ウーバーイーツは配達員の自転車事故の責任を負うか〜デジタル・プラットフォームと使用者責任〜(追記2021.2.20)

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ウーバーと配達員を提訴 追突事故でけがの女性、損賠求め 大阪地裁

https://mainichi.jp/articles/20201023/k00/00m/040/188000c
毎日新聞デジタル.2020.10.23

はじめに

報道によれば、大手宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の配達員の自転車に追突されてけがをした方が、配達員と運営会社「ウーバー・ジャパン」に対して損害賠償を求める訴訟を提起した、とのことです。

ああ、ウーバーイーツね。Covid-19(新型コロナウイルス感染症)の関係で、一時期はよく使ったなあ。最近はあまり使ってないけど、便利だよね。

そうだな。
飲食店をやっている人も、このところ、ウーバーイーツなどの宅配サービスを利用している人が多いな。手数料が高いといってぼやいていたけど・・・。

ところで、こんなのは、ウーバーイーツが責任を負うに決まっているんじゃないのか?なぜそれがニュースになるのかわからないぞ?

ところが、それがそんなにかんたんではないのです。それは、ウーバーイーツが、デジタル・プラットフォームだからです。

出た!またデジタル・プラットフォーム。そういえば、前もやったよね。

ですね。

まず、巨大デジタル・プラットフォームが「ロックイン効果」をいいことに、事業者=売り手に不当な不利益を与えないようにしましょう、という目的の法律を勉強しました。

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(特定DP透明化法)についての記事は、こちらをどうぞ。
内部リンク:特定デジタル・プラットフォーム透明化法とは

また、さらに進んで、大手シェアリング・エコノミーの「キッズライン」事件を通じて、「デジタル・プラットフォームと買い手=消費者の保護」について考えてみましたね。

そうそう、思い出したぞ。
そういえば、なんかこのブログ自体も随分久しぶりじゃないか・・・?消費者問題があんまりないのか・・・?

どうもすみません(サボっていただけです・・・)

キッズライン事件については、こちらを。

内部リンク:キッズライン事件をどう考えるか〜デジタル・プラットフォームと消費者保護〜

今日は、更に進んで、デジタル・プラットフォームと使用者責任について考えてみましょう。

ウーバーイーツはシェアエコ型DP

さて、そもそも、デジタルプラットフォーム(DP)とは何でしたっけ。特定デジタル・プラットフォーム透明化法を引いて、復習してみましょうか。

①多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築した場であって、
②当該場において商品、役務又は権利を提供しようとする者の当該商品等に係る情報を表示することを常態とするもの(下記のAまたはBのいずれかの関係を利用するものに限る)
A 当該役務を利用して商品等を提供しようとする者(提供者)の増加に伴い、当該商品等の提供を受けようとする者(被提供者)の便益が著しく増進され、これにより被提供者が増加し、その増加に伴い提供者の便益が著しく増進され、これにより提供者が更に増加する関係
B 当該役務を利用する者(提供者を除く)の増加に伴い、他の当該役務を利用する者の便益が著しく増進され、これにより当該役務を利用する者が更に増加するとともに、その増加に伴い提供者の便益も著しく増進され、これにより提供者も増加する関係
③多数の者にインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて提供する役務

このように、単に「インターネットで商品を売る」ことではなく、「場」に参加する「提供者が増加する関係」がDPの特徴となります。

では、ウーバーイーツは、どうでしょうか?

まあ、①は、当てはまるな。
②も、個人の配達員さんたちが「ウーバーイーツ」のウェブサイト上にずらっと出てくるわけではないかあ当てはまらないのかな?だけど、飲食店はたくさんでてくるねえ。そうすると、当てはまるのかな・・・。よくわからない。

そうですね。利用するお客さんにとっては、「料理を配達しますよ」という「役務」を提供するというお店がずらっとならんでるわけですから、②の要件もあてはまります。

ただし、「料理を配達」の一連のプロセスのなかで、多くは、調理は飲食店、配達は配達員という役割分担になっているわけですね。もちろん、飲食店が「うちは自分で配達しますよ」という場合は、配達も自分でやることもできるわけです。

もちろん、お客さんにとっては、実際にAさんだろうが、Bさんだろうが、配達しさえしてくれれば、それは、あんまり興味はないわけです。飲食店の調理の質は、大事ですけどね。配達という無個性なスキルを切り分けて、利用者でシェアリングする、というのが、「シェアリングエコノミー」(シェアエコ)です。前にやりましたね。

