえ置き型は・・・
じゃあ、置くタイプは、どうなんだ?効果はあるんだろう?
確かに、すえ置き型のものもありますね。これもみてみましょう。
国民生活センターは、2010年に、「二酸化塩素による部屋等の除菌をうたった商品は、さまざまな状況が考えられる生活空間で、どの程度の除菌効果があるのかは現状では分からない。」としていますね。
外部リンク:国民生活センター「二酸化塩素による除菌をうたった商品-部屋等で使う据置タイプについて-」(webarchive)
また、2014年3月には、消費者庁が、すえ置き型を含む17社に対して、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、措置命令(行政処分)を出しています。
外部リンク:消費者庁「平成 25 年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」(webarchive)(*PDF、22ページ〜)
結局、すえ置き型も、首から下げるタイプとおんなじことを言われてるんだな。
なんだか、いっつも同じ理由で行政から指導や処分を受けてるんだね。
そうです。生活空間と実験室とは全く違うわけですから、人の流れや、空気の流れがあるところで、果たして意味があるのかどうかわからないのに、生活空間で有効であると表示することが「優良誤認」とされたのです。
携帯型と同じですね。
「狭い密閉空間」ならいいの?
でもさあ、「狭い密閉空間での実験結果」はあるんだろ?密室ならいいんじゃないのか?
たしかに、そういう実験がある、とされています。
例えば、あるメーカーは、「6畳相当(25㎥)の閉鎖空間でクレベリン置き型製品により、浮遊・付着ウイルスの一種、浮遊・付着菌の一種を180分間で99.9%除去できる事を確認。」*とうたっています。
(*引用元:大幸薬品ウェブサイト 2021.2.17追記 いつの間にか、ウェブサイトの表記がつぎのとおりにかわっていました。「閉鎖空間で二酸化塩素又はクレベリン置き型により特定の『浮遊ウイルス・浮遊菌』の除去を確認。閉鎖空間でクレベリンスプレー噴霧により、空気中の二酸化塩素が特定の『浮遊ウイルス・浮遊菌』を除去できる濃度になることを確認。」となっています。閉鎖空間の平米数が消えています。)
そうなんだ。
でも、そもそも「狭い密閉空間」って、それ自体がダメとされているんじゃないの?「三密」。
たしかに。まずは、そのような閉鎖された空間に長時間いること自体を、避けた方が良さそうですよね。
そうだな、まず、窓開けて換気しようぜ。
また、西村医師は、すえ置き型についても論文を発表しています。こちらも、オンラインで無料で読めます。
外部リンク:J-STAGE 日本環境感染学会誌31 巻 (2016) 5 号 「ウイルス不活化効果を標榜する二酸化塩素ガス放散製剤の実用性の有無の検証 ―冬季室内相当の温湿度での空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化について―」西村 秀一
外部リンク:J-STAGE 日本環境感染学会誌32 巻 (2017) 5 号 「低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御―ウイルス失活効果の湿度依存性―」西村 秀一, 林 宏行, 浦 繁, 阪田 総一郎
ふむ・・・30%の低湿度だと効果なし、50-70%の高湿度だと効果はあるかもだが、もともと高湿度であることにより感染リスクがかなり低下しているからあまり上乗せ効果はなさそう、ということか。
そうですね。メーカーの実験結果だけでなく、少なくとも、いろいろな実験結果があるようです。なお。SARS-CoV-2(新型コロナウィルス)についての実験は、今のところないようです。
「気休めとして」はどうか?
うーん、難しい。メーカーが言っていることと、どっちが正しいのかな?
