目次
はじめに
さて、きょうは、久しぶりに、投資関係の話です。
昨年の2020年の5月くらいに、Covid-19(新型コロナウィルス感染症)の流行がもたらした「原油先物価格のマイナス」というお話をしましたよね。
そうだったな。「油揚げ」先物取引というのがあったなあ。
結局、先物取引は、ハイリスクでほとんどの人が負けてしまう取引なんだったな。
そうそう、原油先物価格がマイナスになる、というへんてこな話があったけど、それと連動させようとしてもあんまりうまくいかない商品もあったね。えっと、たしか・・・ETFとかETNっていうんだっけ。
どっちにしても、わたしには、そんなよくわからない取引は、できないや。
いつもパソコンの画面とにらめっこしてないといけないんでしょ?
はい。先物取引も、先物ETFも、ハイリスクなだけでなく、仕組みとして、いったん買って、あとはのんびり待つ、ということはできない商品でしたね。
もう少し詳しく知りたいよ、というかたは、こちらをぜひどうぞ。
内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その1
内部リンク:原油先物価格がマイナスになるとはどういうことか・その2
内部リンク:原油先物価格を指標とする上場投資信託(ETF)・上場投資証券(ETN)の危険性
きょうは、これと違って、いったん買ったあとは満期まで何もしなくてもいい、という商品を紹介しますよ。
その名も「仕組債」です。
仕組債は「デリバティブが組み込まれた債券」
仕組債。聞いたことないけど、そんなのがあるんだ。らくちんでいいね。
わたしも、それ、ほしいな。先物みたいにせわしなく動かなくていいんなら最高。
ふうん、なんだか怪しいな。そんなの、利回りが悪い、とかいろいろ不利な点があるんだろう?
いえいえ、仕組債は、利率が売りの商品です。利率はとてもいいですよ。年利10%を超えるものもあります。
私が、10年前くらいに野村證券との裁判でみたのは年利20%くらいありましたよ。
サラ金の利息より高かったので、ほんとうにびっくりしました。
年利20%! すごい! やりたい! 教えて!!
まあまあ、おちついてください。
まず、仕組債とは何か、ですが、ひとことでいうと、「デリバティブが組み込まれた債券」ということになります。
債券とは
うーん、なるほど、わからん。
まず、「債券」ってなんだ?会社が発行する「株式」とは違うのか?
「債券」というのは、会社や国、地方公共団体などの団体が資金調達のために発行する有価証券のことです。
社債、国債、地方債、なんて、聞いたことあるでしょう?これらはみんな債券です。
投資家や金融機関は、これを買って、利息をもらうなど、投資対象とするのですよ。
デリバティブとは
そこまでは、わかったよ。
じゃあ「デリバティブが組み込まれた」ってなんだろうか?
デリバティブは、以前、先物取引のところで、少しだけ勉強しました。先渡取引(現物取引)と先物取引(デリバティブ)は、似ているようで違うんでしたね。主に、何が違うんでしたか?
ええと、先渡取引は、なんだかんだいって、実際に、ある一定の日に現物を買ったり、売ったりしないといけないんだったよな。
そんでもって、先物取引は、現物をやりとりすることはめったになくって、反対の取引をして、その差額だけを支払うかもらうかする、ということをするんだったな。
これが違いか?
