目次
はじめに:特定小型原動機付自転車「電動キックボード」の誕生
電動キックボード、そういえば、まちでよく見かけるようになったな。
ほんとだね。
とくに若い人が乗ってる気がする。
車を運転してると、横を通り過ぎるときにすこし怖いこともあるけど・・・
電動キックボードについては、このブログでも、2度ほど紹介しました。
内部リンク:きょうの消費者ニュース「電動キックボード(キックスケーター)で公道を走ってもいい?電動でないやつは?」
内部リンク:電動キックボードを無免許・ノーヘルで乗っても大丈夫?:「特定小型原動機付自転車」の誕生
はい。おさらいですが、もともと、電動キックボードは「原付」扱いだったわけです。
それが、「免許なしで乗れるようにしたほうがいいのでは?」という規制緩和が議論されることになり、2021年4月の有識者委員会の中間報告では、「でもまあ危ないしやっぱりヘルメットはいるんじゃないの?」という意見と、「いや、免許だけでなくヘルメットもいらない」という(事業者の)意見があり、それなら実験しましょう、ということで実験がされたわけです。
で、実証実験の結果は、こうなりました。
外部リンク:経済産業省ウェブサイト「電動キックボード実証実験の結果概要及び安全対策」(PDF直リンク)
でも、この実証実験は、いわば「優等生」を対象にした実験でした。
① 普通運転免許保有者に限定された実験
② 車前に、運転免許の登録のほか、道路交通法のテスト(全問正解が必須)が必要
③ 速度も15km/h以下に抑えられていた
④ 特殊な「小特」扱いであり、現場の警察官が交通違反をただしく検挙できたとは思えない
という要素がありました。
では、「優等生」対象でない場合は、どうだったか。
有識者委員会の報告書にも引用されている埼玉県運転免許センターでの実験では、運転免許あり10人/運転免許なし10人を比較した電動キックボードの走行実験が行われたのですが、ここでは、「免許なし」の人のほうに交通違反が多数見られた、というはっきりした結果が出ています。
でも、けっきょく、そのへんはうやむやにされて、2023年7月に、運転免許がない人も電動キックボードが乗れるように法律が変わったわけだ。
はい、そのとおりです。これが、「特定小型原動機付自転車」ですね。
外部リンク:警察庁 特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)に関する交通ルール等について
どんな電動キックボードでも免許なしでOK?
あのさ、Amazonとかにもいろいろ電動キックボードが売ってるよね。
これって、全部、免許なしで公道を走れるの?
いいえ、そんなことはありません。
道路交通法には、「原動機付自転車のうち車体の大きさ及び構造が自転車道における他の車両の通行を妨げるおそれのないものであり、かつ、その運転に関し高い技能を要しないものである車として道路交通法施行規則で定める基準に該当するもの」(道交法2条1項10号ロ)という基準があります。
そして、道路交通法施行規則は、次のように基準を定めています。
【車体の大きさ】長さ190cm以下、幅60cm以下
【車体の構造】
- 原動機として、定格出力が0.60Kw以下の電動機を用いること。
- 20km/hを超える速度を出すことができないこと。
- 走行中に最高速度の設定を変更することができないこと。
- AT機構がとられていること。
- 道路運送車両の保安基準第66条の17に規定する最高速度表示灯が備えられていること。
これを満たさない電動キックボードは、2023年7月1日以降も、一般の原付か、あるいは自動二輪扱いになり、その車両区分に応じた規制に服することになります。
電動キックボードの交通ルール
では、免許なしで公道が走れる電動キックボードの交通ルールを確認しましょう。
ひとことでいうと、従前の「原付」から「自転車」並みに規制緩和された、ということになります。
まず、普通免許や原付の運転免許は必要ありません(道交法84条1項)。ただし、16歳未満の者が特定小型原動機付自転車を運転することや、16歳未満のものに提供することは、禁止されています(道交法64条の2。違反した場合には6月以下の懲役又は10万円以下の罰金があります。)。
また、電動キックボードが通行すべき道路は、車道、自転車道(道交法17条3項)、路側帯(歩道モード(時速6km以下)に切り替えることができる特例特定小型原動機付自転車で、かつ、歩行者の通行を著しく妨げない場合のみ。道交法17の3)、自転車通行可の歩道(特例特定小型原動機付自転車で、かつ、歩道モードに切替えられている場合のみ。道交法17の2)です。
へえ、歩道を走ることができる場合もあるんだ。
「特例」付きの電動キックボードだと、ほとんど自転車と扱いがいっしょだね。
また、飲酒運転や二人乗りなどの危険な運転行為は禁止されているのも自転車と同じですね。
また、ヘルメットについても、原動機付自転車では着用が法的義務ですが、電動キックボードでは、努力義務化されています(改正道路交通法71条の4第3項)。
自転車も、そういえば、ヘルメット着用が努力義務化されてたな。
2023年の4月からだけど、まだまだ着用している人は少ないな・・・
うーん、電動キックボードは、ヘルメットつけてる人はひとりもみたことないけどね。
電動キックボードの交通違反は?
