目次
はじめに:おしゃれな総務省と地味な消費者庁
きょうは、みなさんにもみじかな携帯電話の料金プランについての話です。
さて、総務省は、2021年4月に「携帯電話ポータルサイト」というのをつくって、携帯電話の料金プランをはじめとして、携帯電話の契約について、消費者に対する注意喚起、啓発を行っています。
外部リンク:総務省「携帯電話ポータルサイト」
へえ、これは、きれいで、わかりやすいサイトだね。
なんで、消費者庁じゃなくて、総務省なの?消費者向けの内容になっているのに。
冒頭の記事でも、「消費者庁が」注意喚起、ってなってるけどね。
そうですね。
実は、携帯電話事業者や、インターネット・サービス・プロバイダなどの電気通信事業に関しては、総務省が管轄しているのです。
電気通信事業法という法律も、じつは、総務省の管轄なのですよ。
そういえば、2020年のちょうど今頃、東京電力エナジーパートナーから業務委託を受けた「りらいあコミニュケーションズ」が、電力供給契約の電話勧誘で通話記録の改ざんをしたことについて少し書きましたね。
内部リンク:「電気」と「インターネット」の電話勧誘にご用心
あっちは、「電力」なので、消費者庁の管轄ですね。
そうそう、つい先日ですが、2021年6月25日、消費者庁は、その東京電力エナジーパートナーに対し、電話勧誘販売の業務停止命令等の行政処分を行いましたね。
外部リンク:消費者庁「電話勧誘販売業者【東京電力エナジーパートナー株式会社】に対する行政処分について」
ふんふん、けっこう、詳細に勧誘の内容が明らかになっている。
・・・電話記録の改ざん以外にも問題がいろいろあったんだな。
電力と同じようにみえても、電話やインターネットは、総務省なのか。そういえば、最近も、総務省の役人の接待問題が問題になったな。あれも、たしか、通信事業者がらみだったな。
でも、消費者庁はさあ、消費者の利益を守るための役所なんだろ?携帯電話だからといって、管轄の総務省にまかせていてもいいのか?
そうそう、いちおう、消費者庁も携帯電話についてのウェブサイトをつくっていますよ。
外部リンク:消費者庁「自分に合った携帯料金プランになっていますか」(PDF直リンク)
ふむ、総務省のおしゃれな感じと違って、こっちは、いたって、なんというか、ダサいというか、お役所的な感じだな・・・これは、業者に、接待とかあんまり受けてなさそうな感じがする(笑)。
そう? わたしは、こういうのほうが、なんとなく安心できて、好きだよ。
利用実態に照らして過大な料金プランを契約している人が多い
そうですね。どっちもまあ、「らしい」といえば「らしい」ですね。
これは私の個人的な意見ですが、総務省のは、無駄におしゃれなサイトで情報の密度がべしゃべしゃに薄いです(大事なことをあんまりちゃんと言っていない)が、消費者庁は、お世辞にもおしゃれとはいえませんが、これをシンプルにまとめています。
消費者の目線からみると、情報の「質」としては、消費者庁に軍配が上がりますね。
いちばん大事なところは、「過大なプランを選んでいる人が多い」ということです。
次の表(これ、総務省の調査結果なんですが、おしゃれサイトにも、これをばーんと貼り付ければいいと思うんですよね・・・)をみてください。これで一目瞭然ですね。
こりゃすごい・・・
42パーセントが月20GB以上のプランを契約しているのに、実際に月20GB分を使ってるのは、11.3パーセントにすぎないのか。
逆に、半分くらいの人は月に2GB以下しかつかっていないのに、2GB以下プランの契約者は17.1パーセントしかいないんだ・・・
おお、もったいない。
おっしゃるとおり。みなさん、ぜひ、いますぐご自身の通信量を確認したほうがいいと思います。
さて、これで終わり、といいたいところなのですが、きょうは、もう少しあります。
なぜ、消費者は「損」な「し放題」プランを選択してしまうのか?
それは、なぜ、消費者は、多くのひとにとって「損」な20GB以上(これは多くの携帯電話会社が「使い放題」プランとして設定しています。)のプランを選択してしまうのでしょうか?
