マルチ商法家族被害:どうすればいいか?

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マルチ歴30年の母、壊れた親族関係 家族の悩みネットで共有

https://www.asahi.com/articles/ASQ415DYMQ2KUTFL005.html
朝日新聞デジタル 2022.4.2

マルチ商法と「家族」

お久しぶりでございます。

・・・・なんだか休みにしか更新されないブログになりつつあるね。

さてさて、ふむふむ、マルチ商法ね。

一度、大学生のマルチ被害について、このブログでも勉強したね。

そうです、大学生の消費者被害の典型は、今も昔も、マルチ商法ですね。

えー、マルチ商法、連鎖販売について、なんだったっけな?という方は、これをみて復習してくださいね。

内部リンク:大学生は「夢」と情報マルチに気をつけて

その後、法律の改正があって、いまは18歳で成人、18歳=大人ということになっています。

大学1年生、2年生もマルチ商法のターゲットになってしまう、ということで、被害の拡大が心配ですね。

さて、きょうは、このマルチ商法の被害者の「家族」が主人公です。

マルチの本質「ABC」

マルチ商法の勧誘、組織拡大の根幹は、以前も紹介しました、「ABC」にあります。これは、ネット時代のいまもおんなじですね。

これは、消費者庁が作成した大変優れた報告書「若者の消費者被害の心理的要因からの 分析に係る検討会 報告書」(2018年)から引用した図です。

ちなみに、この報告書、消費者の心理についてもとても深く分析したよい報告書なので、ぜひ、お読みになってください。

引用元:消費者庁 若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会「若者の消費者被害の心理的要因からの 分析に係る検討会 報告書」(2018.8)103頁

ふむふむ。

これは、商売上、ひじょうに参考になるな・・・

たしかに、親しい友人(B)だけでは、しくみとか説明できないし、そもそも「ペーペーのお前が言っても信用できん」という話になるし、かといって、スペシャリスト(A)だけでは、「なんかこの人怪しい・・・」ってなるもんな。

断れない状況を作り出すというためには、最適の手法かもしれない。

そうです、マネしてはいけませんが、ひじょうによくできた古典的な勧誘のシステムだと思います。

実際に、いろいろな組織でもこの手法は使われていると思います。みなさんも身に覚えがあるかもしれませんね。

マルチ商法は「親しい人間関係」を利用する:家族も例外ではない

このように、マルチ商法は、その勧誘手法からもわかるとおり、友人、知人など親しい人をかならず巻き込んでいくことになるのです。

マルチ商法の組織に入って、勧誘のためにまずやらなければならない作業は、「リストアップ」です。

つまり、自分が「B」の立場になることができそうな「C」を、人的リソースとしてリストアップするのですね。当然、その「C」はある程度の信頼関係がある人でなければなりません。

「よくわからないけど、この人がやっているならやってもいいか」という関係にあるひとじゃなきゃだめだね。

うーん、そんなひと、何人もいない気がする・・・

そこには当然、家族も含まれますね。

いやいや、家族はさすがに断るだろう。

「あんた、なにやってんの?目を覚ましなさい」と。

そうかなあ。

断れないひともいると思うよ。たとえば、こどもとかね。

家族としては、「選択」を迫られますね。

つまり、そのひとの言いなりになって「わかった、じゃあ一口だけ・・・」といってしかたなくやる、というひともいるかと思います。もちろん、本人以上にのめりこむひともいるかもしれません。

もちろん、「やりません」という選択をされるひとも多いと思います。そうすると、当然ですが、本人と家族との間には亀裂が生まれますね。

いずれにしても、もはや、家族は、元のままではいられません。

藤本亮「マルチ商法会員の親族被害の実態」消費者法ニュース134号52頁(2023年)は、マルチ商法の家族被害についてのアンケート結果とその分析を記した貴重なものです。

ぜひ、お読みになってください。

消費者法ニュースは、定期購読すれば、オンラインで記事も読めますよ。おすすめです。

外部リンク:一般社団法人消費者法ニュース発行会議 消費者法ニュース

商法学者の故竹内昭夫教授は、マルチ商法の「被害」についても、いわゆる白光マルチ事件(マルチ商法の違法がはじめてみとめられた事件)の法廷で、つぎのように証言しています。

「その被害なるものが、金銭的な被害だけかどうかということは、もう一つ問題になり得ると思うんですね。他人に、いわば金銭的な被害を及ぼさなければ、自分の被害を免れないような地位に引っ張り込まれたということ自体、いわば他人からうらみの目でにらまれて暮らさなければならないような、自分が泣かないとすれば他人を泣かせなければならないような地位に引っ張り込まれたこと自体が、一つの被害としてとらえられるのではないか、それは金銭的な被害の別の一つの被害として考えられるということも、十分私はありうると思っております」
引用元:マルチ訴訟弁護団編「マルチ商法と消費者保護─マルチ商法をめぐる諸問題─」94頁(法律文化社、1984年)

竹内教授は、特定商取引法の制定において、国民生活審議会の消費者救済特別研究委員会、産業構造審議会流通部会という2つの委員会の審議に加わり、国会で、参考人として招致されて連鎖販売取引規制の趣旨の趣旨について、「公正なマルチ商法というものは」「安全なペスト、無害なコレラと言うに等しい」と述べたことでも有名です。

・・・・一条の「目的」のところを見ますと、連鎖販売取引、つまりマルチ取引を公正にするということが書いてあります。訪問販売、通信販売につきましては、これを公正にするということはよくわかるのでありますけれども、公正なマルチ商法というものは一体あるのだろうか。それは安全な。ペスト、無害なコレラと言うに等しいものではないかと思われるわけであります。ある程度の規模に達しますと、もう参加者を募るということは不可能になるわけでございますから、わが社の商売はある程度発展していくとデッドロックに乗り上げてもはや発展しなくなります、そのときには非常に多くの人が泣くことになりますということを告げませんと、十二条にいう重要な事実を告げないということになるのではないかと私は考えるわけであります。そうだといたしますと、マルチを公正なものにして残すという考え方ではなしに、マルチに対して公正であることを求めればマルチは必ずなくなるはずだという考え方に立っているのが、この法律の考え方であります。そういう精神に従ってこの法律の運用をしていただきたいというふうに思うわけであります。・・・
(第77回国会 衆議院商工委員会第12号、1976年5月18日)

なかなか手厳しいな・・・

でも、本質的な指摘だよね。

自分が泣くか、他人を泣かせるかどっちか、なんて悲しすぎるよ。

家族であろうと、友人であろうと、職場の同僚であろうと、その人を「手段」として扱うことになるわけです。

いちど関係性が壊れたものは、なかなか取り戻すのは難しいですね。

マルチ商法、消費者被害の家族被害にどう取り組むか

これまで、マルチ商法の家族被害については、光があてられてきませんでした。

弁護士や、消費生活センターなどの窓口も、家族が被害を訴えても「けっきょく本人が相談に来ないとねえ・・・」と言ってあまりとりあってこなかった、というのが実情です。

しかしながら、マルチ商法にかかわらず、消費者被害に苦しむ本人のみならず、その家族の訴え自体を「被害」として捉え、その救済に取り組む姿勢が必要ではないでしょうか。

そのような観点から、いくつか文章を書いてみました。ご興味のある方は、下記からどうぞ。

外部リンク:一般社団法人消費者法ニュース発行会議 消費者法ニュース136号7頁「マルチ商法家族被害の救済」

外部リンク:御池総合法律事務所「燦」28号(2023.7)「消費者問題における「親族」被害」(PDF直リンク)


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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