原油先物価格を指標とする上場投資信託(ETF)・上場投資証券(ETN)の危険性

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原油関連のETF及びETNに関する留意事項について

https://www.jpx.co.jp/news/1070/20200424-01.html
日本取引所グループマーケットニュース 2020.4.24

はじめに(先物取引のおさらい)

さて、きょうは投資関係の話です。

少し前に、Covid-19(新型コロナウィルス感染症)の流行がもたらした「原油先物価格のマイナス」についてお話をしましたね。

覚えていますか?

ええと・・・なんだっけか・・・

油揚げの話なら覚えてるんだけど。ほら。1万枚も食べられないよー、みたいな話をしてたよね。

はい。原油じゃなくて、「油揚げ」先物取引から考えてみたのでしたね。

油揚げ先物取引は、こんな取引でした。
①今から3か月後の2020年8月13日(清算日)に、②油揚げを、③10,000枚を1単位として、合致した値段で、④売り / 買いする。ただし、⑤取引を出す時に、取引所には預託金として1単位あたり100,000円を預ける必要があり、⑥清算日までに反対売買をして取引を終了させることができる。ということでしたね。

そうそう、思い出した。原油は、油揚げと違って、保管コストがものすごく高い。

そうそう、さらに、原油需要が落ち込んで、期先(きさき)物との価格差がめちゃくちゃ高い「ハイパー・コンタンゴ 」になってたけど、それでも実際に現受けするよりマシということで投げ売りした結果、マイナスという異常な事態になったんだった。

そうです。
もう少し詳しく知りたいよ、というかたは、こちらをぜひどうぞ。

内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その1
内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その2

きょうは、その原油先物価格と連動するように設計された金融商品について、みていきましょう。

代表的なものは、2つあります。その名も、ETF(上場投資信託)・ETN(上場投資証券)です。

きょうは、このうち、ETFについてお話しましょう。

ETF(上場投資信託)・ETN(上場投資証券)とは

ちょっと待って。先物取引は、例えば、原油とか、油揚げとか、「モノ」の市場価値によって、市場価格が決まるんだったよね。
そのETFとかETNというものは、よくわからないけど、「モノ」の価格でなく、「先物価格」に連動するようになってるの?

そのとおりです。さすがKONさん、わかってきましたね。

なんで、わざわざ、そんなものが必要なんだ?
先物取引をすればいいだけじゃないか。

ですよね。私も、基本的には、そう思います。

例えば、WTI原油先物取引は、海外商品先物の中でももっともメジャーな取引であり、日本でも、いろいろな証券会社で口座を開設して取引ができます。

外部リンク:楽天証券「海外先物取引」

ただし、「1バレル」とか、「1ガロン」とか、「ドル」とか、当然そういう単位が用いられるわけですが、正直、よくわからないですよね。

それに、先物取引は、前回もお話ししましたが、一定の証拠金を預託すれば、その数十倍もの資金「効率」で取引ができる、逆にいえば、価格の上がり下がりの読みが外れれば、「とても効率よく」資金を失うことなる、というハイリスクな取引なのです。

確かに。なんか、素人がそんな世界に入っていって、勝てる気はしないな。

というわけで、日本の取引所で、「円」で、まるで株式を売り買いするみたいに、原油先物価格に連動した金融商品の取引ができますよ、というふれこみで売り出されているのが、ETF(上場投資信託)とETN(上場投資証券)です。

日本の取引所でETFがはじめて売り出されたのは1995年ですから、比較的新しい金融商品であるといえます。

WTI原油価格連動型ETF(1671)

きょうは、ETFをみていきましょう。

独立系の運用会社であるシンプレクス・アセット・マネジメント(シンプレクスAM)の「WTI原油価格連動型ETF(1671)」を例にとります。

外部リンク:シンプレクス・アセット・マネジメント「WTI原油価格連動型ETF(1671)」

これは、1671の商品の仕組みについて書かれた「交付目論見書」から引用したものです。

うーん、ちょっとシンプルすぎますね。

もう少し詳しくいうと、シンプレクスAM社が、証券会社に先物を買ってもらって、代わりに信託受益証券を発行します。投資家は、この受益権を、証券会社を通じて、取引所で売り買いすることができます。これがETFです。

そのETFは、どうやって、価格が決まるの?

はい。ETFの価格は3つあります。

まず、①取引所で実際に値付けされた価格。これは、実際の需給によって変動します。

次に、②基準価額。これは、ファンドの資産総額を口数で割ったものです。これは、ファンドの資産(原油ETFだと原油先物ですね)を当日の終値ベースで計算しますので、1日に1回しか出ません。

さいごに、③インディカディブNAV(iNAV)。これは、②が当日の資産の価額変動を反映しないため、15秒ごとに当日の資産の価額変動を反映させた基準価額の推計値が取引所から逐次発表されています。

③iNAVが①取引所価格よりも高ければ、ETFは割安だぞ、ということになり、逆に①よりも安ければ、FTFは割高だということになります。これがないと、どう取引したらいいかわかりません。

ナビゲーションみたいなものだな。
このiNAVに従ってりゃ、儲かるんじゃないか?