そのとおりです。デリバティブは、現物差金決済Contract For Difference(CFD)ですませちゃう、ということがほとんどですね。
そのようなことができるのは、デリバティブが、株式や商品などの資産そのものを取引しているのではなく、資産の「派生物」を対象として取引しているからなのです。
派生物ねえ。もひとつピンとこないけど・・・
そうですね、デリバティブderivativeの、deriveとは「抽出する」という意味ですね。
具体的な商品そのものから、ひゅっと、何かを引き出してきた、とイメージしてください。手品みたいに。
先物取引の場合は、その商品から「ある時点の価格」を引き出してますよね。
そのほか、いろいろあります。株式から「株価」を引き出したり、お金から「為替レート」を引き出したり。
まあ、なんとなくは、わかってきたかな。なんとなくだが・・・。
「デリバティブが組み込まれた」とはどういうことか
はいはい、なんとなくでいいですよ、大丈夫です。
さて、いよいよ本論です。
今までの議論を前提に、冒頭に紹介した新聞記事をみてみましょう。
このSMBC日興証券「大手証券会社」の商品をみてみましょうか。
よーし、読んでみるぞ。
えー、なになに・・・まず年利9%の債券なんだけど、おお、すごいね、5年経ったら45%も儲かる。すごいなあ。
だけど、「日経平均株価とブラジル通貨レアルの為替相場の両方を指標に償還額や金利を設定しているのが特徴だ。いずれの指標も一定水準を超える『ノックアウト』だと、投資額と同額の元本が早期に償還される。だが一方、逆にどちらかが一定の水準を下回る『ノックイン』だと、満期時の元本損失が指標の下落率の2倍となり、大幅に拡大。金利も別の水準以下になると、数%が0%台に落ち込む。」
(引用元:上記記事)
だめ、う-ん、さっぱりわかんない。どういうこと?それに、どこにデリバティブが組み込まれているの?
うーん、むずかしいですよね。書いてあること自体を理解するのがほんとうに苦労します。
かんたんにいうと、債券は債券だけれども、利率、償還時期、償還額が、「日経平均株価」と「円/レアル為替レート」という2つの指標がどのような値をとるかによって、大きくかわってきますよ、ということですね。
う-む。それで、なんで、これは、デリバティブを組み込んでいることになるんだ?
わかりやすいのは、償還額ですね。
「どちらかの指標がある価格以下に一度でもタッチすると、償還額が少なくなる」というのは、実は、「ノックインプット・オプションの売り」というデリバティブの取引とまったく同じ得失構造なんですね。
あのー、なにいってるんですか・・・?意味、分かんないですよ。
プット・オプションの売り
じゃあ、オプションの説明をしましょう。
オプションとは、デリバティブ取引のひとつで、①ある時期に、②ある商品を、③ある価格で売り買いする権利をやりとりする、という取引です。
へえ、なんだか、先物取引に似てるね。でもあれは、権利をやりとりしているわけではないよね。
そうですね。買う権利のことを「コール・オプション」といい、売る権利のことを「プット・オプション」といいます。
ですから、オプション取引には4種類あるわけですね。「コール・オプション」の買い、「コール・オプション」の売り、「プット・オプション」の買い、「プット・オプション」の売りです。
で、仕組債に必ずといっていいほど使われているデリバティブは、「プット・オプションの売り」であるといっていいでしょう。ですので、「プット・オプションの売り」だけ、みてみますね。もし、興味があれば4つすべてについて考えてみてくださいね。
例えば、きょう、AさんがBさんに、近江牛を2021年1月31日(基準日)に1000円で売る権利を、100円で売ったとします。
「売る権利の売り」ですから、これは「プット・オプションの売り」ですね。権利の買い主のBさんが100円を払ってAさんから「売る権利」をゲットすることになります。
では、まず、基準日に価格が1500円になっていた場合。Bさんは「売る権利」を行使するでしょうか?
ん・・・ちょっとまてよ・・・普通に1500円で売れるのに、1000円で売るバカはいないよな。
Bはなにもしないんじゃないか?
そうだね。
そうすると、Bさんは、最初の100円だけ損した、ということになるね。Aさんは100円の儲けだね。
そのとおりですね。では次。
次、基準日に価格が600円になっていた場合。Bさんは「売る権利」を行使するでしょうか?
絶対するでしょ。だって、ほんとなら600円のものを特別に1000円で売れるんだよ。得だよね。
いやいや・・・そもそも、誰に売るんだ?そんなの、誰も買わないだろ?