同じシェアエコでも、そのへんは、前にやった「キッズライン」とは少し違うね。キッズラインは、「育児スキル」のシェアで、とても、シンプルだった。

「ウーバーイーツ」は、ウェブサイトに載っているのは飲食店だけど、実際には、配達員の「配達スキル」を、飲食店とお客さんとでシェアしあうというプラットフォームなんだね。ちょっと複雑。

はい、そのような整理でいいと思いますよ。

使用者責任:事実上の指揮監督関係

つぎに、「使用者責任」について、考えましょう。

これは、民法という法律のお話をしなくてはなりません。すこし退屈ですが、がまんしてくださいね。

民法715条 
 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

ある人が、事件や事故を起こして第三者に損害を与えた場合、その「使用」者が、責任を負うという条文です。これを、「使用者責任」と呼んでいます。

ここでいう「他人を使用する者」の意味ですが、大審院の判例(大判大正6年2月22日民録23輯212頁)では、当事者間に「事実上の指揮監督関係」がある場合で足りる、とされています。

もちろん、雇用関係が典型的なのですが、雇用関係がなくても、例えば建設工事の現場での下請人と元請人のように、実際に指揮命令に服しているような場合は、使用者責任を負う、とされています。

ウーバージャパンは「使用者」か?

さて、では、冒頭の記事に戻りましょうか。
何が問題か、わかってきましたか?

わかった。
運営会社のウーバージャパンは、別に配達員を雇ってるわけじゃないんだ。

そっか、「使用者」ではない、として争っているのは、そういうわけなんだね。

そのとおりです。そこが問題なんです。なお、シェアリング・エコノミーにおける売り手が「労働者」かどうか、については、前もご紹介しましたが、下記リンクなどを参考にしてください。

外部リンク:川上資人弁護士「シェアリングエコノミーに関する法的課題(労働政策研究・研修機構)

でも、たとえ、労働者じゃなくて、雇用関係がなくても「事実上の指揮監督関係」があれば、いけるんだろ?ウーバーは、配達員に「何時にここにいけ」という司令を出してるんだから、そりゃ指揮監督関係はあるだろう、さすがに。

そうですね、わたしもそう思います。

ただし、裁判所が、雇用関係がない事業者どうしの関係について、「指揮監督関係」を認定することは、実は、そんなに多くはありません。

この裁判でも、おそらく、ウーバージャパンは、「手前どもは、配達員のみなさまのビジネスパートナーでございます。配達員のみなさまとは、対等な立場でやらせていただいております。」という主張をすると思われます。

事業者どうしの「指揮監督関係」をどうとらえるべきか:規範的指揮監督関係

えー。そんなの納得いかないなあ。
裁判所は、それで納得しちゃうの?

そうであってほしくないですね。

ところで、解決のヒントは、前回のキッズラインの記事でも挙げた裁判例にあります。いわゆる「チュッパチャップス事件」と「ヤフーオークション事件」です。

知財高判平成24年2月14日判例タイムズ1404号217頁(チュッパチャップス事件):「ウェブページ運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」

名古屋地判平成20年3月28日判例タイムズ1293号172頁(ヤフーオークション事件):「被告が負う欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務の具体的内容は、そのサービス提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢、関連法規、システムの技術水準、システムの構築及び維持管理に要する費用、システム導入による効果、システム利用者の利便性等を総合考慮して判断されるべきである。」
「本件サービスを用いた詐欺等犯罪的行為が発生していた状況の下では、利用者が詐欺等の被害に遭わないように、犯罪的行為の内容・手口や件数等を踏まえ、利用者に対して、時宜に即して、相応の注意喚起の措置をとるべき義務があった」

このように、DPは、実態として、どう考えても、売り手との「対等なパートナー」ではないのです。

DPは、売り手を管理・支配し、そこから利益を得ている以上、その活動から生じた不測の事態については、責任を負うべき立場にあります。そして、その責任は、この裁判例が出た12年前あるいは8年前と比べ、さらに、大きくなるばかりです。

この「利益あるところに損失の負担を帰せしめる」という考え方を「報償責任」といいます。

こう考えると、使用者責任もまた、「事実上の指揮監督関係」のあるやなしやという静的、形式的なとらえかたではなく、社会実態に照らして「これは指揮監督すべきではないか」という規範的指揮監督関係のあるやなしやで判断すべきではないか、と思われます。

なんだか難しいが、要するに、企業どうしでは内部関係が見えにくいものの、実態としてははっきりと上下関係がある場合があるだろう、ということだな?

