プラットフォームの民事責任と「幇助」: 「漫画村」広告代理店の不法行為責任を認めた東京地判令和3年12月21日判決(2022.2.11更新)

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「漫画村」ネット広告は不法 代理店に1100万円賠償命令―東京地裁

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021122100984
時事通信社 2021.12.21

「漫画村」の広告を扱った広告代理店に対する訴訟

令和3年って・・・また、去年の話・・・?

このサイトは「最新のニュース」解説ではなかったかしら。

言い訳ではないのですが、この事件、昨年末に出たんですが、判決文が最高裁のウェブサイトに掲載されたのがつい最近だったんで、記事をかけなかったのですよ・・・。お許しください。

外部リンク:最高裁判所 裁判例情報 東京地判令和3年12月21日(PDF直リンク)

へえ。

「漫画村」って、例の、人気マンガを違法に大量にアップロードしてた、海賊版サイトだろ?

もう、あそこは閉鎖されたときいたけど。

この裁判は、マンガの作者から「漫画村」のサイト運営者に対して、賠償請求をしているのか?

そうではありません。

原告は、漫画家です。

被告は、「漫画村」に掲載する広告の出稿者を募集し、出稿者から広告料を受け取り、そこから自社の手数料を引いた広告費を「漫画村」に支払っていた広告代理店2社です。

関係者を整理すると、こんな感じになりますね。

原告は、被告らが行っていた広告掲載関連業務を、海賊版サイトに資金を提供するものに等しく、違法行為を助長するものだ、として漫画村を「幇助」(ほうじょ)するとして、被告らに、損害賠償を求めたのです。

この判決、後でお話しますが、実は、デジタル・プラットフォーム(DP)の民事責任を考える上でも、とても興味深い内容なのです。

では、みていきますね。

「幇助(ほうじょ)」とは

うーん、難しいな・・・

「ほうじょ」っていうのは、聞いたことがあるけど、そもそも、どういうことなんだ?

「幇」も「助」も、どちらも助ける、という意味です。法律用語は、簡単な言葉をわざと重ねて難しくいう風習があります。ここでは、たんじゅんに、「助ける」という意味だとお考え下さい。

民法では、このような規定があります。「共同不法行為」(共同で違法なことをやること)について、損害賠償を求めることができるという条文ですね。

民法719条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
 行為者を教唆した者及びほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

質問。

あのさあ、719条1項のほうに「共同の不法行為」ってあって、2項には「教唆」(きょうさ)とか「幇助」が出てくるけど、どうちがうの?おんなじじゃないの?

いや、ちょっと違うんじゃないか?

1項の方は、主犯格というか、というか、メインでやったやつのことを想定しているんだろ?

2項の方は、サブ的に、ちょっと助けたとか、そそのかした、とかそういうやつだろ?そのへんの違いなんじゃないか?

そうかなあ?

けっきょく、「一緒にやった」ということが問題なんでしょ?分ける必要があるのかな。

なかなか鋭いですね。

民法学者の考え方は、最近は、KONさんのおっしゃるとおり、1項と2項をあんまり区別しない考え方が多いようですね(確認的規定説)。

ともあれ、いずれにしても、悪いことをする人も、それを助ける人も、等しく被害者に対しては損害賠償責任を負いますよ、というのが、この民法719条という法律です。

事件の争点は?

さて、「広告会社がサイト運営者を助けた結果、原告に損害が生じた。だから賠償せよ。」という原告の主張(判決3〜5頁)はけっこう当然のように思えますが、これに対して、被告らは、大きくわけて、3つの反論をしました。

ひとつは、①「いやいや、うちが広告掲載契約をする前から、原告のマンガはもうウェブサイト上に掲載されていましたよ。だから、その時点ですでに損害が発生しているのであって、うちが漫画村のサイトに広告料を払ったことと、原告の損害発生は、まったく関係ありません。」との反論です(判決5〜6頁)。

なるほどねえ。

そう言われてみれば、そうかもねえ・・・

2点目は、①よりももうすこし本質的な反論なのですが、②「そもそも、今回、悪いのは誰かって言ったら、著作権侵害をしている漫画村ですよね。広告費を出稿者から預かって漫画村に支払ったことが、直接、著作権侵害という結果をもたらすわけではないですよね。そんなこといったら、著作権侵害をしている人とビジネスしているひとはみんな損害賠償義務があることになっちゃうけど、そんなの、おかしくないですか?」というものです(判決6頁)。