でも、気休めとして、ないよりマシ、という考え方はどうかな?なんとなく、あれば、安心するよね。
そうですね。なんとなく効きそう、というイメージがありますよね。
でも、「気休め」というのは、賛成できません。
そうだな。
例えば、これを置いてたら、閉鎖された部屋に集まってもいいんじゃない?とか、手洗いしなくてもいいかな、とか少しでも思うようなことがあれば、有害だと思うよ。
そうかもね。正直、あの匂いは苦手だし・・・
例えば、プールの消毒などを思い浮かべて、塩素が効きそうだ、というイメージだけが先行して、空間除菌剤を買う方は多いと思いますが、果たしてそれで良いのでしょうか。
一般にいえることですが、なんとなく、というイメージに頼るのではなく、正確な情報を収集し、「なぜこれを買うのか」「なぜ他のものでなくてこれなのか」というできるだけ明確な目的意識をもって、買い物をしたいですね。
意識高いですね・・・できることから気楽にがんばります。
確実に効果があるのは、やはり、手洗いですね。
なんだか、少し、緩和ムードですが、すぐにCovid-19の問題が終わるとは思えません。手洗いしましょう。
追記(2021.2.17)
この記事を書いたのはまだ半年ちょっと前の2020年5月です。
その間、ようやく、空間除菌は意味がない、もっと有効な手段をとりましょうね、という話が浸透してきたのかな、と思っていました。
ところが、きのう2021年2月16日、こんなニュースがありました。
外部リンク:日本経済新聞「大幸薬品、クレベリン12万個を無償提供 全国の病院に」
あ 例のクレベリンだ・・・ 無償提供だって。
まあ、タダならいいかあ。
いやいや、タダより怖いものはないぞ。
「全国の病院で使われています!」って宣伝するに決まってるだろ。
そっかあ。
それに、クレベリンがあるからまあ大丈夫だろう、っていって、マスクをしなかったり、手洗いをしなかったり、とか、そういう油断も怖いよね。
「気休め」という考えかたも、もうやめよう。
わたしもそう思います。
なお、日経新聞は記事の締めくくりに、「同社はクレベリンに含まれる『二酸化塩素』で新型コロナウイルスに対する不活化効果を確認した。大阪府立大学と実施した共同研究では、クレベリンスプレータイプの10分の1にあたる濃度の二酸化塩素の溶液に新型コロナウイルスを10秒さらした場合、感染能力を持つウイルスの数が99.9%以上低減することが確認できたという。」としていますが、これは、控えめにいって、「誤導」です。
ここで言われている実験は、大幸薬品の2021年2月16日付けのプレスリリースに出てくるものです。
外部リンク:大幸薬品「二酸化塩素の新型コロナウイルスに対する不活化効果を確認」(PDF直リンク)
あ これ、よくみると、クレベリンの「置き型」(ガスを発生させるもの)の話じゃなくて、溶存液(液体)の話だね。
液体による消毒なら、もともと、アルコールとか中性洗剤とか、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とか、効果がしっかり確認されたものがあるよね。
わざわざ、これ使う必要あるのかな?
いつだったか、このブログで、勉強したとおりだけど・・・。
内部リンク:Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と次亜塩素酸水の噴霧・その1
内部リンク:Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と次亜塩素酸水の噴霧・その2
それに、空間除菌の話が、いつのまにか液体の話にすりかわってるんだな。
空間除菌が効果がありました!っていうのかと思ったら。
日経新聞は、わざとやってるのかな。それとも、会社が出してきた原稿をノーチェックで通してるのかな。
というわけで、科学記事を読むリテラシーも、とても大事ですね。
Covid-19時代はそういった能力も重要になってきますね。
さて、この報道のあと、病院がクレベリンをありがたがってもらう、という続報がなければいいのですが・・・。さすがに、お医者さんや薬剤師さんは、わかりますよね。その図が、わたしたちにどのような印象付けられるかということを。
追記:大幸薬品クレベリンに措置命令(2022.5.8)
これは追記するにはボリュームが増えすぎたので、別記事とします・・・
よろしくおねがいします。
内部リンク:きょうの消費者ニュース「Covid-19(新型コロナウィルス感染症)と「空間除菌」をうたう商品はなぜなくならない?:「クレベリン」措置命令」
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