裁判所は、「対等なパートナーです」という建前に容易に騙されるな、ということだな。

そうです。もちろん、最高裁判決のなかでも、実は、このあたりをわきまえた判決もあります。

例えば、運送業者が無免許者に名義貸しをした事案で使用者責任を肯定した判決(最判昭和41年6月110日民集20巻5号1029頁)は、名義貸人が名義借人を指揮監督していたわけではなくとも「指揮監督すべき」である、という思考過程が伺えます。

また、下級審裁判例ですが、医師が外部検査機関に検査を依頼し、当該検査をした外部検査機関が血液型を誤判したため、患者に重篤な後遺障害が生じた事案で、「本来自ら或いはその指導監督のもとでなすべき血液型の判定」を依頼された外部検査機関はいわば医師の「補助者」であるとして、医師は「その判定結果から生じた危険につきその責任を免れることはできない」としており(札幌高判昭和60年2月27日判タ555号279頁)、これも、実際の指揮監督関係の有無ではなく、「指揮監督すべき」である、という点を重視していると考えられます。

このへん、少し専門的になりすぎました・・・。

詳しくは、田上富信教授の『使用関係における責任規範の構造』という本が詳しいので、読んでみてください。

飲食店の責任(余談)

なお、この件では、飲食店の責任も問われることはないでしょうか。

え、ウーバージャパンはともかく、飲食店を訴えるなんて、かわいそうだろう?配達員は、まったく知らん人だろ。

もちろん、知らない人ですね。

でも、わたしが訴訟をするなら、おそらく飲食店も被告にすることも検討します。なぜなら、配達業務を履行すべきは飲食店であり、配達員はその「履行補助者」とも考えられるからです。

ただし、これは、訴訟戦略上どうするかという問題もあり、どちらが正解かは、わかりませんね。

これは余談です。

むすびに

さて、実は、最近、京都弁護士会から、こんな意見書が出ました。

外部リンク:京都弁護士会「デジタルプラットフォーム取引における消費者被害の抜本的な法整備を求める意見書」(2020年10月22日)

キッズライン事件の記事でもみたけど、いま、消費者庁で「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」で、まさに議論がされているんだね。

これは、どうなるか、ほんとうに注目だ。

そうですね。

DPは、あっというまに私達の生活に欠かせない存在になりました。こんなに、すばやく、そして自然に、身の回りに深く浸透したシステム、ツールは、近年ではほかにはないでしょう。

検討会では、法規制のあり方について議論がされています。でも、たとえば、消費者団体からは、なんだかよくわからなくて意見をしにくい、という意見をよく聞きます。

しかし、DPはみなさんが毎日使うものです。決して、難しいものではないのです。ただし、難しそう、という感覚があるということは、とても大事な感覚です。DPには、消費者一人ひとりが「よくわかる」というまで、しくみについて説明する義務があります。みなさんお一人お一人も、ぜひ、DPにかかわる重要なステークホルダーです。意見をあげ、そして、どんどん説明を求めていきましょう。

追記(2021.2.20):Uber運転手は「労働者」との英最高裁判決

さて、2021年2月19日、イギリスの最高裁で、ウーバー(Uberは、配車サービスのほうです。Uber Eatsではないです。)の運転手が、個人事業主(self-employed)ではなく労働者(workers) であるとの判断を下しました。アプリをOnにしている間を労働時間と認め、これによって、今後、運転手は最低賃金や有給休暇の権利を認められることとなる見込み、とのことです。

外部リンク:BBC News Uber drivers are workers not self-employed, Supreme Court rules

へえ、すごいね。

Uberは、やっぱり「対等なビジネスパートナーです」って主張してたんだろうか?

BBCによれば、Uber has long argued that it is a booking agent, which hires self-employed contractors that provide transport.ということです。

「私どもは、予約代理店でございます。」という主張ですね。

どの点が、判断のポイントだったんだろうな。

報道によれば、最高裁は、次の点を重視したとのことです。

  • Uberは運賃の設定権限をもっている。
  • Uberは契約条項を設定し、運転手はこれを拒否する権利をもっていなかった。
  • 運転手が過度の乗車拒否をした場合にはUberはペナルティーを科すことができる。
  • Uberは星評価で運転手のサービスを監視し、警告を繰り返しても改善しない場合は契約を解除できる。

へえ、これ、おもしろいね。

上にかいてある「指揮監督関係」の判断の有無にも影響してきそうだね。

そうですね。これは、労働法の分野ですが、その発想は、消費者法、とりわけプラットフォームの責任の考え方にも影響してくる、重要な判決だと思います。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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