目次
はじめに:提携リース問題とは
さて、先日、大阪高裁の判決の件にからめて、提携リースのことを少しブログで書いたのですが、これに対して、「実はこういう業者から勧誘を受けてるんだけど・・・」「いつの間にか額が大きくなってたけど、被害だとは知らなかった・・」という反響がありました。
前記事はこちら。
内部リンク:【速報】販売店の悪質な勧誘行為についてリース会社の責任を認め、リース料請求を一部排斥した判決(大阪高判令和3年2月16日)・その1
内部リンク:【速報】販売店の悪質な勧誘行為についてリース会社の責任を認め、リース料請求を一部排斥した判決(大阪高判令和3年2月16日)・その2
えっと、たしか・・・まとめると。
リースは、2008年か2009年くらいにうまみがなくなって、衰退産業になって、生き残りをかけて、各社が「提携リース」に力を入れはじめた、ということだったね。
そうだな。
そこで、リース業界は、提携リース(小口リース)にのぞみをかけたと。
リース会社が、提携「サプライヤー」を営業社員代わりに使って「よし、契約をとってこい」というわけだったな。
無名のサプライヤーでも、自分の名前ではなく「三○住友」とか「クレディセ○ン」とか、名の通った会社と提携しています、ということで、お客さんを信用させることができるから、お互いWin-Winの関係だ。
そりゃ、いいことづくめだよな。
そのとおりです。
提携リースについては、これまでいくつか書き溜めたものがあるので、きょうは、それをご紹介しつつ、提携リース被害の歴史を、かんたんにまとめてみようと思います。
?? なんだか、すこし手抜きっぽい感じもするなあ。
そうそう、ちょっと最近またネタ切れ気味で・・・そんなことはありません。
この問題については15年(!)以上も取り組んでいるので、ここらでちょっとまとめておこうと思いまして。
2005年ころ「悪質電話機リース」として問題化
まず、提携リースが社会問題化したのは、「電話機リース」としてでした。
20世紀から電話機についての提携リースによる被害は出始めていたわけですが、特に急増したのが、2005年前後からのことです。
下の図を見てください。
2004年度の苦情相談数は2001年の2倍以上となり、2005年度はさらにそれを上回るペースとなっていますね。
そこで、2005年12月に、経済産業省が、「悪質な電話機等リース訪問販売への対応策について」を公表し、リース業界に対し、悪質なサプライヤーを厳しく指導するよう求めるともに、通達の改訂により、特定商取引法上のクーリング・オフ(訪問販売)ができるケースがある、として救済の余地があることを確認しました。
外部リンク:経済産業省「悪質な電話機等リース訪問販売への対応策について」(PDF直リンク)

ここでは、2つのことが重要です。
まず、特定商取引法2条の「販売業者」にあたる、としています。リース会社は「訪問してるのはサプライヤーであって、リース会社でないから、リース会社は販売業者ではない」ということをいってくるわけですが、それはだめですよ、ということですね。
なるほど、リース会社はお客さんに直接あわないけれど、「リース」という仕組みでサプライヤーを使っているわけだから、リース会社も訪問販売業者だ、ということなんだね。
つぎに、特定商取引法26条1項1号の「事業」のための契約ではないと考えられるケースもある、ということですね。
一例として、事業の規模が零細であったり、廃業同然であれば、リース物件が有益ではない、ということか。
そうです。実際に、その業者の利益をはるかに上回るような月額リース料が設定されているケースなどもあるのですが、そのようなケースでは、そもそも「事業」のためになっていない、ということですね。
このへん、とくにクーリング・オフができるかどうかについては、こちらをご覧ください。
外部リンク:「電話機リース問題の構造(1)」『御池ライブラリー27号』、2008年、9頁
「電話機リース」問題から「提携リース」問題へ
ところが、問題は、電話機だけにはとどまりませんでした。
複合機やセキュリティ機器などのオフィス機器だけでなく、本来、リースができないウェブサイト制作などのサービス(役務)をリースするという事例などもあらわれてきて、問題は、より深刻になっていきます。
なるほど、「電話」が問題なのではなく、提携リースそのものの構造がはらんでいる問題だ、ということなんだな。
そのとおりです。その構造については、こちらをご覧ください。
外部リンク:「電話機リース問題の構造(2)」『御池ライブラリー33号』、2011年、30頁
2012年〜2013年の3つの判決
その後、2012年、大阪地裁で注目すべき2つの判決が出ました。
ひとつは、大阪地判平成24年5月16日金融・商事判例1401号52頁です。これは、架空のソフトウェアをリース物件として実質的にはウェブサイト制作契約を行ったケースであり、いわゆる「役務を背景としたリース」です。これについて、リース会社の責任を認め、信義則上、未払いリース料の請求について全部排斥しました。
ふむ。これは、ホームページリースというやつか。
こないだも出てきたな。
もうひとつは、大阪地判平成24年7月27日判例タイムズ1398号159頁です。これは、提携リースについて、サプライヤー指導管理義務を認め、これに違反した不法行為責任を認め、支払済みリース料の返還も認めたものです。
外部リンク:「電話機リース問題の構造(3)」『御池ライブラリー36号』、2012年、28頁
さらに、そのあと、2013年に、ウェブサイト制作などの役務提供を背景としたクレジット契約でも、より端的に、クレジット契約の錯誤無効を認める判決が出ました。
京都地判平成25年7月30日判例集未登載(これは私=住田浩史が顧客側代理人となった事件です。)です。
外部リンク:「電話機リース問題の構造(4)」『御池ライブラリー38号』、2013年、19頁
新たな被害類型:キャッシュバックリース、多重リース
私も、これで、提携リース問題は解決、収束に向かうだろう、と思っていたのですが、ところが、提携リース問題は、なかなかしぶといのです。
それは、前に言ってたキャッシュバックリースとか、つぎからつぎへとリースさせるやつ?
そうです。
これこそ、リースの病理現象の究極型ですね。被害額も1000万円を超えるものもあり、とても深刻です。
2014年には、この種のリースについて、一部、リース会社の責任を認める判決が出ました。
京都地判平成26年5月23日及び京都地判平成26年7月11日(これは私=住田浩史が顧客側代理人となった事件です。)です。なお、いずれも判例集未登載です。
外部リンク:「電話機リース問題の構造(5)」『御池ライブラリー43号』、2016年、30頁
自主規制規則の制定・・・しかし被害はなくならず
これらを受け、ようやく、2015年にはリース事業協会が「自主規制規則」を制定し、提携サプライヤーの指導をする、という体制ができたかのようにみえたのですが、実際には、提携リースによる被害は、いまもなお、発生し続けています。
そして、その後、先日記事を書いたとおり、2021年にはようやく大阪高判令和3年2月16日が出た、というのが、最近の流れですね。
なるほど、これだけ長期間、同じ問題が繰り返されてきて、リース業界には、自浄能力はないのか?
そうか、監督官庁も規制法もないんだったな・・・
きょうは、提携リース被害の長い歴史をみてきました。
やっぱり、リースを規制する特別な立法が必要なのではないでしょうか。