富士急ハイランド「ド・ドドンパ」骨折事故はなぜ報告が遅れたのか(2021.9.1追記)

「富士急ハイランド「ド・ドドンパ」で4人骨折 山梨県など立ち入りへ

https://www.sankei.com/article/20210820-WG733ZDQVJO7BGPFFS5GNFGCMM/
産経新聞 2021.8.20

はじめに

ジェットコースターで、首の骨を折る事故だって。

これには乗ったことがないけど、たしかに首に相当負担がかかりそうな感じのやつだな・・・。

ジェットコースターである以上、多少のスリルや衝撃がないとつまらないとは思うけど、さすがに、骨折は怖いな。

きちんと調査してほしいな。

調査を行うのは、もちろんだよね。

それより、事故が1件だけじゃなくて4件もあって、しかもいちばん古い事故は2020年12月って、もう8ヶ月以上前だよ。

その間、事故があったことについて報告をせず、アトラクションを止めず、なによりお客さんにも全く伝えなかった、というのは、施設としては、ちょっと問題じゃない?

そうですね、どうやらこの件のポイントは、「事故」情報をどう扱い、同収集し、そして、どう活かすか、というところにありそうですね。

きょうは、遊園地の事故情報の報告のあり方について考えてみます。

遊園地の事故報告制度①:国土交通省の通知

そうそう、記事には、「県としては事故発生から速やかに報告がなかった」ことを指導する、とあるね。

施設としては、県に事故の報告をしなければならなかったのだよね。

はい、これは、2005年3月31日に国土交通省から各都道府県建築主管部長あてに発出された「国住防第3278号」通知による報告制度のことをさしている、と思われます。

外部リンク:国住防第3278号 国土交通省住宅局建築指導課長「建築物等に係る事故防止のための対応及び連携体制の整備について(通知)」(PDF直リンク)

ふむ。

そうか、2004年3月の六本木ヒルズの回転ドアの事故は、いまでもよく覚えているぞ。6歳の男の子がドアに挟まれて亡くなった、いたましい事故だったな・・・

しかし、ジェットコースターとビルの回転ドアは、あんまり関係なさそうにみえるがなあ。

ジェットコースターも「建築物」ですから、この通知の対象となるのですよ。

なお、六本木ヒルズの回転ドア事故も、2004年の死亡事故が発生する前に、数十件も事故があったのです。

その事故がきちんと報告され、分析されていれば、死亡事故という悲惨な結果も防げたはずです。

その教訓から発出された通知なのです。

でも、今回は、なんで、これにもとづいて報告がされなかったんだろうね。

だって「骨折」だよ。重大な事故だと思うんだけど・・・。

これは推測ですが、2つ考えられます。

ひとつは、この通知の「事故防止連携通知」により遊戯施設の所有者等に報告・共有が求められている事故情報は、「人身事故で社会的影響が大きいと認められる」事例に限られている、ということです。ですので、これは「社会的影響が大きい」ものではない、と判断したことが考えられます。

もうひとつは、記事にもありますが、施設としては「負傷と施設の因果関係は説明できていない」という主張のようです。だから、施設利用との因果関係がないからひとまず報告しなくてよい、と考えたのではないでしょうか。

ふむ、なるほどな。

別のニュース記事では、お客さんが「前傾姿勢になったことが原因」としているようだ。
外部リンク:JIJI.COM「ド・ドドンパ」で骨折4件 富士急ハイランド、立ち入りへ―山梨

しかし、これだと、施設が報告するかしないかは、施設の判断にほぼ委ねられてしまう、ということになってしまわないか?

そもそも、「前掲姿勢をとったのが原因」というのも、どうかと思いますね。仮にそうだったたとしても、容易に前傾姿勢をとることができるような座席の設計をしていれば設計の問題があるといえますし、前傾姿勢をとらないように適切な警告していないのであれば、警告の問題があります。

遊園地の事故報告制度②:消費生活用製品安全法?

あ、そうそう、少しまえさあ、なんとかPSEマークとか、PSCマークとか、ほら、すこし勉強したじゃない。

なんとか安全法。あれに、事故の報告制度が定められていたんじゃなかった?

はい、消費生活用製品安全法ですね。

記事は、こちらです。

内部リンク:モバイル・バッテリーによる火災に注意!お使いの製品に「PSEマーク」はありますか?

よく覚えてますね。たしかに、重大製品事故については、事業者に報告義務があります。

でも、ジェットコースターは「建築物」なので、建築基準法によるのです。そこは、国土交通省のなわばりなのですよ。

残念ながら、この法律は、ジェットコースターの事故報告については、直接は、使えなさそうですね。

なんだよ・・・。

消費者庁は、事故情報を一元化するぞ、とかいって、結局、縦割り行政のせいで、そもそも事故情報が集められないんでは、意味がないじゃないか。

事故情報は「因果関係不明」でも報告すべき

うーん、事故情報の扱いは、なかなか難しいな。

施設は、事故が「因果関係不明」の場合、どうしたらいいんだ?