では、法改正後の、かんじんの交通違反・事故発生状況はどうでしょうか。
まず、交通違反はどうか。警察庁が全国の都道府県警察の報告をまとめています。
これによれば、2023年7月は交通違反が406件、8月が692件ですね。
信号無視が多いね。
件数は・・・いまひとつピンとこないな・・・自転車と比べてどうなの?
警察庁は、自転車の交通違反についての取締件数を公表しています(2022年度)。
たとえば、「信号無視」でいいますと、自転車の検挙件数は、1年で12,498件ですね。
さて、電動キックボードの「信号無視」の検挙件数(指導警告の件数は公表されていません)は、2ヶ月で466件ですから、単純に年換算すると、6をかけて・・・はい、2796件ですね。
普及台数の差を考えると、電動キックボードの違反件数は、自転車に比べてもかなり多い感じがするね・・・。
まあ、法改正直後だから、単純に比較できないけどな。
さすがに警察も電動キックボードの取締を強化しているんだろう。
それを割り引いても、けっこうなもんだ。
これをみると、導入前に行われた「実証実験」(半年、のべ85000人で、交通違反件数はわずか80件でした)がいかに「できのいい」実験だったか、ということがわかりますよね。
電動キックボードの事故は?
つぎは、事故件数です。これも警察庁がデータを公表しています。
ちなみに、警察庁によれば、道交法改正前の状況(2020〜2023年1月まで)は、こんな状況のようです。
これ、どんな事故だったのか(たとえば、ヘルメットは着用してたのか)とか、詳細は全くわからないのです。
また、ITRADA(公益財団法人交通事故総合分析センター)は、電動キックボードのプラットフォーム業者のLUUPと、保険会社(東京海上日動火災保険)と共同で、電動キックボードの事故分析に関する調査研究を行っているようです。
外部リンク:ITRADA 令和5年 第26回交通事故・調査分析研究発表会
しかし、全く新たな交通手段であり、しかも、本来免許やヘルメットが必要なところをあえて緩和した電動キックボードについては、本来、早期に、また、より広く、事故に関する情報が共有されるべきではないでしょうか。
ふむ。
海外ではヘルメット義務化されたり、レンタルが廃止された国がある、とか、規制強化に向かっているところだからな。
あえて、緩和するならば、情報をきちんと公開して、もし問題があればまた規制を行わないとな。
電動キックボードは、転倒時の頭部外傷が多いといわれています。
たとえば、JAFは、電動キックボード走行中に転倒して地面に頭部を衝突させたとき、ヘルメットの着用が効果的であるとの実験結果を公表しています。このような実験は、本来、メーカーなり、プラットフォームなり、あるいは規制緩和をした警察庁が率先して行わなければならないのではないでしょうか。
外部リンク:JAF 電動キックボードの衝突実験(JAFユーザーテスト)
悲惨な事故防止のためにも、電動キックボードの事故に関する情報の速やかな公開が望まれます。
そうだね。
LUUPのポートはまちなかでよくみるけど、ヘルメットをおいてあるのをみたことないし、ユーザーにも着用を勧めているような気配はないんだよね・・・
さっきも言ったけど、だ-れもヘルメットしてない。
これでいいのかな・・・?