ふむ。これも一理あるな。

そうだな、広告ビジネスそのものが「悪」だというわけではないような気がするな。そんなこといったら、商売なんかできないよ。

3点目は、故意・過失についてです。③「広告掲載活動が客観的に『幇助』にあたるとしても、外形上明らかな違法サイトであればともかく、著作権侵害については、サイトの外形上わからないから、故意がない。それに、全ての広告掲載先について著作物の利用許諾について確認することなどできないし、そもそも、レップはともかくとして、直接「漫画村」と契約していないうちにはそんな義務もないので、落ち度=過失もない。だから責任を負わない。」という主張です(判決8〜10頁)

ほかにも損害論(結局、このサイトのせいで漫画家が被った損害をいくらと評価するか)などについて、興味深いいくつかの争点があるのですが、主たる争点は、被告らの行為はそもそも「幇助」といえるのか、そしてそれについて故意・過失があるのか、についての①②③の点、ということになります。

判決は?

さて、では、判決は、これらの点について、どのように判断したのでしょうか。

まず、さきほどの①の点ですね。 これは、けっこうかんたんな話で、サイト閉鎖まで著作権侵害が継続していたのだから、「違法状態の継続は、被告らによる広告費の支払いによって助長され容易にされていた」(判決17〜18頁)から、幇助行為ですよ、と認定されました。

まあ、これはそうだよね。

つぎに、②です。これは、判決も一応、被告らの「広告掲載に関する営業活動一般が、一概に著作権侵害を招来する現実的危険を内包するものではないということはできる。」としながらも、「広告料収入が唯一の資金源」だったことから、被告らの行為=「広告主からの依頼を取り次いで本件ウェブサイトの運営側に広告料を支払うこと」は、「本件ウェブサイトによって行われている著作権侵害を助長し、容易にする現実的危険性を有する行為」だと評価したのです(判決18頁、より詳しくは16頁)。

うーん、これは、正直、ちょっとよくわかんないなあ。

広告料が「唯一の資金源」だからだめ、という理由付けになるのかなあ。

たとえば、これが会員制のサイトで、会員からの会費収入もあって、でも広告もやってるよ、というようなサイトの場合は、広告代理店の責任は、認められないんだろうか。

なんとなく違うんじゃないかなあ、という気がする。

私も、唯一の資金源であったことは重要だし、結論としてもこの判示は正しいとは思いますが、もっと、より本質的な話ができたのではないかと思います。

これは、共同不法行為論にもかかわるので、ちょっと難しくなるので割愛。

さらに、③についても、広告業界団体の中に海賊版サイト問題を取り扱う専門部会ができていたことなどから、遅くとも広告配信サービスを開始した時点で、漫画村が著作権侵害を行っているサイトだという「蓋然性を認識」しており予見が可能だったとした上で、漫画村の「実態」(1日に何億回ものビューがある)についての認識に基づき、その「広告掲載効果が比較的高い」ものと考え、自ら積極的に「営業上の利益」を挙げていた以上は、「ウェブサイトの運営者が、そこに掲載する漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で、本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていた」とし、そして、その注意義務違反を怠った、としたのです(判決19〜22頁)。

このへん、ぜひ、じっくりと判決を読んでみてください。

決してわかりやすくはない判決ですが・・・。

デジタル・プラットフォーム(DP)とインターネット広告

まあ、完全ではないけど、だいたいは、判決のいわんとしていることはわかったよ。

で、これは、なんでDPのはなしにつながるわけ?

まず、第一に、インターネット広告の世界は、もはやDP事業者とは切っても切り離せない業界になっている、ということです。

次の図をみてください。

引用元:「デジタル広告市場の競争評価 最終報告 概要」2頁 内閣官房デジタル市場競争本部事務局
https://www.soumu.go.jp/main_content/000750217.pdf

うーん。なんのことやら・・・

インターネット広告というと、むかしの「バナー広告」とか、そういうのをぱっと思いつくけど、いまの時代は、そんなに単純じゃないんだね。

そうなんですよ。

むかしは、単に、お店の壁にポスターを張り出すのと同じで、ウェブサイト上の場所を広告枠として借りて、そこに広告を張り出す、ということをやっていました(純広告)。

いまや、インターネット広告の主流になっているのは、「運用型広告」といって、リスティング広告(検索連動型広告)や、SNSなどに表示される広告など、デジタル・プラットフォームが自分の媒体を用いて行う広告のほか、アドネットワークやDSP(広告主サイドのプラットフォーム)やSSP(パブリッシャーサイドのプラットフォーム)として介在して、入札で出稿者と広告費を決めるという広告です。

