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大阪高等裁判所でリース会社の責任を認める判決が出ました
あれ?
きょうは、ニュースの話じゃないのか?
そうです。
きょうは、大阪高裁で、リース会社の責任を認める判決が出たよ、という話なのです。
大阪高判令和3年2月16日(判例集未登載、私=住田浩史がユーザー側代理人となった事件です。)についての速報です。
それって、めずらしいの?
そうですね。「提携リース」でリース会社の責任を認めた判決は、これまでも、いくつかあります。
地裁レベルだと、なんといっても、リーディングケースである大阪地裁の平成24年7月27日判決(判例タイムズ1398号159頁)などがあります。
今回のように、高等裁判所レベルで認めたものとしては、福岡高裁の平成4年1月21日判決以来になるでしょうか。ほんとうに、ひさびさ、というところです。
ふむ。平成4年というと、もう30年近く前じゃないか・・・
そうなんです。実は、昭和の時代や平成ヒト桁台まではけっこうあったんですが、最近では、こういった判決は、少なくなりました。
それには、実は、いくつかの理由があるのですが、それはまたややこしいので別の機会にお話しましょう。
リースについては、話すべきことが、たくさんあるのです。
きょうは、リースについて、お話しします。
リースとは
はい、じゃあ、質問。
まず、リースってなんなの?
よく聞く言葉だけど、じつはあんまりよくわかってなかったりするんだよね。
そうですね、まずは、そこからですよね。そこがわかっていないひとがたくさんいます。
リースとは、ひとことでいうと、「企業等が選定した設備等をリース会社が取得して、その企業等に比較的長期間賃貸する取引」です。
まずは、この図をみてください。
なるほど、お金を借りてモノを買ったり(・・・②)、クレジットでショッピングしたり(・・・③)、というしくみとよく似ているんだね。
ふうむ。売買と賃貸借がセットになっているのが特徴なのか。
レンタルとはどう違うんだ?レンタルも「賃貸借」だろう?
レンタルは、貸主-借主の2者間しか出てこない契約ですね。
リースは、リース会社が貸主、ユーザーが借主になり、その2者間の契約を「リース契約」といいますが、もうひとりサプライヤーというひとが登場します。リース物件の「供給者」ですね。
サプライヤーがリース会社にリース物件を売る、という「売買」が登場してくるのです。
こういった意味で、リースの登場人物は、3者ということになります。
そうか・・・おれも、レンタルとの違いがあんまりわかってなかったな。
「リース契約」は2者間の契約だが、「リース」という仕組みには3者が登場するわけだな。
ここまではOKだ。
ただし、リース契約には、そのほか、3者間契約説など、いろいろな法的解釈があって、百花繚乱という状況を呈しています。
学者ごとにちがう、といっても過言ではありません。
以下では、いちおう、以上のような解釈に基づいてお話を続けますね。
リースのニーズはどこにあるか
そもそも、リースってなんで必要なの?
ユーザーが、サプライヤーがもってるものがほしければ、お金を借りて買ったり、クレジットを組んで買えばいいんじゃないかな?
これは、税金のことが関係してくるんじゃないかな。
それなりの額の設備を買うと、「資産」になって、「減価償却」しなければいけないんだ。
???
そうですね。一般的なリースのメリットは、負債の簿外化(オフバランス化)にある、といわれています。
さて、200万円で購入した物件がもし自社の資産となったら、バランスシート(貸借対照表)の資産の部に、200万円分をのせなければなりません。
それが、なんでダメなの?
資産がある、ということは、お金持ちの会社だ、ってことでしょ?いいじゃない。
ところが、そうじゃないんだ。商売をやっていればわかるが。
まず、資産は、寄付された、とかならいいけど、普通はただで手に入るわけじゃない。資産がある、ということは、必ず、それに対応した負債もある、ということになる。べつに、そんなにうれしいことじゃないんだ。
それに、同じ利益を出すために、少しの資産しかない会社と、たくさん資産がある会社と、どっちがいい会社だと思う?
あ、そうか。
たくさん資産があるのに利益は同じ、ということは、効率が悪い会社ということだね。
そうだよな。
そうなると、バランスシートをみた銀行からも「この会社は収益性が悪い会社だ。それじゃ、お金を貸すのはやめとこうかな。」と思われることになるんだ。
その点、リースは「賃貸借」ですから、資産としてのせる必要はなく、それに対応するリース料も「賃料」ですから、負債にのせなくてもいい、というわけです。
都合がいいですね。
でも、実態は、融資を受けて買うのと、変わんないんだよね。
なんだかちょっとズルい気がする・・・
そうですね。
もっと露骨なのは、節税効果ですね。
そうだな。
それに、節税もできるぞ。
法定耐用年数よりみじかい期間でリースをすれば、減価償却費よりもリース料の方が高いから、毎年、経費をたくさんあてこむことができる。
そうすると、少ない税金ですむんだ。魔法みたいだろ?
そうですね。正直いってズルい節税テクニックだったのです。
これを利用して、黒字の会社は大幅な節税ができたわけです。もちろん、リース会社も手数料がもらえますから、当然、儲かるわけですね。まさにWin-Winの関係ですね。
「リース華やかなりし時代」は、まさにこの昭和40〜50年代、いわゆる高度経済成長の時代でした。
民法学者として名高い名古屋学院大学の加藤雅信教授は、このようなリースの「賃貸借」処理を、「あたかも、厚化粧で素顔を隠すような目くらまし効果」として、次のように、かつてのリースの隆盛について語っています。
おもしろいですね。
「法人税の圧縮をユーザーがする、その節税分の利益をユーザーとリース会社が分けあう、これがリース取引の基本形態である。このような背景のもとに、リース産業は倍々ゲームで伸びてきた。」(加藤雅信「古典的リース取引の変容と、悪質リース商法」『名古屋学院大学法学部開設記念論文集』、2014年、42頁)
リースは衰退産業へ:業界の命運をかけた「提携リース」
ところが、税務当局がそんな状況を指をくわえてみているわけはなく、リース会社の華の時代は、あっさりと終わりを告げます。
それは、2007年の税制改革、そして、リース会計基準の改正です。
ひとことでいうと、税金面でも、会計面でもリースは「賃貸借」じゃなくて「売買」処理してくださいね、ということになったのです。
加藤教授はこれを転換期として、リースは「衰退産業」(前掲論文、46頁)となったとしています。
それじゃあ、リースのうまみがなくなったのね。
なんでリースなんてものが、まだ存在しているの?
ところが、そこが、問題なのです・・・
じつは、この会計基準改正は、大企業に限られ、中小企業には適用がないのです。
ふむ、じゃあ、中小企業にとってはいぜんとしてリースのメリットがあることになるよな。
でも、節税に苦労しなければならないほど大きく儲かってる企業ならともかく、小さな会社や個人の場合、そこまで意味があるとは思えないけど・・・
そのとおりですね。
そこで、業界の生き残りをかけて、リース会社はターゲットを大企業から中小企業にシフトします。
それが「提携リース」というビジネスモデルなのです。
長くなりました・・・いいところなのですが、次回に続きます。