いやいや、iNAVは、単に原資産の価額を15秒ごとに追っかけているだけですから、その将来の上がり下がりを「予言」するものではないですよ。

1671は原油先物と連動している?

ふうん。株みたいに買えるなら、なんとなく私にもやれそうな気がするな。
でも、ほんとうに価格は連動しているのかな?
ちょっと調べてみようかな。
・・・えっと、これがWTI原油先物の価格と。

WTI原油先物(ドル、3ヶ月チャート)
引用元:楽天証券 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/

で、次は、1671の価格と。

ん?これ、連動してるのかな。
特に、4月の例のマイナスになって以降の動きは、全然違うようにみえるな。原油先物の方は1か月くらいかけて価格が2〜3倍くらいに上がっているが、1671は、確かに上がってはいるが、それより動きが鈍いようにみえるな。

そうですね。なぜこのようなことになっているか、一つずつみていきましょう。

原油先物ETFと原油先物価格の乖離

さて、そもそも、先物取引については、限月があるという話をしました。

原油先物には、複数の限月のものが並存しており、各先物価格については、コンタンゴ(限月が先の期先のものほど高い) という性質があります。

だから、まず、これを、そもそも一つのチャートに納めるのは、むずかしいのです。先ほどのチャートにも「CLc1」とありますね。これは「第1限月」という意味で、最も期近の取引のことを指します。
直近限月のチャートを「つぎはぎ」して作っているのですよ。

じゃあ、そもそも、1671が、先物価格との連動を目指す、というのは、先物価格自体が複数あるから、必ずしも、第1限月物と連動しますよ、とは限らないということかな?

いやいや、1671の目論見書には、ちゃんと「WTI原油先物直近限月清算値の円換算表示の変動率」と連動する投資効果と書いてあるぜ?

シンプレクスAMは、原油先物価格との間に差(乖離)が生じる原因として、いくつかの原因をあげています。

外部リンク:シンプレクス・アセット・マネジメント「WTI原油先物とETFの関係」

ひとつは、①先物の限月変化の対象指標とETFの基準価額への影響です。毎月対象指標が移り変わります(コンタンゴによって大体は高くなります)が、そのことで、ファンドがもっている先物の価値そのものが変わるわけではない、ということです。

また、②ロールオーバーの影響です。

ロールオーバーって何?

清算日が近づいてきたら、ファンドは、そのまま現受けするわけにはいきませんから、次の期近物に買い替えなくてはなりません。これをロールオーバーといいます。

買い換えるといっても、だいたいの場合はコンタンゴですから、同じ投資額では買える枚数は少なくなります。例えば、今まで100枚買えていたものが99枚しか買えなくなると・・・

ふむふむ。そうすると、投資の効果が、99パーセントに落ちるわけだな。

コンタンゴが続くようであれば、どんどんロールオーバーしていくわけですから、長期的には、だんだん投資のパフォーマンスが落ちていきますね。乖離率は高くなっていきます。

直近限月と連動?

ここで、シンプレクスAMの開示した、ファンド保有先物の内訳を見てみましょう。

これは、開示情報として、ここで見られます。

外部リンク:日本経済新聞「1671WTI原油価格連動型上場投信」

ここでは保有するWTI原油先物の限月が記載されています。

20年08月限10,564単位
20年09月限10,881単位
20年12月限9,789単位

これは、5月29日のデータだね。
あれ・・・?ずいぶん期先の取引を買ってるんだね。

これは、しばらくは原油の需給が回復しないだろうという見立てなのかな・・・
ただし、直近限月の先物価格との連動を目指すとしておいて、実はけっこう期先の物を買っている、というのは、運用方針に反してないのかな?

期近の先物取引価格が上昇しているから買ったのに・・・という投資家もいるかもしれませんね。

まとめ

ともかく、ETFは、単純に「先物と連動している」ってわけではなさそうだね。

特に、コンタンゴが平常運転の先物との連動をするとうたう先物ETFは、中長期的には、ロールオーバーを繰り返すことによって、先物そのもののパフォーマンスよりも落ちるということになりそうです。

その一方で、原資産の価格変動の影響は大きく受けるわけです。

なるほど。「投資信託」というと、じっくり持っておくイメージがあるが、実際には、短期決戦向けの商品で、しかも原油先物価格通りの動きをするわけでもない、ということか。かなり複雑だな。
株式みたいに簡単に取引できる、という見かけのイメージに騙されないようにしないとな。

そのとおりですね。
次回は、もう一つのETNについてもお話したいと思います。


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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