とにかく、広告の世界でも、巨大なDPの存在感が大きくなっているのです。

この裁判でも、広告代理店は、「漫画村とは直接契約していないから、ウェブサイトのチェックもできないし、いくらお金がいっているかもわからない」と主張していたな。

「間に誰かが入っている」というのは、責任を逃れるための典型的な言い訳だな。

この事件では、広告代理店よりもさらに漫画村サイドに近いといえるプラットフォームである「アドネットワーク」は被告になっておらず、その責任については追及されていませんが、もし、これが追及された場合には、どうなっていたでしょうか。

「幇助」構成とDPの民事責任

もうひとつ、より重要な話ですが、この「幇助」(とくに「過失幇助」)構成の射程が、「DP参加者がなにか悪いことをしたときのDPの民事責任」一般にも及ぶと考えることができるのではないか、ということです。

これまで、デジタル・プラットフォームの民事責任については、4つほど、それぞれ違った観点から、記事を書いてきました。

ウーバーイーツ事件については、こちらを。
内部リンク:ウーバーイーツは配達員の自転車事故の責任を負うか〜デジタル・プラットフォームと使用者責任〜

アマゾンマーケットプレイス事件については、こちらを。
内部リンク:アマゾンは出品者の商品の欠陥によって生じた火災について責任を負うか〜デジタル・プラットフォームの不法行為責任〜

デジタル・プラットフォーム運営事業者の民事責任についての議論状況については、こちらを。
内部リンク:デジタル・プラットフォームの民事責任

提携リースとデジタル・プラットフォームの責任については、こちらを。
内部リンク:提携リースとプラットフォーム問題

このような「幇助」構成については、上記の記事(上から3番めのやつ)でも紹介しましたが、例えば、仙台高裁*1や東京高裁*2などが、これまで、詐欺的業者にツールを提供した業者の責任を認めるロジックとして認めています。

*1 仙台高判平成30年11月22日判例時報2412号29頁は、詐欺的商法に利用されることを認 識しつつ、詐欺的商法を行う業者 A に対して携帯電話を貸し出したレンタル携帯電話業者(被控訴人 Y1)について、
「被控訴人Y1は、Aに貸与した携帯電話が、本件で控訴人が被害を受けた電話勧誘によるデート商 法詐欺を含む詐欺等の犯罪行為に悪用される可能性が極めて高いことを具体的に認識しながら、そのような犯罪行為を助ける結果が生じてもやむを得ないものと少なくとも未必的に認容した上で、被控訴人会社から A に貸与したものと認めるのが相当である。
  このように、被控訴人らが犯罪に悪用されることを未必的に認容していたとの判断は、被控訴人会社がレンタルした携帯電話が実際に犯罪に悪用されていたことを知っていたにもかかわらず、犯罪に悪用されかねない契約の態様等をとっていたことに照らすと、仮に被控訴人Y1 が、その供述するように当初の貸与に先立って A と公園で面会して偽造された運転免許証の原本を確認した事実があったと しても、これにより左右されるものでない。 したがって、被控訴人らには、控訴人が被害を受けた前記第 2 の 2(1)の詐欺被害について、そのような詐欺行為を助け、詐欺による被害が生ずることについて、包括的かつ未必的な故意があったと認めるのが相当である。なお、仮に、故意がなかったとしても、上記認定判断によれば、被控訴人らに は、上記詐欺被害が生ずることについて具体的な予見可能性があったということができ、それにもかかわらず携帯電話を貸与したことには過失があるというべきである。」と判示して、Y1 の責任を否定した原審判決を破棄して、その不法行為責任を認めています。
*2 東京高判平成 29 年 12 月 20 日判例時報 2384 号 20 頁は、投資詐欺業者に事務所を貸与したことをもって過失による幇助を認めた類似の裁判例です。

なるほど、この判決では、広告代理店が、漫画村にとって欠かせない資金源供給者であった、ということが強調されているけど、DPも、商売するのに欠かせない存在だもんな。

DPは「場の提供者でしかない」って言うけどさあ、ほんとは、そうじゃないよね。

たしかにこの理屈だと、DPの民事責任を追及できる場合がふえるかもしれないね。

Oike Library に掲載予定(2022.2.11追記)

さて、さしあたり、この判決については、こんなところです。

すこし肉付けして文章にしてみました。

これは、今後、校正の上、2022年4月発行の「Oike Library」55号に掲載予定ですので、そちらもまたよろしくお願いいたします。

外部リンク:御池総合法律事務所 Oike Library


著者

住田 浩史

弁護士 / 2004年弁護士登録 / 京都弁護士会所属 / 京都大学法科大学院非常勤講師(消費者法)/ 御池総合法律事務所パートナー

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