そうですね。結論としては、ジェットコースターなど特定の建築物については、「因果関係不明」であっても全件報告すべきだと思います。

そして、お客さんには誠実に公表することです。

もちろん、事故が重大ならば、因果関係が明らかになるまでは、その運用を止めるべきです。

ひとつのヒントが、2005年10月に定められた大阪府の条例にあります。

外部リンク:大阪府建築物に附属する特定の設備等の安全確保に関する条例

大阪府の条例では、遊戯施設において、死亡事故や治療を要する負傷を伴う事故については、死傷者や第三者が故意に招来したと認められるものを除き全件を報告する、ということになっています(条例3条1項)。

実は、この条例もまた、悲惨な犠牲を経たものです。それは、2005年5月に、大阪万博公園のエキスポランド(今は、遊園地はなくなり商業施設になっていますね。)のジェットコースター「風神雷神Ⅱ」で発生した死亡事故です。これも、みなさん、記憶に新しいのではないでしょうか。

富士急ハイランドのように、「お客さんが前掲姿勢をとったことが原因」とか「原因不明」などとして、事故情報をなかったことにしてしまえば、重大事故が起きることを防ぐことはできないでしょう。

そして、実際に、今回、起きたのでした。

そうそう、先日、お医者さんに聞いたんだけど、ワクチンの予防接種とか医薬品の副作用報告は、とにかく、因果関係不明確な場合でもぜんぶ報告する、ということになっているんだってな。

たしかにそれは合理的だな。因果関係の有無はあとで分析すればいいんだし、それに、そもそも報告がなきゃ分析もできないしな。

くすりと同じように消費者に危険をもたらす可能性のある遊戯施設なんかも、この姿勢を見習うべきだな。

事故情報を活かすためにはまず「収集」

そうなんです。本件に限らず、日本の消費者の「安全」分野で、もっとも弱いのは、事故情報の「収集」の場面だと思います。

いったん集まった情報の分析や整理は、大得意なんです。でも、収集はさっぱり。

たとえば、われわれは怪我をしたらお医者さんにいきますね。そこで製品事故の情報が収集できれば、いちばんよいですよね。そのしくみが、日本には、まだまだ弱いです。

日本には、「医療機関ネットワーク事業」というすばらしい事業があるのですが、参画医療機関はわずかに24、年間報告件数も5239件にとどまっています(2019年度)。

ぜひ、もっと多くの医療機関に参加していただきたいと思います。

外部リンク:国民生活センター「医療機関ネットワークの情報と活用」(PDF直リンク)

これに対して、例えば、救急病院経由の情報収集については、米国では、消費製品安全委員会(CPSC)によって「全米傷害電子調査システム」 (NEISS)が公開されています。また、EU ではIDB(傷害データベース)が公開され、情報の件数は年30〜40万件にも及びます。

おお、まさにけたちがいだな。

お医者さん経由の事故情報の収集は、一次情報・生の情報として、とても貴重な機会なのです。

とかく、われわれは、きれいな情報、整理された情報、因果関係がはっきりされた情報をありがたがる傾向にあります。

しかしながら、情報を活かすためには、まず一次情報の「収集」が重要なのではないか、と思います。

むすびに

さて、くりかえすようですが、「安全」の問題については、お金だけではなく、人の命や健康という、とりかえしのつかない結果をもたらす可能性があります。

富士急ハイランドに限ったことではなく、事故報告のあり方をもういちどよく見直したいですね。

追記(2021.9.1)

SankeiBizによれば、その後、さらに負傷者5人が確認されたということで、被害申告者は合計9人となりました。

外部リンク:SankeiBiz 富士急「ド・ドドンパ」事故、負傷9人に 社長「心よりおわび」

やっぱり、ほかにもいたんだ。

最初の1件の段階で、報告や、調査などをしていれば、こんなことにならなかったかもしれないね。

でも、いっぽうで、「そんなに金がほしいのか」とか「自分が悪いんだろ」とか、被害を申告した人をネット上で中傷するような動きもあるようだな。

まったく、けしからん。

以前、キッズライン事件のときにも少し書きましたが、被害申告をした人を叩くことは、事故防止という観点からは、百害あって一利なしです。

内部リンク:「キッズライン事件をどう考えるか〜デジタル・プラットフォームと消費者保護〜」

そういう意味では、こういった誹謗中傷は「許さない」とした、山梨県知事のメッセージは高く評価したいです。

外部リンク:朝日新聞デジタル「ド・ドドンパ負傷者に対する中傷 山梨知事「許さない」

みんなで、事故防止のための「しくみ」を考えたいですね。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院客員教授(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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