いやいや、それでは取引になりません、実は、権利と義務は表裏一体なので、この場合、Aさんは「買う義務」があるのです。無理やり。
オプションの売り、というのは、要するに、オプション料と引き換えに義務を引受ける、ということなんですね。
そうすると、Aさんは、400円損をして、でも最初に100円もらってるから、差し引き300円の損だね。
Bさんは300円の得。
なんだか、Aさん、保険会社みたいな立場だね。保険料をもらって何かあったときだけ払う感じだね。
KONさん、非常に鋭いですねえ。そうです、プット・オプションの売りは、まさに保険会社のように「危険を引き受ける」立場ですね。
再び仕組債
さてさて、再度、日経平均・レアル債に戻ってきました。
ん?すこし、わかってきたかも・・・
これ、債券を買った人は、日経平均株価とレアル為替レートのプット・オプションの売りをしているのと同じなんじゃないの?ノックインとかはよくわからないけど。
要するに指標が下がったら、その下がった価格で買う義務が生じて(その分、損をして)、指標が下がらなければ、そのまま利息の分だけ儲かると。おんなじだよね。
なるほどな、そんなら、その「利息」というのは、その実質は、オプション料のことなんだな。
債券のふりをしてるが、実際には、顧客にオプションの売りをさせていたのか・・・。
しかし、なんでまた、そんな回りくどいことをするのかな。単純に、顧客とオプション取引をすればいいとおもうのだが。
仕組債の旨味/おそろしさ
はい。まさに、そこが、仕組債の旨味なのです。
まず、証券会社は、お客さんになかなかオプション取引、しかもハイリスクのプット売り(利益は一定以下、損失は底なし)なんかはなかなかさせられないですね。でも、「オプション」「オプション料」を「債券」「利息」という名前に変えると、どうでしょう。
あら不思議、なんとなく知っている親しみのある商品になりますね。なんといっても、いったん買って、満期までもっていればいいわけですから。
また、債券の購入額を高く設定して、利ざやを得ることもかんたんです。
仕入れ値に何%かをオンして売れば、その時点で儲けが確定ですね。お客さんは「利息」は債券のパフォーマンスだと思って買うのですが、実は仕組のリスクそのものに対する保険料を受け取っているのですね。だれも自分が保険会社の立場に立つとは思っていないでしょう。
また、単純なオプションだと仕入値との差額(ボッタクリ)がバレてしまうので、オプションにノックイン・ノックアウトなどの複雑な条件を設定し、判断をしづらくさせるということもされていますね。
さらに、顧客にとって、致命的なのが、途中で売れないということです。この商品はオーダーメイドで流動性(市場でかんたんに売り買いできるかどうか)がなく、「債券」なのに、売り買いが不可能です。
これが、オプションならどうでしょうか。オプションは市場で売り買いできるので、「あ、これは見込みと違ったかな」と考えれば、途中で損切りすることができます。
あ 単に満期までずっともってるだけでいいんだ、というのはメリットじゃなかったのね。
そうですね。これは流動性リスクといって、投資商品の重大なリスクのひとつです。いったん買ったら地獄の果てまでお付き合いすることになります。
でもその流動性リスクって、顧客からは、なかなかみえづらいんです。これが「リスク先送り」というテクニックです。
むすびに
さて、こういうことで、仕組債は、仕組みがわかっているひとは絶対に買わない商品です。
わかってないひとだけが買う商品です。
そのことは証券会社は、じゅうじゅう知っているはずです。こんな商品、そもそも売っていいんでしょうかね。
最近、「消費者契約の法と行動経済学」(オレン バー=ギル著、太田 勝造訳)という本を読んだのですが、そこには、消費者に経済的にみて不合理な判断をさせる方法として、「複雑化」と「リスク先送り」という2つの要素が挙げられていました。
そこには、具体例として、携帯電話の契約、クレジットカードの契約、住宅ローンの契約について説明がされていました。とてもおもしろかったです。
仕組債もまさに、その2つの要素を存分に活用して、消費者に不合理な判断をさせる商品だと考えます。
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