実は、米国の研究者オレン・バー=ギル教授は、『消費者契約の法と行動経済学』(木鐸社、2017年1月、太田勝造ほか訳)という本で、携帯電話のプランについて、行動経済学の見地から、この謎を解き明かしています。
この本、非常にワクワクする本です。
難しい数式もあまりでてこず(全く、でてこなくはないですが、わからないときは、すっ飛ばしたらいいと思います)、行動経済学について実例を知りたい、という方には、おすすめです。
行動経済学。
なんか、まえにもでてきたきがする!なんだっけ?
はいはい、たしか、いくつかの記事で紹介しましたね。
このへんとか。
内部リンク:水回り、鍵開けレスキュー商法に注意!:「5000円のはずが20万円請求された」「自分が呼んだらクーリング・オフできない?」
この本によると、携帯電話は、このような「使い放題」プランの登場は、実は多くの消費者が、使用限度超過手数料の多額化、という「痛み」を覚え、学習していることが前提となっているということです。
なるほどな・・・そういや、むかし通信量が月3GBで、あと3日とかで超過して、「くそ〜!」と思いながら1GB1000円とか払ってたもんな・・・たしかに、あれはめちゃくちゃ痛かった・・・
だから、できるだけ、そういう目に合わないようにプランを選んでるような気もするなあ。
でも、必ずしも、毎月毎月、超過してたわけではないはずですよね。十分、それにおさまる月もあったのではないでしょうか。
超過したときの「痛み」だけははっきり覚えているが、超過しなかったときのことはいまひとつ覚えていないので、その「痛み」をできるだけ回避するように行動しよう。これは、行動経済学的には「利用可能性ヒューリスティック」といいます。
バー=ギルは、このようにいいます。
「現在利用可能な『し放題プラン』が本当に魅力的なのは、消費者の中では相対的に少数派に過ぎないヘヴィ-・ユーザにとってのみなのである。」「シンプルではあるが、そのシンプルさ(単純明快さ)は過大評価されている。」(同書324〜325頁)
この本は、2012年に出版されているようだけど、まさに、10年後の日本にもまったくよくあてはまってるね。
行動経済学、なかなか、おもしろいね。
解決策は?
では、このような過大なプランが横行している実態は、どうすれば解決されるでしょうか。
そりゃあ、競争じゃないか?
ドコモなり、ソフトバンクなりが、「うちのプランのほうがいいですよ、みんな損してますよ」と言っていけばいいんじゃないか?
それが、そうではないのです。
行動経済学のテーゼは、「合理的選択理論」(十分に合理的な消費者が十分に合理的な選択をする、という理論)を前提とした「市場による解決」には限界があり、失敗する、というものです。
市場による解決、とは競争のことです。「よそよりうちのほうがいいよ」というコストをかけて利潤を得られるわけです。
ところが、携帯電話の契約などは、正直いって、五十歩百歩、「どれも一緒」なわけです。電話が使えればいいわけですから。
そういった商品について、業者は、「うちの契約のほうがいいよ」という活動(消費者学習)に、あまりコストをかけません。
なぜなら、それをすれば、他社もそれをまねするからです(まねできないような技術革新ならいいですが、携帯電話の契約について、そんなことはちょっと考えられません。)。コストをかけただけ、最初にやった会社が損になってしまいます。
携帯電話会社は「みんなで幸せになろうよ。」(byパトレイバーの後藤隊長)という動機をもっているということですね。
じゃあ、どうやって、解決するの?
バー=ギルは、携帯電話のプラン選択については、市場での解決は期待できず、規制によって、徹底的な情報開示をさせるべきだだとしています(同書332頁〜)。
具体的には、契約者集団の「商品使用パタン」(平均的な契約者の携帯電話使用実態、使用上限時間の50%以下しか使わない消費者の割合などの有用な情報)を公開するのとあわせて、契約者個人の商品使用情報(し放題プランでどのくらいコストを浮かせることが出来たか、あるいはその逆か)、さらには、包括総コスト(要するに、この契約でいくらかかっているのかを示す)を当該個人に対して強制的に開示させる、という提案をしています。
「毎月の明細にもし他の商品プランに移行すれば現行の商品プランよりも総コストが小さくなる場合はその旨を記載する、というのもよい」という提案もしています。
これもわかりやすいですよね。たしかに、携帯電話会社は、いともかんたんに、それができるはずです。
そういう意味では、今回の総務省の調査と公表などは、そのさきがけとも言える、かなりおもしろい試みと言えます。
ぜひ、このような調査とその公表は、今後も、続けて(消費者庁も、もちろん総務省のお尻を叩いてがんばっていただきたいですが!)ほしいと思います。
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